【短編・連載一話やプロローグにあらず・完結】幼馴染にこっぴどく振られた俺、実は家族ぐるみで幼なじみの面倒を見ていた。生活崩壊したからもう一度面倒みてくれとすり寄ってきても、もう遅い!
流行りに乗ろうと書いてみました。微妙に遅れてますが。
初投稿です。よろしくお願いします。
桜花咲く高台の公園で、高校二年生の始業式を来週に控えた俺――小久保圭一――は、最愛の幼馴染である村上美穂に想いを告げた。勇気を持って踏み出した一歩が、二人の関係を幼馴染から恋人に進展させると信じて。必ず受け入れてもらえる、必ず……きっと……たぶん……おそらく……
「え、やだ、やめてよ、姉弟で恋人なんてありえるわけないじゃない」
「俺たちは幼馴染であって姉弟なんかじゃ――」
「子供の頃からほとんど毎日、家に帰っても一緒にいて、もう家族じゃん。圭一のことなんて完全に姉の面倒見てるシスコン弟にしか見えないよ、弟と結婚なんてできないでしょ?」
「え、弟って――」
「そうじゃなくても、背は低いし、顔は童顔だし、泳げないし、野球バカだし」
「それは――」
「そのくせ、野球部ではショートなんてちょこまかしたポジションで、打順も二番だし。四番になれないでもせめて一番になりなさいよ、何よ二番って、二番じゃだめですかってどこの仕分け担当議員よ。結局、富岳が一番になったじゃない。ざまぁみなさいよ」
「待って、その野球理解はおかしい――」
「圭一も血迷ったこと言ってないで、これからも今まで通りに過ごそう?これからもそんな目で見られたら、私、おじさんとおばさんに言わないといけないよ?二人は私の味方なんだからね。私いやよ、圭一が家から追い出されるところなんて見たくないんだからね?」
「血迷ってなんて――」
「念のため言っておくけど、素直になれないツンデレとか、本当は好きなのに照れているとか、そんなのじゃ無いからね。好きでも嫌いでもなく、異性としては無関心、だからね。誤解しないでね。じゃー、もう帰るね。今日はおばさんが私の好きな麻婆豆腐作ってくれる日なんだから圭一も早く帰らないと、私が全部食べちゃうわよ」
「……」
勇気を持って踏み出した一歩は……
一切の希望を残す余地もなく、救いもなく、完膚なきまでに、木っ端微塵に砕かれた初恋という成果を残して、挫けたのであった。
「……ただいま……」
「おかえり、けーちゃん、美穂ちゃん、もう帰ってるわよ、今日は一緒じゃなかったのね」
「うん、ちょっと……」
「元気ないわね、大丈夫? ご飯できるまで部屋で寝てたら? 今日は麻婆豆腐よ」
「……うん……」
そう、すでに十分すぎるほど切り刻まれている俺の心に、更に塩を、これでもかこれでもかと擦り込みまくることになるのが、俺たちの置かれた環境なのだ。
俺と美穂は家が道路挟んだお向かいさん。母さんと美穂のお母さんが同じ産婦人科に通っていた関係で交友を深めて、その交友関係は今まで続いている。つまり俺と美穂は母親の胎内にいた時から既にご近所さんだったわけだ。
さらにお互いの両親の仕事内容も関係してくる。美穂の両親は揃ってシステムエンジニア。デスマーチとやらが四六時中あって、土日すら働いていることが多い。一方の俺の両親は、父は地方公務員の課長ランク。そこそこ出世しているそうだが、働き方改革とやらで残業はほとんど無いし休みもカレンダー通り休める。母はメーカー勤務だが在宅勤務制度が充実しているため家にいることが多い。
