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VRMMOで始めましたモフモフ生活  作者: 水無月コトキ
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鑑定師エルマ

 ヒュプはタスクに付いて町の東に位置する商店街にやってきた。

 中央広場から東の門までの大通り、両側に見渡す限りの露店が並んでいる。

 そして、たくさんのプレイヤーがここを見て回っている。


「うわぁ!さっきより怖い人混みだ」

「まぁ、ここはいつもこういう感じ。でも、僅か二時間の間で、店はもういっぱい入ってるね。やっぱりみんなはここが好きだね」

「えっ!どういう意味?」

「もともと町中に何処でも露店を設置できるけど、皆どうしてもここに店を開きたがる。その理由(わけ)知ってるか?」


 ゲームを始めたばかりのヒュプはそんなことを分かるはずもなく。

 金糸で編んだような金髪の頭を横に振りながら、期待しているような目つきでタスクの顔を見る。


「それはな、露店の後ろにある建物を見た?それは貸店舗というものだ。今は入れないが高い賃貸料を払うと、自分の店を開けるんだ!つまり……」


 タスクの説明がまだ終わってないまま、ヒュプは目をギラギラさせながら話に割り込んできた。


「皆は自分の店を持つ夢を見ながら一生懸命経営してるんだね!よーし、いつかきっとここで俺のペットショップを立ち上げるぞ!!」


「そこの嬢ちゃん、いい度胸じゃない!」


 二人が話しながら前に進むと、不意にある女性の声が聞こえた。

 そこに現れた声の持ち主――一軒の露店の後ろに立っている赤っぽい髪にメガネをつけた大人の女性エルフが視野に入る。

 女は二人に向けて小さく手を振って、声を掛ける。


「タスクじゃない!久しぶり」


 露店の前に行き着いて、タスクはその店主に挨拶をする。


「お久しぶりです、エルマさん。ちょうどあなたの店を探していました」

「へー、私の店にあんたが欲しい装備はないぞ、それに……」


 エルマは冗談めかした口調で話しながら、タスクの側にいるヒュプを目にすると、即座に不正行為の通報用画面を空中に浮かべる。

 それを見ると、タスクは即座に押しとどめる。


「やめてください!俺何もしていませんよ!」

「やってからじゃ遅いんだよ!あんたという奴、あんたという奴。ついに幼女にまで手を出すんだ!」

「イヤイヤ、誤解です!彼は男です!タナの兄です!」

「タナちゃんの兄?」


 エルマは視線を移し、髪色以外はタナとそっくりなヒュプの顔に目を凝らす。

 すると即座に勢いよく後ろに回り込んで、タスクの頭へ拳骨を叩き落とした。


「そんな子供騙し信じるもんか!この子はどう見てもタナちゃんの妹だ!」

「ヒュプ、早く助けてくれ!」


 最初、ヒュプは確かにビックリしたが、その後はただ面白そうだな〜と思って、二人の茶番劇を楽しんで傍観している。

 助けを求めているタスクを目にすると、ヒュプはにやりとエルマに声を掛ける。


「初めまして、エルマさん。俺はヒュプです。このような姿ですが、タナの正真正銘の兄です」


 エルマはヒュプの手を握って、優しい口調で尋ねる。


「なんて優しい子だ!きっとあの男にそう言えって脅迫されたんだね。もう怖くないよ、私がいる限り、決して彼にあなたを傷つけさせないわ。今すぐタナちゃんに連絡するよ!」


