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喫茶『Stern』 〜 月曜日の珈琲 〜  作者: 夏川 流美
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声は笑った。

"その時"がきたんだ、と聞こえた。私はその声に応えた。



「こうなる運命だと、ずっと前から分かっていた。だけど、不安だよ」



 声は笑った。馬鹿なことを言うな、何も不安に思うな。と笑った。でも……と言葉の詰まる私の指先に触れた。


 最後に別れを告げられて良かったよ。笑い声から一転して、震えた悲しい声になった。触れられた指先から、冷たい体温を感じた。



「また何かあったら、助けてくれる?」



 こうして話している間にも消えていってる気がして、激しい焦燥感を覚えた。心音が煩く、寂しく、痛く、体中に響いた。


 離れることが運命だった。これは始めから決められていた。もう頭では分かっていたのに、いざその時が来てしまうと酷く孤独に思える。


 私と声はそれくらい一緒に生きてきた。気付いた時にはそばにいた声に、幾度となく助けてもらい強くなってきた。




 おそらく小学低学年の頃に、私の中に生まれたもう一人の私。世の中の人はこれを、二重人格と言う。


 馬鹿にされることが多かった。二重人格になる前は、あまりにも思い悩みすぎて毎日トイレで吐いていた。小学生ながらに、ひょっとしたら治らない病気なんじゃないか、と不安に駆られ、それがまた吐き気を催した。



 けど。


 もう一人の私のおかげで救われた。馬鹿にされることがなくなった。吐くこともなくなった。守られながら経験を積むことで、段々と強くなっていった。私のおかげで、私は生きてこられた。




 しかし、もう時間みたいだ。

 声は、助けられないよ、と毅然とした声色で言った。



 じゃあ、また会えるかな。と聞くと、会いにこないよ、と素っ気なく言った。


 そうか、本当に別れてしまうのだと実感した。涙が両手から溢れ落ちた。だけどそれはすぐに拭い、私はひとり、笑って見せた。





 途端、心から何かが抜け落ちていった。二度と埋まらない穴が、私の心に出来上がった。


 この穴が私だったことを大事にしようと誓った。強くなったね。声が最後に言い残してくれた、その言葉と共に。

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