そのため、いつしか美穂の面倒をうちが見るようになっていた。母さんが「美穂ちゃん帰ってるわよ」と言うくらい当たり前に。夕食を一緒に食べるなんて当然で、学校のお弁当を届けがてら朝に起こしに行くのは俺の日課だし、洗濯物だって一緒に洗っている。
俺としては好きな彼女に尽くしていたつもりだったけど、美穂は弟が世話してくれてるとしか思ってなかったのね……
と、いうわけでいつもと同じように『家族』四人で夕食を食べる。違うのは俺の心に嵐が吹き荒れているだけ。そう、いつも通りじゃ無いのは俺だけなのだ。美穂は全くいつも通りなのだ。
『異性としては無関心』
美穂の言ったことが本心であることが、心の底からわかった。魂の髄まで染み渡った。
……そして血祭りにあげられた俺の魂が最後の覚悟を振り絞った……
「ごちそうさまでした。また明日ね」
そう言って自分の本当の家に帰る美穂を見送った後、食器洗いを終えた俺は父さんと母さんが居るリビングに向かう。全てを失う覚悟を決めて……
「圭一、大丈夫か? 父さんは顔色が悪いって感覚に鈍いが、それでも今日のお前の様子、おかしいと思うぞ?」
今日は金曜日なので休みの前の日だけ晩酌する父さんはいつものようにワインを飲みながら言った。
「父さんもそう思うでしょ? 母さんも帰ってきたけーちゃん元気ないって思ってたのよ」
応じる母さん。父さんはそれを受けていつものように「だから高校生にもなって「けーちゃん」は子供の方が恥ずかしいからやめてやれと……」とぼやいた。(ちなみに俺は父さんの意見に全面賛成だが母さんが言っても聞かないので、せめて外では言わないでくれ、を妥協点として諦めている)
この優しい両親に、俺はこれから見捨てられる。覚悟を決めたとはいえ、これはきつい。でも言わないと。
「父さん、母さん、話があります。聞いてくれますか?」
口調を改めて、話を切り出した。
美穂に告白したこと。振られたこと。なんと言って振られたかも。今まで通りにと言われたけど、心が張り裂けそうで耐えられそうに無いこと。そして……父さんと母さんは俺ではなく美穂を気に入っているから、切るならば俺だと言われたことも……
「だから俺はもうこの家にいられない、いたくない。一人暮らしなり全寮制へ転校なり好きにしてください」
二人とも黙って聞いていた。少なくとも表面上は。
「このまま飲んでも嫌な酒になるだけだ、やめよう。オーストラリアワインで良かった」
そう言って父さんは珍しくコルクじゃなくてスクリューキャップのワイン瓶に蓋を締め直した。母さんは黙って瓶とグラスを片付けた。
「圭一くん」
父さんが俺に呼びかける。うちの両親は普段は好き勝手に呼びかけるが、真面目な話するときは二人揃ってくん付けしてくる。
俺は改めて居住まいを正した。そして次に自分を襲う悲しみに備えた。
「村上のところの小娘の面倒を見るのをやめる」
「はい、甘んじて……え? ……えぇ!?」
どういうこと?だって……小娘? 美穂ちゃんって呼んでたじゃん?
「父さんが大事なのは圭一くんであってあんなズボラな小娘じゃない」
え、美穂ちゃん美穂ちゃんって可愛がってたじゃん……えぇ?
「父さんが、じゃ無いわよ、私たちが、よ。母さんだって圭一くんが一番大事。あんなガキンチョはもはやどうでもいいわ」
実の娘よーとか頬擦りしてたのは……え? え? え?
