最期の大親友
「俺……まだ、死ねない、から……あいつのこと、助けに、そばにいてやらなきゃ、いけないんだ……」
白い病室。ベットの上。枯れ枝のような手を伸ばして、虚ろに呟く。彼は何度、同じその言葉を繰り返しただろうか。
そよ風がカーテンを揺らした。続いて、お見舞いとして添えられた、茶色くなった一輪の花が揺れた。空は快晴。空色、と呼ぶのに相応しい美しい色が広がっている。
彼が言う、あいつ、とは。
幼い頃から虐待をされ続け家に居場所を失くし、学校では虐めを受け居場所を失くし、近所の大人に散々な噂をされているせいで近場の公園にすら足が運べない。
そんな、惨めな人間のこと。
彼はその可哀想な人間に手を差し伸べた、唯一の親友だった。産みの親よりもずっとずっと深い繋がりを持つ、大切な大切な存在だった。
何があっても側にいてくれた。話を聞いてくれた。それから、知らないことを山ほど教えてくれた。楽しいことも沢山教えてくれた。彼にとっても、可哀想な人間は心からの親友だった。お互いが、お互いの居場所だった。
しかし、彼は病気に蝕まれた。可哀想な人間はひとり、取り残された。頼りにいけばきっと、快く受け入れて手を差し伸べてくれるのが彼だろう。でも、病気と闘う彼の元に行く勇気は、持ち合わせていなかった。
そばにいないことを選んだのは、俺だ。
「まだまだ……もっと、あいつのこと、助けて、やらなきゃ……俺がそばに、いてあげなきゃ……」
お前はまた、しゃがれた声で呟く。助けられる状態なんかじゃないのに、いつまでも俺のことばかり気にしやがる。
最期まで気遣うつもりなのか。もうずっと顔も合わせていない。声も聞いていない、そんな俺のことを。
馬鹿だな、お前。ほんと、すっげー馬鹿。いいじゃんか、俺のことなんか気にしないで。今、この世で誰よりも不幸だって喚いたっていいじゃんかよ。なんで、そんな身体して俺のことを考えてくれるんだよ。
おかしいじゃないか、なぁ、ほんと、すっげー馬鹿だな、俺。
ありがとう、世界一の大親友。
そして、ごめん。
耐えられなくて
もう、自殺を選んじまった後なんだ。




