雑音
――なんて言って告白したら
オッケーしてもらえるのかな。
胸元で持っていたスマホを力強く握りしめた。暗い重い灰色の空の下、大雨に降られた大通りの横。
人の声も、車の音も僕の意識から一切遮断されていて、雨音だけがやけに騒がしく聞こえる。
「大丈夫ですか‼︎」
あれ、何が起きたんだろう。
今日は好きな人を誘って、待ちに待ったお出掛けの休日。長年の片想いを絶対に実らせるぞ、という思いで決めたヘアスタイル。
まだ告白していなくても、まだ目の前に好きな人の姿が見えなくても、いよいよ告白するんだと考えただけで心臓が爆音で鼓動する。
いつ告白しよう?
どこで告白しよう?
どのタイミングで告白しよう?
なんて言って告白しよう?
昨晩から考えに考え抜いて、それでも思いつかないカッコいい言葉。準備ができてないもんだから、なおさら緊張は進む。
『もう着きます!』
そんな連絡が来て、どぎまぎした。生憎の雨。ヘアセットが崩れていないか、ズボンの裾は濡れていないか、数秒に1回確認した。いくら確認しても、気持ちは落ち着かなかった。
深呼吸を繰り返す。
いよいよ目の前に現れた好きな人は、言葉に表せないほど可愛らしかった。もっと深く恋に落ちる音を感じた。
怖気付かない、絶対に今日、想いを伝える。
あぁ、こんなことばかり、考えていたから?
神様、これは天罰なの?
隣同士で歩くカーブの道。
スピードを出した乗用車は、僕達の前で盛大にスリップした。
車は、好きな人だけを轢き連れて行った。
まるで手品のように、隣からパッと消えた好きな人。鉄の塊がぶつかり、ひしゃげるでかい音。
事故に、遭ったんだ。
よりによって僕じゃなくて
告白するって決めてた相手が。
脳内を支配するノイズは、雨音なのだろうか。それともただの雑音なのだろうか。
あぁ、なにも
なにも分かりたくない