 エルマはそう言いながら、タナにメールを送る。

 誤解を解くことは難しいなと思って、ヒュプは頭を抱えるタスクを見て、クスッと笑い出す。


「どうやらどう説明いても無駄だそうだ。あきらめろ」

「お前――っ!」






 タナの返信を受けると、誤解がやっと解けた。


「ごめんね、ヒュプくん。システムが性別を間違ったとは全く思いつかなかったわ」

「俺は大丈夫です。では、改めて自己紹介します。タナの兄ヒュプです。妹がいつもお世話になっています、ありがとうございます。そして、この子はクロム、俺の友達です」

「ホ~!」


 二人が楽しそうに話している時、タスクはやっと復活して立ち上がる。

 こう見ると、エルマのパンチはタナとヒュプより遥かに強いだろう。


「俺は被害者だぞ!何故誰も俺に謝らないんだ!」

「お黙り!こんなけちくさい男は決してモテないよ!」

「そうだ、男ならつべこべ言わずに、そんなことさっさと水に流せ!」

「ホー!」

「クロスケまでかよ…分かった、俺は平気だ!」


 一応、タスクを「慰めた」あと、話再開。

 ヒュプは[?]カードを取り出して、言う。


「エルマさん、これを鑑定して頂きたいです」

「モンスターカードか。よーし、さっきのお詫びとして無料でサービスしよう」

「本当ですか、ありがとうございます」

「まぁ、ヒュプくんは礼儀正しい子だ」


 エルマはそう言いながら、カードを受け取る。

 続いてそのルビーのように鮮やかな瞳でカードを凝視する。

 そのカードが薄い光に包まれ、外観が変わった。


「これで終わりよ。せっかくの機会だ、うちの商品見ていくか」

「は、はい」


 ヒュプはカードを受け取り、タスクと一緒に露店に陳列された商品を見回す。


「相変わらず地雷装備ばっかりですね。エルマさん」

「そうよ。地雷装備を集めるのは私の趣味だわ。この子たちは無限の可能性を秘めていると思わない?」

「いいえ、全然思わないです。俺はもうβ版と同じ装備を集めることに決めました」

「全く、夢がないガキだわ。ヒュプくんはどう、気になるものあんの?」


 二人がふざけている間に、ヒュプの目がある装備に惹かれた。

 それは金色の弦がピカピカ輝いている小さな金属制の竪琴(たてごと)であった。


「エルマさん、このハープはいくらですか?」

「流石ヒュプちゃん、見る目があるね。これは[ドラウジネス]。敵を攻撃すると確率で敵を眠らせるサブ武器よ。もし催眠魔法を持っているなら成功率が高くなるよ」

「えっ!そんないい効果があるのに何で地雷武器と呼ぶんですか?」


 エルマがまた話をしていないうちに、タスクは答えを口にする。


「呪術師はその武器を装備できない。催眠魔法がないと、成功率はゼロとほぼ同じだ」

「そう、せっかくいい装備なのに。ハープを装備できるジョブは確か、シープとサモナー、そして封印術師だった」


 封印術師という言葉が耳に届くと、ヒュプは即座に興奮して目をキラキラさせる。


「俺は封印術師です。これを使えます、買いたいです!」

「確か、封印術師は沢山の妨害魔法が使えるぞ、正にヒュプ用の武器だぞ!」

「本当?それは良かった。それじゃ、5000Gでいかがでしょうか?」


 ヒュプは即座に道具欄を開き所持金を確かめたが、初期の1000Gしかなかった。

 まるで天国から地獄に落ちるように、顔に陰鬱を浮かべる。


「ごめんなさい。今は1000Gしかありません」


 エルマはその可哀想な顔を見て躊躇している。

 それは4000Gで仕入れた商品なので、いくら値引きをしても4000G以下にできないのだ。

 エルマが何とか方法を考えている間。

(ちら)を明けたのは、タスクであった。


「早く外でモンスターを狩りに行こう!ドロップする素材を売れば一日ぐらいで5000Gは稼げるぞ!」


 素材のことが聞こえて、エルマはあることを思いついた。



「私ちょうどツノラビットの角が欲しいのよ。20本集めたらこれと交換しよう!」

「それはいいぞ!やりがいがある。その角をNPCに売っても一本150Gしかしないぞ!」

「えっ!それなら3000Gしかない。いきなり2000Gも安くなるのはよくないんじゃないですか?」

「ヒュプくん本当に真面目な子だわ。安心して、それがあればもっといいものを合成できるわ」

「それで安心しました。今すぐ行きます!」


 ヒュプが直ちに狩りに行こうとしたところで、エルマに止められた。


「今はもう12時過ぎた、明日でも大丈夫よ。そうだフレンド登録しないと」


『プレイヤー名:エルマからフレンド申請が届きました。[承認][拒否]』


「これで登録終わりました、では改めて、よろしくお願いします」

「本当にいい子だわ、明日頑張ってくれよ!」

「分かりました、明日きっと集めます、今日はこれで失礼します」





 エルマの露店から離れて、ヒュプは言う。


「俺はそろそろ寝るぞ、タスクはまだ遊ぶか?」

「俺はもうちょうとやりたいことがあるぜ、明日学校で会おう」

「全く、遅刻はいけないぞ!お休み!」

「ネットゲーマーを舐めるなよ!お休み!」


 タスクと離れると、ヒュプはクロムを撫でながら語る。


「クロムと会えて本当に良かったぞ!今日お疲れ~明日も一緒に頑張ろう!お休み」

「ホ~」







 ログアウトして現実世界に戻った薫は縫いぐるみのクロムを抱きしめてベッドに寝転がる。


VR(バーチャル)ゲー(ゲーム)ってメッチャ面白かったぜ!明日もガンガン行くぜ!ねぇ~クロム~」

「ホ~!」


 こうして、クロムの鳴き声を真似した薫はすやすやと夢に誘われていった。


この度、自分の拙作をお読み頂き、誠にありがとうございます。

『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマークの登録をお願いします。

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