唖然としながらも疑問を口にする俺に両親は答えて曰く
「圭一くんが大事に思っている子だから大切にした。だから圭一くんが苦しむくらいなら、あんな女が餓死しようが知ったことではない」
「そもそも何で血の繋がった息子捨てて、息子傷つけた女をお世話しないといけない。何故そうしてもらえると思った、あのバカ女」
「圭一くんにもショックだよ。母さんたちはそんなに薄情な親だと思ってたの?」
「え、いや、娘の方が可愛いかと、そもそも美穂美人だし」
「自分の子なら何歳だろうと男だろうと女だろうと可愛いのが親ってものよ。全く母さん悲しいわ。でも、ちゃんと打ち明けてくれてえらい!」
どこぞのポジティブペンギンの真似をしながら褒めてくれる母さん。
うんうん頷く父さん。
優しい両親の本当に優しい心に触れて、俺は美穂に振られてから初めて……泣いた……
「さて、夜はまだ早い。今度はいい酒が飲めそうだ」
「まだ一杯目だったでしょ?セラーの一番上に入れてあるわよ、さっきのワイン」
「いや、こっちにする」
そう言って父さんはさっきと違うコルク栓のワインを持ってきた。次にグラスを三つ。
いつも赤ワイン飲んでいるの二つと、テイスティング勉強用って言っているの一つ。
「シャトー・シャススプリーンだ。父さんはものすごくいい事か嫌な事があった時に飲む」
そう言って、慣れた手つきでソムリエナイフを操り抜栓したワインをきれいに注いでいく。二つのグラスには普通に、小さな一つには少しだけ。そして小さなグラスを俺に差し出す。
「俺、未成年なんだけど」
「お神酒だとでも思え。神社でお参りしたら子供にだってこれくらい出される。では乾杯しよう。ワイングラスでの乾杯は打ち合わせず捧げるだけだ。乾杯」
父さんの飲んでいるところをいつも見ているから自然と覚えたつもりテイスティングの作法を見様見真似でやってみた。濃い赤の香りの良い、深い味わいのワインだった……
「圭一が二十歳になったらもっと上の格付けワインを一緒に飲むからな」
口調がいつもに戻った父さんが楽しそうに言う。
「まぁ、このワインが父さんの一番好きなワインなんだが」
本当の家族三人でも穏やかな時間が過ぎていった……
土曜日の朝、俺はすっきりとした気分で目が覚めた。美穂に振られた悲しみは消えたとは言えない。でも両親から愛されていることが自分に力を与えてくれた。高校生にもなって親離れができてないと、気恥ずかしい思いはあるが。
うちの家族は揃って朝型人間である。土日に関わらず通勤通学時間には目が覚めてしまう。今日も三人全員起きていて、いつもだったら美穂を起こした後に美穂の好きな可愛いもの系の店に行ったりしていたが今日は違った。
一泊でキャンプに行こうと昨日の夜に話していた。美穂が重度のインドアで、魚や虫も触れないので、我が家はみんな漠然とアウトドアもしたいなと思いつつ美穂のために我慢していたのだ。今にして思えば、どう考えても甘やかしすぎだった。
というわけで手ぶらで行っても全部レンタルしてくれる上に管理釣り場まであるキャンプ場を昨日のうちに予約し、行くことにしたのである。ねぼすけ女をいちいち起こす手間がないので準備が楽な事、楽なこと……
車で二時間ほどで自然豊かなオートキャンプ場に到着した。ここの管理釣り場はよくある釣り堀だけでなく桟橋までついた大きめの池や自然に近い渓流釣りも楽しめ、魚種もニジマスだけでなくイワナやヤマメも釣れる。どうやらイトウまでいるらしい。流石に釣れないと思うが。
チェックインしてサイトに車を入れ、レンタルしたテントやらタープやらを動画サイト見ながら家族総出で設営した後、待ちきれないとばかりにみんなで釣り場に向かった。
父さん母さんは俺が生まれる前に海で乗合船に乗っての釣り経験が最後。俺は部活の合宿で管理釣り場でルアー釣りしたくらいの初心者。
なので父さん母さんは餌釣りエリアへ、俺は桟橋付きのルアー専用池で、それぞれ釣りを楽しむことにした。ライフジャケットも忘れずに。
釣り場に人はまばらだった。まだまだ寒い時期だし、当然か。レンタル釣具はスピニングリールにナイロン糸がついてて先端のフックにルアーをつけるタイプだ。PEラインにショックリーダーが、とか偉そうなことを初心者が言うな、と言う事だろうか。とにかくルアーをつけてキャスティングをする……
釣果発表
父さん:ニジマス二匹、イワナ一匹、ヤマメ一匹
母さん:ニジマス五匹
俺:ボウズ(ゼロ匹)
まぁそうだよね。
別に勝負していたわけではないが悔しい。父さんと母さんは量なら母さん、質なら父さんとドローを受け入れていた。
その後はバーベキューをして釣った魚や道中で買った肉を焼いたり、夜空の下で焚き火を楽しんだり、テントの中でカラオケしたり、動画を楽しんだり、キャンプを満喫した。
翌日全ての帰宅準備を整えた俺たちは、持ち帰り可能なのでと最後に釣りをして帰ることにした。
昨日と同じ場所でなんの工夫もなくキャスティングしていた俺に耳に悲鳴が聞こえてきたのはその時だった!
