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喫茶『Stern』 〜 月曜日の珈琲 〜  作者: 夏川 流美
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最低な最善策

 だって、おかしいだろ。


 彼女とはもう十数年の付き合いになる。互いの家に遊びに行くのは普通だし、一緒に出かけるのも普通だし、学校でもたまに一緒に昼飯食べたりとかもしてたし、委員会も部活も一緒だし。



 委員会の仕事を手伝ってやれば、はにかんだ表情で「ありがとう」って言う。ちょっと頬を赤らめてさ、恥ずかしそうな顔を見せる。


 試合で俺が勝つと、毎回「かっこいいね」って褒めてくれた。「やっぱ敵わないやぁ」って言う表情だってどこか嬉しそうだった。


 昼飯を食べる時には、卵焼きを求めてくるから代わりにブロッコリーを貰ったりして、たったそれだけで無邪気に喜ぶ姿があったし。



 なのに、なんだこれ。




「両想いだったんでしょ? 超おめでとうー、ほんと羨ましいよー!」



 能天気に祝っている彼女の親友。前に並ぶのは照れ臭そうに笑みを浮かべた彼女と、隣のクラスの男子。「付き合いました」って、まじでなんだこれ。なんの報告だよ。



 間違ってるだろ。両想いなのは俺と彼女だろ。なんで別の男と付き合ってるんだよ。俺のことが好きだったんじゃねぇのかよ。そういう思わせぶりな態度ばっかしといて、この結果か。


 じゃあなんで俺のこと拒まなかったんだよ。昼飯もそいつと食べれば良かっただろ。好きでもない俺のこと、持ち上げて手伝わせてたのかよ。委員会も部活も、もう手伝ってやんねーよ。くそ。




 あー、まじでない。がちでありえねぇ。




 ふつふつと煮えたぎる心臓を、握りつぶして切り裂いてズタズタにしてやりたい。目ん玉かっぽじって地面に叩きつけて踏みにじった後に見せつけてやりたい。フォークかボールペンか、とにかく鋭利なもので腕を滅多刺しにして血塗れにしてやりたい。



 頭ん中で苛立ちが処理しきれなくて、目眩のする感覚が全身に落ちていく。こいつらともう関わりたくねぇ。俺の想いを弄ばれた気がして堪らねぇ。どこの誰にぶつければいいんだよ、こんなくそでけぇ感情を。






「――くん。もう帰ろう?」




 声がかけられ、意識がはっとした時には、俺と彼女しかその場に残っていなかった。なんだよ、大好きな彼氏様と手ぇ繋いで帰ってたら良かっただろ。そういうとこだよ、ムカつくの。




「先、帰れ」


「え、なんで? この後バイトあった?」


「いいから、帰れ。そんで、もう二度と俺に関わるな」


「なにそれ、なんでよ。突然そんなこと言わないでよ。私に彼氏ができたからなの?」





「いいから――!!」



 詰め寄ってくる彼女の襟元を掴んだ。



「関わるんじゃねぇよ!!」




 勢いよく突き飛ばす。いくつかの机に腰をぶつけた彼女は、初めて涙目を見せて無言で去っていった。


 危うく、首に両手をかけるところだった。そんくらい気持ちの整理がついてなくて、そんくらい恨んでる。だから、これでいい。最善だった。



 あーあ、

 まじで最低だ。

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