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ラーメン屋の特等席
「豚骨ラーメン、特盛で!」
私の視線の先、カウンター端に座る彼は、そう注文する。華奢でしなやかな体をしていながら、いつも特盛を食べていた。
いつだったか、何かのタイミングで彼の食べている姿が見える位置に座ったことがある。バレないようにこっそりと観察していたが、器からはみ出る程の盛り付けはあっという間に無くなった。
細い体のどこに、あの量のラーメンが吸収されているんだろう、と疑問に思っていた。来る度に見かける彼の後ろ姿に、気付けば毎回目を奪われていた。
今日は、彼を初めて見かけた日から半年になる。半年も執着していたわけではなくて、気になり始めたのはつい最近だけれど。
もし声をかけたら、話してくれるだろうか。隣に座って一緒にラーメンを食べたり、できないだろうか。彼の食べている姿を、特等席で見てみたい。
彼がうんと背伸びをして、一息吐いた。店員さんに挨拶をして立ち上がった姿を見て、慌てて立ち上がる。
決まっていた、私の第一声。
「あの!
――貴方と一緒にラーメンが食べたいです
……なんて」