誰かが引きずられるように池に入っていく姿が見えた。
俺はすぐさまその姿を追う。チーム一の俊足を舐めるな。
池の中心あたりでもがいている姿が見えた。
幸い桟橋の突端の側だ。
俺は水への恐怖心を抑え込み、足元の救命用浮き輪を持って飛び込む!
俺の体は狙い違わず今尚溺れんとする人のそばに着水。すぐさま浮き輪をその人――女性のように見える――の体に通し、自分は外側から浮き輪に捕まる。
次の助けはすぐにきた。浮き輪を引っ張られ、その人は無事に救助された。俺も一緒に陸に上がる。どうだ! 泳げなくったって人命救助くらいできるんだよ! と憎きプールの授業に心の中でひとしきり罵倒を浴びせた。
「娘を助けていただいてありがとうございました!」
声をかけてきたのはシックで自然に調和する色調の服装をした男女であった。
なるほど、助けた人――女の子、で確定でいいみたいだ――のご両親か。
「いえ、当然のことです」
「あ、ありがとう、ございました――」
女の子も、その真っ青な口を開く。
「いいよ、無理して喋らないで、落ち着いて」
「けいいちー大丈夫かー?」
「けーちゃ、じゃなくて、けいいち大丈夫?」
微妙に口調のおかしい両親がやってきた。騒ぎを聞きつけてきたようだ。というか母さん、けーちゃんって言いかけただろう。ぎりセーフだぞ。
「あぁ、だいじょう――」
「え!? 圭一くん!? 小久保圭一くん!? ゲホッゲホッ」
女の子は俺の名前を何故か呼んだ後、むせてしまった。
「いいから落ち着いて落ち着いて――」
なにこのカオス。
濡れた服を着替えて一息ついてから、改めて女の子とその両親と話をした。もちろん女の子も着替えていて、顔色も回復しているし、落ち着いていた。そして可愛い。しっとりと濡れた髪、活発さをよく表したショートヘア、白い肌、可愛い。
「大物が釣れた! と思ったら引きずられて、ロッドを離したのに引っ掛かっちゃったみたいで、すごく怖かったです。本当にありがとうございました、あの、小久保圭一くん、だよね?」
深々とお辞儀する彼女とその両親。
「もう十分に礼は聞いたからいいよ、ところで何で俺の名前を?」
「やっぱり知らないか……私は水野紗友理。圭一くんと同じ学年。私たち同じ高校だよ。何でかってのの答えは、野球部の花形ポジションにして、チーム一の進塁打率とチーム二位のホーム生還率を誇る圭一くんのことを知らない人なんていない! だよ!」
「詳しいね、にしても知らない人がいないは言い過ぎだよ……でも、評価してくれてありがとう」
……心に突き刺さっていた美穂からの辛辣な評価という名の棘が抜けた気がする……
「ねえ、圭一くんはキャンプとか釣りが趣味なの?」
「ん?いや、興味があってやってみたばかり、って感じ」
「そうなんだ、どれくらい釣れた?」
「恥ずかしながらゼロ……」
「そうなんだ、じゃあ教えてあげる!」
「待て待て、また池に引きずり込まれるぞ」
「私はロッド持たないで教えるだけだから大丈夫だよ!」
「じゃあ、帰るまで時間あるし教わるか、よろしく、水野さん」
「紗友理」
「え?」
「紗友理って呼んで」
「え? あぁ、さ、紗友理、さん」
「さんもいらない」
「さ、紗友理」
何これ!?すごいドキドキする。
美穂に対しても味わったことのないようなドキドキ!
