表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喫茶『Stern』 〜 月曜日の珈琲 〜  作者: 夏川 流美
19/60

日常の中

 バイトが終わったのは、街の灯りがぽつぽつと消え始める時間だった。その日のニュースは、台風による被害を大々的に報道しており、いつ私の地域に避難勧告が出るかも分からない状況だ。



 お疲れ様でした、と店を出た途端、夏特有の生温い風が全身を撫でた。それは、いつとも変わりのない風だと思う。


 しかしどうしてか、口元に布を押し当てたみたいに息苦しく、そして得体の知れない不気味さに襲われた。


 空の中の飛行機の音も、道を歩く私の足音でさえも、どこか遠くに、でも耳元に感じて。



 ぞわりと足元から鳥肌がたった。氷を触れているように指先だけがひやりと冷たかった。


 曇天の空。灰色の雲の隙間から、誰かを覗くように顔を出す月の影。なぜだろう、まるで笑われている。ひとりで怯えている私を見下ろして、にまにまと目を細めている。そんな月が見えた。



 風が大きく草木を揺らした。荒れた髪の毛を抑えて思わず目を伏せる。すると固まっていた背筋がふっと緩み、心に(よど)んでいた不気味さ、不安、恐怖のどれもが、消え去っていった。



 連れていってくれたのだろうか。

 風が? まさか。



 自分の考えが可笑しくて、口元に手を当て人知れず笑う。空を見上げると、月はすっかり隠れ、灰色の雲が逃げるように流れていた。



 束の間の幻想の話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