罪悪の本命
「はい、これ。プレゼント!」
学校から彼女の自宅まで送ってきたところ。玄関で引き止められて渡されたのは、小さなひとつの紙袋。やっぱり、あるんだ。そんな冷めた目で見下ろしてしまう。
「もちろん本命だよ。頑張ってつくりましたっ」
自信ありげに胸を張る彼女は、確かにお菓子作りの腕が良い。美味しいことに違いないから、自信を持っているのは良いことだ。
視線を向けて、柔く笑ってみせる。ありがとうと言うと、頬を紅潮させた彼女は逃げるように家の中へ入っていった。
すぐに背を向け、帰路につく。手の中の紙袋に、表情を曇らせた。中を覗くと、形の良いトリュフチョコレートが見えるように並べられている。
僕のために手間暇かけて作ったんだろう。僕のために紙袋も選んで、僕のために何を作るのかたくさん悩んだはずだ。
そう思うと、紙袋を投げ捨てて今すぐにでもここから去ってしまいたい気持ちに襲われた。焦燥感、不安、恐怖。どれとも言えぬ、混ざった感情。
涙が地面に染みを作る。ごめんね、と。口から自然に溢れていた。
僕はもう、彼女のことを好きじゃない。
自覚すればするだけ、胸が強く痛む。せっかく彼女が作ってくれた本命チョコにさえ、喜べなくなった。自分の愚かさが、身勝手さが情けない。
顔を曇らせたまま自室まで帰ってきた僕は、チョコをひとつ口に含む。ビターなココアパウダーの苦味。直後に溶けていく濃厚なチョコレートの甘味。
やっぱ、お菓子作るの、上手いよなぁ。
そんなことをふと思っては、首を絞められているような苦しさを覚えて
また涙が静かに落ちていたのだった。