それからのわずかな時間、紗友理は丁寧に教えてくれた。キャスティングもフォームから野球バカの俺にわかりやすく教えてくれて、そしてついに……
バシャバシャ
「釣れた!たった一匹だが人類にとっては大きな一匹だ」
「どこの月面着陸よ、でもおめでとう!」
すごく嬉しい、紗友理も喜んでくれて嬉しい。俺、一昨日振られたばかりなのに、もう別の人に惹かれている。チョロすぎるだろう、俺。
いよいよ帰宅の時。
「娘と息子さんが同じ高校だったとは。この場でお別れとならないようですので、改めてお礼に伺います」
水野さんのお父さんが、俺の父さんにそう話しかける。
「あまりお気になさらずに。ですが息子の友人としてなら大歓迎しますよ」
「圭一くん、またね」
こうして水野家と別れた俺たちは帰路についた。最後に波乱の展開があったが、それも含めて素晴らしい一泊旅行だった。
帰宅した俺たちは、旅装の片付けをすましてから軽くシャワーを浴び、家の設備関連で業者がきた後はリビングでゆっくりしていた。実はまだ日は高い。ブルーマンデーの気がある父さんは日曜日の夜に慌ただしいのを嫌うからだ。
ピンポーン
「宅急便の心当たりある?」
席を立ちながら両親に聞く俺。両親ともに今日の予定はさっきの業者さんだけとのこと。
カメラ付きインターフォンを取ると、そこに映るのは美穂とその両親。
どうゆうことですか、とか、何でですか、とか騒がしい。
とりあえずインターフォンを手で押さえて、両親に状況を伝える。
「そういえば、気持ちを切り替えすぎてすっかり忘れていたな。村上一家のこと」
「そうね、だいたいなに言ってくるか想像できるけど、とりあえずこれで最後と思って相手してあげましょう。圭一はどうする?会いたくなければまかせてくれていいし、見るだけ見たいならタブレットでビデオ通話繋いでもいいわよ」
「俺はもうどっちでもいいよ、少しは吹っ切れたし」
「どっちでもいいならシナリオ的に部屋にこもってることにしてもらっていいか?」
俺は父に一任して、タブレットもって部屋に入る。早速通話があり、リビングの様子がつながる。
「小久保さん! いったいこの週末どこに行ってたんですか!? 美穂はひもじい思いをしていたんですよ!? かわいそうだとは思わないのですか!? 育児放棄ですよ! 訴えてもいいくらいだ!」
吠える美穂父。
「いきなりご挨拶ですね。幼馴染にひどい言葉で拒絶された大事な愛息子と傷心旅行に行っていたのですよ。娘さんから聞いていませんか」
冷静に返す父さん。
「聞きましたよ! 大事に預かっている他所様の御令嬢に劣情を抱いた小僧のことは! どんな育て方をしたんですか! 下劣な!」
「確認ですが、他所様の御令嬢って誰のことですか?」
「美穂のことに決まっているでしょう!」
「自分の娘のことを御令嬢とか言っちゃうんですね。大した言葉遣いだ」
「あなたにとって! 美穂は! 村上家から預かっている! 大事な! 御令嬢でしょう!」
「いいえ、全然。育児放棄気味を見かねて仕方なく面倒見てた小娘ですよ」
「おじさん、そんな! 私のことが圭一より大事なんじゃないの!? 圭一がしつこいようなら圭一追い出してくれると思ってたのに!」
「どこでそんなバカな勘違いしたのか知らないが、圭一がお前を大事にしてたから私たちも大事にしただけだ、小娘が。息子を傷つけたお前を誰が面倒見るか」
威圧感を出しながらいう父さん。そう、父さん優しいけど怒らせると怖いんだよな。
「では、面倒みて欲しければお前のバカ息子に体を差し出せと言うことか!? 下衆が!」
「下衆はお前だ、村上敏朗。お前たちは根本的に思い違いをしている。私たちの世話を、やってもらって当たり前、と思っている。だから息子を傷つけても、面倒は当たり前に見てもらえると思っている」
「当たり前に決まっているだろう! やってもらって当然に決まっているだろう! かわいそうだとは思わないのか!? 美穂に何かあって責任取れるのか!?」
