表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喫茶『Stern』 〜 月曜日の珈琲 〜  作者: 夏川 流美
40/60

【喫茶】2杯目のキリマンジャロ

「いらっしゃいませ、いつもありがとうございます」


「おー、今日もキリマンジャロで頼むわ」



 店内に入れば、すかさず店長が対応してくれる。毎度お馴染みとなったカウンター席に落ち着くと、コーヒーが運ばれてくるのを待つ。BGMを耳にしていると、ここに来て良かったなとなぜだか思えるから不思議だ。


 カラリ。入り口のベルが音を立てる。そちらを向いた店長が気まずそうにカップを置いた。新しい客だろうか、横目で入り口を確認すると、入ってきたのはこの前ここで暴れてた奴だった。俺の姿を目にするなり、血相を変えて歩み寄ってくる。


 折角また来たなら、ゆっくりしていけば良いものを。



「てめぇ、この前はよくも――」

「まあ座れって。おい何飲む? 名物のコーヒーか、それとも俺と同じキリマンジャロ飲むか? ああそうだな、姉ちゃん、キリマンジャロこいつにも1杯頼むわ!」



 腕を無理矢理引き寄せ、隣の席に押しつける。必死に言葉を遮ろうとしてくるので、おかまいなしに同じコーヒーを頼んでやると静かになった。ふてくされた様子で頬杖をついている。


程なくしてカップが2つ、俺らの前に置かれた。飲めよ、と差し出すと舌打ちを返された。



「なんやねん、きもちわりぃ。勝手に注文しよって……コーヒーなんか飲まんわ」


「そうかぁ、ここのコーヒーは美味いぞ。ま、俺もこれしか飲んだことねえけどな」



 喋ってても、こいつは無反応だ。まだ嫌われてるなあ、いやそれも当たり前かと、コーヒーを口に含む。この酸味とコク、すっかりクセになってしまった。仕方ないので、いつものように黙って過ごしていると、先に堪忍袋の緒が切れたのはあっちだった。


カウンターを思い切り叩きつける、豪快な音が響く。跳ね上がるカップからは黒い液体が溢れた。立ち上がった隣を見上げると、苛立ちを隠しきれない目をして睨み付けてきていた。



「大概にせえや自分。俺に勝ったからって、ほんまにムカつくねん」


「なにピリピリしてんだよ。別に俺は勝ち負けとか気にしてねえし、お前にここの良さを伝えよー思っただけ。俺、こういうとこで過ごすの案外悪くないと思ってるからさ」



 ニッと笑いかけてみたが、カウンターを一蹴されて終わりだった。また暴れられたら堪らんと身構えていると、予想とは反して真っ直ぐに店を出て行った。なんだ、思ったより大人しいなと考えながら席に向き直り、溢れたコーヒーを拭く。



「あいつ、また来るかな」


「その時は、違うコーヒーを勧めてみようかしら」



 俺の独り言を、悪戯っ子のような笑顔をした店長に拾われた。それが少し照れくさくて、カップに口をつける。



 そうだな。次はコーヒーを飲みに、また来るといいな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