封印術師は地雷職!?
第四話を投稿しました。
本話から、薫と光の名前をゲーム内の「ヒュプ」と「タナ」で表示します。
これからもよろしくお願いします。
『タナからパーティー申請が届きました[承認][拒否]』
『パーティーに入りました』
「これでよし。お姉ちゃん、町から出るとモンスターが出るよ!武器を装備して」
「お姉ちゃんって呼ぶな!」
「じゃ?ヒュプちゃん~」
「好きにしろ!」
ヒュプが道具欄を開けると、そこには[初心者特典]という福袋のようなアイテムしかなかった。
「アレ?武器はないの?」
「そのバッグを使ったらすぐ装備を貰えるよ!」
「うん、分かった」
ヒュプは[使用]ボタンを押すと、一連の効果音が耳に流れ込む。
『初心者のモンスター図鑑を獲得しました』
『初心者のジャケットを獲得しました』
『初心者のクツを獲得しました』
『赤いポーション(小)3つ獲得しました』
『封印カード(レベル1)10枚獲得しました』
ヒュプはそれを装備して、本を持って戦闘のポーズを取る。
「現れよ、モフモフたち!」
「おおお!ヒュプちゃんカッコイイ~!」
タナは喝采しながら、両手を上げると黒曜石で作られた二本のダガーを取り出す。
少し見ただけでも、ヒュプは既にそれが普通の武器じゃないことを察知していた。
「その短剣強いよね?」
「おおお!目が利くね~、流石ヒュプちゃん!この[死神ノダガー]はβ版プレイヤーに贈られた特典だよ。でもベータテストが終わった時、お金と装備全て回収されちゃった」
「なるほど、早くモフモフと会いに行こう~!」
「ヒュプちゃん、お待ちなさい!」
一刻も早くモフモフと会おうという気持ちを力にして、ヒュプは盗賊のタナさえ追い付かないスピードで駆けていく。
緑色の海みたいな草原に、二人の少女は軽快な歩調でちょこちょこっと走っていた。
一陣の風に二人の髪を靡かせ、日輪の下に金と銀の二色の光が一斉に輝く。
二人は進むと、草原と森の境でモンスターに遭遇する。
草むらから尖った角を持った灰色のウサギが飛び出してきた。
「モフモフだ!可愛い――っ!おいで」
両手を広げて優しい顔を見せたヒュプに、ウサギはその鋭い角をヒュプに向けてかなりのスピードで攻めてくる。
元々、このモンスターの行動パターンはネガティブではなかったのだ。近寄ってきたヒュプが自分に脅威を持っているのを認知したからこそ、攻勢を取っていたのだ。
「下がれ、あたしに任せて!」
ヒュプがまだ反応を取っていないうちに、タナは既にウサギに向かっていた。
角がタナに突き刺される寸前、タナは体を軽く捻って攻撃を躱すと、続いて閃光の如く×の十文字を描き、ウサギを切り裂く。
ウサギは「ぎゅい」と声を上げて、地面にうつ伏せた。
頭の上のHPバーは残り僅かだった。
「タナ、やりすぎ。モフモフの子が可哀想!」
「これでも結構手加減したんだよ!瀕死状態に陥るとテイムの成功率が一番高いんだもの!早くテイムしなさいよ!」
「えっ、テイム?分かった、封印のことだね」
ヒュプは封印カードを一枚取り出して、空に上げる。
するとウサギの下に五芒星の魔法陣が輝き、ウサギは小さくなって内へ吸収されていく。
しかし、身動きをとるのもできないウサギが必死で魔法陣を拒否していた。
魔法陣が小さくなったり大きくなったりを繰り返したあげく、消えてしまった。
そして、エラーの音がヒュプの耳に届く。
『図鑑に登録していないモンスターは封印できない』
それを聞いたヒュプは驚いた顔をして尋ねる。
「図鑑って、何のこと?」
「図鑑んん!?」
タナは自分の耳を疑うように声を上げる。
と同時に、ウサギが立ち上がって、再び体当たりをしてくる。
「危ない!」
「はいな~、くらえ!」