「出た出た、かわいそうだとは思わないのか、と、責任取れるのか。では答えよう。かわいそうだとは思わないね。責任? それは親であるお前が取るものだ。次のお前のセリフは、無責任だ、か?」
「無責任だ! はっ!? ぐぅ」
「下衆云々に話戻すが、面倒みてもらっている大恩ある家の息子に思いを寄せられたとして、それに応える義理なぞない。だが、振った相手に対して一切配慮せず、今まで通り面倒見ろは傲慢がすぎる。自ら然るべき距離の取り方を取るべきだ。なにより自分が一番愛されているごとき妄言、もっとも許し難い」
「でも、じゃー、圭一が我慢してくれればいいじゃない。もともと私はそのつもりだったし。そうしたら今まで通りおじさんおばさんと一緒にいられるでしょ」
「お前が我慢してもいいわけだな」
「私は、おじさんおばさん圭一がいないと生活できない。でも圭一は失恋で苦しいだけでしょ。どっちが重要か明白じゃない」
「赤の他人の生活より、愛息子の心の方が大事だ。お前は私たちがいないと困るが、私たちは困らない、それどころか圭一の心の平穏のために良い。だからお前を切った。何がいけない」
「もう、美穂の面倒を見る気はないと言うのだな」
「そう言っている」
「もういい。後悔するぞ、美穂は文武両道、才色兼備の美少女だ。大和撫子らしい黒髪長髪で誰からも愛されている。誰を捨てたかわかってすり寄ってきてももう遅い!」
「今は、ね。男親にはわからないかもしれないけど、女親もそう思っているなら、あなた達はもう終わりよ」
おぉ、母さん初攻撃。
「それから合鍵は置いていけ。この瞬間以降、合鍵使って我が家に入ったら不法侵入として扱うぞ」
「ふんっ」
父さんの言葉に美穂父は鍵を床に叩きつけ、帰っていった。
「父さんありがとう、少しスッとした。かっこよかった」
「ふむ、それはよかった。また怖いと言われるかと」
「私の出番がほとんどなかったじゃない」
笑い合う三人
ピンポーン
「まさかまた?」
「私が行こう」
玄関に向かう父さん。
「今日の今日で申し訳ありません、小久保さん。来客があったようですが、お時間よろしいですか?」
来訪者は紗友理一家だった。
キャンプ地の最寄りの道の駅で買ったと思しきお土産とクーラーボックスを持っている。
「先程のは客ではありませんでしたから。大丈夫ですよ、どうぞ」
「ありがとうございます、実は……」
「えー!」
なんと紗友理一家はお隣さんだった!
「何で今まで気がつかなかったんだろう、小中学とか」
「あぁ、引っ越してきたの、去年」
「なるほど」
「後これ、私が釣った魚。よかったら食べて」
「もしご迷惑でなければ水野さんたちもいかがですか」
父さんが驚愕の提案する。明日月曜日だけどいいの!?
「明日平日だからノンアルコールで」
あ、父さんマジだ。
こうして紗友理一家と夕食を楽しんだ。食後のひとときに紗友理が顔を真っ赤にしながら俺に言う。
「あの、圭一くんのことが入学した時から好きでした。助けてもらってもっと好きになりました。付き合ってください! はっ!? 私、父さんたちの前で何言っているの!? あぅー」
「おやおやまぁまぁ」
ニヤニヤする両親ズ。そして父さんはその顔で
「実は先程の来客もどきですな……」
家族ぐるみの幼馴染がいたこと、こっぴどく振られたこと、いろいろ酷かったので絶交したこと、を話しちゃった、話しやがった……
「で、返事は圭一くん」
父さんめ!
「えっと、振られてすぐに他の子に惹かれちゃうチョロい俺でも良ければ、よろしくお願いします」
こうして双方の両親公認の彼女ができた。
それからはあっという間だった。始業式のクラス編成では紗友理と同じクラスという幸運を掴み(ついでに美穂とは遠く離れたクラス)クラスメイトからはずっと付き合っているカップル、と認定され、幸せな日々を過ごしていた。
そして四月も終わり、愛するゴールデンウィーク前日、紗友理一家とホームパーティをしている夕食の席にて。
ピンポーン
ん?
