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喫茶『Stern』 〜 月曜日の珈琲 〜  作者: 夏川 流美
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さようなら、ごめん。

 私が彼を振ったことに後悔はしていない。



 けど、この寂しさと悲しさと胸の痛さが辛い。後悔は、していないつもりだったけど、私の選択は間違っていたのだろうか。正解なのか不正解なのか教えてほしい。心が醜く押し潰されてしまいそうだ。



 あぁ、でも、わかっている。この感情は今だけだと。今だけ、人間の人間らしい感情が機能してしまっているだけだと。



 私が家を飛び出したとき。

 彼は泣きながら探してくれた。電話をかけて現在地を伝えると、すぐさま駆けつけてきてくれた。


 後にも先にも、これほど私を愛してくれる人は彼だけだと思う。これほど私のために、親に謝ってくれたり私の価値観を受け入れようとしてくれたりする人は、おそらく二度と現れない。



 けど、後悔はしていない。

 思い返せば思い返すほど、良い人だった。とても。かなり。非常に。夫になったなら家事も育児も仕事もしてくれるような人だったとも思う。


 それなのに、ダメだった。私と彼は合わなかった。友達の距離でいることが私の幸せだった。



 友達は、私の嫌がることをしてくるんだから別れて正解だよ、と言ってくれた。私もその通りだと思う。


 だけど別れた後はどうにも、彼の良いところばかりを思い返してしまうのだ。付き合っていた頃は、悪い思い出に縛られて、なにもかもにストレスを感じていたはずなのに。



 振っておいて号泣して、脳裏に復縁がチラつくなんて、あぁなんて都合の良い……虫の良い人間なんだろうと思う。


 復縁はしない。後悔も本当にしていない。恋人がいることのストレスから解放されることの安堵。それは確かに存在しているから。彼は決して悪い人間だったとは思わない。むしろ良いところが多くて、本当に良い人間だった。し、私もちゃんと愛されていたとも思う。




 ごめん、なんて言える立場じゃない。だから必死に飲み込む。けど、せめてここでだけ言わせてほしい。





 ずっと隣にいられなくて、ごめん。



 愛することができなくて、ごめん。



 振ってしまって、ごめん。













――わかんない。わかんないよ。


 私、好きだったのかな。

 ほんとは、好きだった?

 自覚がなかっただけ?

 でも、もう、無理だ。

 ばいばいしたんだ。

 復縁、しない。

 大丈夫。

 この感情は今だけ。

 本当に今だけ。

 わかっている。

 わかっているのだ。


 でも、


 やっぱり、










 今だけでも辛いよ。

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