ホットミルク
レンジから取り出した。熱いマグカップで火傷しないよう気をつけて、慎重にテーブルの上に置く。ホットミルクが波を打つ。
テレビをつけた。前に映画を観た時のままだった音量を大慌てで下げて、番組表を開く。この時間、特に決まって見るものはない。
ぬいぐるみを抱きしめた。目の奥から込み上げる、熱を持った水滴がこぼれ落ちないよう。長毛の触り心地に癒されながら、強く強く抱え込む。
ホットミルクに蜂蜜を入れた。ティースプーンで少しずつ垂らし、かき混ぜていく。すっと沈んで見えなくなる黄金色で、どうにかハートを描いてみようとしたりして。
そうして、ようやく口に含んだ。
鼻に抜けるいつもと違う香り。ミルクの甘さを際立たせる蜂蜜の味。ほっと一息ついた。
これだった
私が彼にいつも作ってもらっていたもの。
とうの昔に別れた彼が、当時作ってくれていたもの。
ずっと忘れてた
けど本当は、忘れたふりをしていただけ。
優しい甘さに酔いしれる。
今となっては彼を思い出して泣くことはない。
でも、今日みたいに涙が出そうなほどに疲れた時。
彼が作ってくれたみたいに、これからはこうしてホットミルクを作ろうかな。
ようやく、彼を思い出にすることができたから。




