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特別なのは私じゃなくても
「女の子と2人で出かけるのって初めてだから、すごく楽しい」
そう言って無邪気な、無垢な笑顔を浮かべてくれる相手に、曖昧な表情しかできなかった。信号が変わり走り出すバスの中で、逃げるように目線を外へと逸らす。
私は彼と違う。男性と2人で遊びに出掛けることなんて日常茶飯事だし、一泊旅行にだって行く。だから、異性との出掛けに特別感は何も感じないし、それによって嬉しいと思うこともない。
(私なんかが2人きりの初めてで良いのかな)
脳裏に過ぎる言葉に目を伏せた。多分、私のおかげで嬉しいわけじゃないんだろうと、どこかで知っていたから。
私が女だから嬉しいだけ。女だから特別に感じるだけ。女だから初めてなだけ。
恐らく、それ以上でも以下でもなくて、例えば、彼と初めて出掛けたのが他の女性だったとしても、彼は同じことを言って、同じような反応をしたのだと思う。
それなのに、そんな私の気持ちを知らない彼の横顔を見て思う。
私しか知らない人のままでいれば良い、と。




