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喫茶『Stern』 〜 月曜日の珈琲 〜  作者: 夏川 流美
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独り言

「私で、いいじゃん」








「え、なに?」



 数歩先を行く彼が振り向く。キョトンと不思議そうな顔をこちらに見せ、立ち止まった。



「ううん、独り言!」



 何でもない風に装い、胸元で両手を振る。そう? と首を傾げ、また進み出した彼の背中に視線を刺した。



 私の心はグレーの曇り空より不安定で、深夜2時の暗闇より落ち込んでいた。


 彼は長年の想い人。ただなんとなく居るうちに好きになってしまって、でもなんとなく離れることもそれ以上親しくなることもできないままで。


 男女の友情は成立する。そう思い込んだまま、彼は恋人を作ってしまった。





 独り言が届いていたら良かった。




 私が立ち止まっていることも知らず、地面に落とした滴も知らず、さっさと歩いていく彼。




 なんで私じゃダメだったんだろう。

 いつから私じゃダメになったんだろう。


 どうして、私じゃ好きになってもらえないんだろう。




 女子力が低いとか、見た目が好みじゃないとか、性格は合うけど恋人向きじゃない、とか……。理由なんて考えれば考えるほど出てくる。


 ぐるぐる回る思考は際限ない。考えれば考えるほど渦にハマって底に落ちて、抜け出せなくなる。




 せめて、こっちを見て。

 それで、泣いてることの心配してくれれば、ほんの僅かだけど救われる。

 たったそれだけで、諦められるような気がするの。





 だけどそんな思いも虚しく、一度も振り返らないまま視界から消えていった。


 都合の良い思いだった。振り替えらないことを本当は分かっていて、それを諦めない口実にした。





「先に好きになったのは

 先に隣に居たのは

 私だったのになぁ……」





 独り言は、哀しく溢れたままだった。

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