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何も言わない
ずっとこのままでいい。
寄り掛かった彼の肩から、息遣いを感じる。ゆっくり吸って、静かに吐き出していく酸素。
包み込まれた手からは、彼の熱を感じる。じんわり広がっていく暖かさに、これ以上ない安心感を覚えて。握り締めれば握り返してくれる。隣にいるのだと伝えてくれる。
変わらなくていい。
時が止まってしまえばいい。
そうすれば彼は決して私から離れることがないから。
ねぇ、私、怖いんだよ。
「好きだよ」
「あぁ、ありがとう。俺もだよ」
そう答えてくれるのは言葉だけで、視線は私と交わらない。微笑んでくれることすらない。
本当は、私のことがもう好きじゃないんだと分かっていた。
でも、彼は何も言わないから。隣に居ようとすれば居てくれるから。
だから、離れたくなくて。
だから、怖かった。
いつ告げられるか分からない別れを、待つだけのこの時間が
私は、怖いよ。