「髪ボサボサの、どこぞのテレビから出てくる幽霊みたいな人が立ってるんだけど、無視していい?」
「なんだそれ、父さんが出るよ、念のため圭一もバックアップ頼む」
がちゃ
「おじさんおばさん圭一!お願い!また面倒みて!」
なんと、いろいろ変わり果てちゃった美穂だった。マジかよ。
「ほらね」
母さんだけは納得している。
「食生活が乱れれば、高校生なんだからニキビとか大変よ。コンビニ弁当ばかりじゃ若くたって太るわ。私たちが掃除洗濯しないのに自分でやらなかったら臭くもなるわ。男の子だから臭くなるんじゃないのよ。女子高生だって不衛生にしてれば臭うわよ。新陳代謝激しい若者なんだから」
「それにな……」
なんと、父さんが言うには村上家襲撃の日の翌日、美穂が残してた合鍵で家に入ろうとしたらしい。そして、警備会社に早速お世話になって、不法侵入で警察に突き出してもらったと。
そう、キャンプ帰りに来た業者さんは警備会社の人。金曜日の夜に俺の話を聞いた父さんがすぐ手配してくれた。二日で来るのにはびっくりだけど。
さらに俺は気がつかなかったけど、実はそのために始業式には欠席。そして俺と言う目覚ましがいなくなって遅刻続き。身だしなみも乱れて不衛生になり自慢の美貌も崩れ、臭い女扱い。
さらにさらに、衣食足りて礼節を知るの通り、衣食が乱れた結果勉強にも身が入らなくなり、栄養バランスの乱れで体調も崩し身体能力も低下、肌も髪も荒れ果てたと。今では勉強も運動もダメな底辺になっているとのこと。この学校、進学校なんだけど、大丈夫?追い出されない?まぁ、どうでもいいが。
美穂父の言っていた自慢の娘は、母さんの予言通り、全て失ったと。
「圭一! いるんでしょ! おねが――」
「今、彼女とそのご両親と俺の両親の六人、六人の本当の家族と一緒にご飯食べてるから邪魔しないでください、村上さん、だっけ?」
あえて苗字で呼ぶ俺。
「美穂って呼んでよ――」
「あ、圭一、早く戻ってきてよ」
タイミングよく――間違いなく狙って――俺に抱きつく紗友理。
「ごめん、待たせて」
見せつけるように唇を合わせる俺。もちろんもう数え切れないくらいしている行為だ。
そしてわざとらしく嬉しそうに受け入れてくれる紗友理。ちょっとやりすぎかもしれないが、ゾンビだか幽霊だかに構っている時間はない。
「いやぁぁぁ、、あぁぁぁぁ、げいいぢぃぃぃ」
なに、怖い。召喚、警備会社さん。
その後も何度か村上家が襲来したが警備会社さんシールドは鉄壁だった。
そのうち自炊の失敗か何かでボヤ騒ぎ起こして、消防士さんにゴミ屋敷ぶりを怒られ、異臭でお隣さんに苦情受けていたたまれなくなった村上家は、どこかに引っ越した。聞くところによると、美穂の進学先は偏差値度外視で食堂付きの学生寮があるところらしい。社会人になったら社食狙いかな?もうどうでもいいけど。
俺と紗友理は二人とも家事が得意で、家族ぐるみでキャンプに行くときは誰が料理をするかでキッチンの座の奪い合いが起きるほど。
紗友理先生のおかげで釣りも上手くなり、炭火でローストビーフも焼けるようになった。
きっとこれからもこの人となら歩んでいける……
え?散々アピールしてた野球はどうなったかって?
うん、確かに一年でレギュラーになった、この学校ではエース級だよ。でも、そもそもこの学校が弱小なの、野球。進学校って言ったじゃん。だから甲子園、何それ美味しいの状態。それ以上聞かないで。泣くぞ。
ポイントくれたら連載しますとか言いません。
どんなにポイント入っても連載構想ありません。キャラの再利用はするかもしれませんが。
でも評価してもらえると嬉しいです。
短編詐欺じゃなくてえらい!って思ってくれた皇帝ペンギンの赤ちゃんの皆様、評価いただけると嬉しいです。
11/27追記
誤字報告ありがとうございます。
誤字脱字を修正しました。