タナの無慈悲な一撃を受けて、ウサギは光となって消えて行った。
「ウサギちゃん――っ!」
タナはヒュプの悲鳴を無視して、近づくと厳しい口調で質問する。
「ヒュプちゃん!まさかサモナーじゃなくて封印術師を選んだじゃないよね!」
「うん、そうだ。水臭いな、こんないいジョブがあったのに何で教えないんだよ」
ヒュプはタナの爆発寸前の顔に全く気付かず、話を続けた。
「そうだ。タナはきっとサプライズのつもりだったんだよね~、流石俺の妹だ!」
「ヒュプちゃんのバカ――っ!」
少女の怒鳴り声が静かな草原に響く。
「えっ!俺、間違ってるの?」
「森羅万象まるまる間違ってる!」
「まさか、封印術師が弱い!?」
「いいえ、このゲームは弱い職がないけど、封印術師はある意味で地雷職だよ!」
「地雷…職って?」
得心のいかないような顔をしたヒュプを見て、タナは溜息を吐き、説明を始める。
「はぁぁ…全く。よく聞いて、封印術師はサモナーと同じ従魔系だけど、大きい差があるんだよ!」
「サモナーの武器はモンスター事典。[テイム]というスキルを使って瀕死状態のモンスターを本に封じ込み、召喚する。それに対し封印術師では、まずモンスターを倒して、ランダムにドロップするモンスターカードを図鑑に登録しないと、そのモンスターを封印することができないよ」
「えっ!同じモンスターを捕まえることなのに、何で封印術師だけこんなに面倒なの?」
「サモナーにテイムされたモンスターは自分しか使えないのだ。逆に、カードに封じられたモンスターは誰でも使える、つまり…」
ここが聞こえると、ヒュプの目が嬉しくてたまらないようにキラキラと光っている。
「ペットショップ屋さんだよね!やっぱり俺の選択は正しかったぞ!でも、こんないいジョブなのに、何で地雷職って呼ぶの?」
「原因は二つある。一つはさっき言った登録必須のモンスターカードはもう一つの役割がある。ヒュプちゃん、今装備して武器の説明を開けて見て」
「うん、わかった」
――――――
[初心者のモンスター図鑑]
種類:メイン武器 レア度:1 スロット:2 装備:封印術師
モンスターの情報を記載する本。
魔法攻撃力+2 魔法防御力+2
――――――
「魔法攻撃力と防御力、そして…スロット?」
「そうよ、そこにモンスターカードを入れると、そのカードを持つ特殊効果を武器や装備に付与させるよ。普通効果のカードは簡単に入手できるけど、強い効果を持つレアカードなら、かなり高いよ!サモナーと封印術師以外、従魔はペットのような存在だった。わざと高価なレアカードを図鑑に登録すると損が大きい!」
「なんでこと……」
嘆くヒュプの姿をみて、タナの心も辛かったのだ。
しかし、厳しい事実を教えるため、心の痛みを我慢して説明を続ける。
「もう一つの原因はスキルだよ。サモナーはレベルアップと共に、一部の攻撃魔法習得できる。つまり、後衛として戦いを参加できる。逆に、封印術師は中毒や石化、そして催眠などの妨害魔法しか習得できない。一人で戦うことがすごく難しいよ!だから封印術師をやるプレイヤーがほんの僅かだった…」
封印術師のデメリットをよく聞いたら、ヒュプはやっとタナがなぜ怒っているのかが分かった。
すると額を下げて、意気消沈したような暗く重い声で謝る。
「分かった…ごめん。今すぐやり直しに行く、少し待ってくれ」
「分かればいいよ。大丈夫、あたしはさっきの場所で…」
タナはそう言いながら、急にあることを思い出した。
それは、万が一可愛いヒュプちゃんが男に戻ってしまったらどうすんのよっという大切なことだったのだ。
そう思ったら、ログアウトのボタンを押していくヒュプの腕を掴んで、さっきと全く違った口調で語る。
「ヒュプちゃんはペットショップ屋さんになりたいよね。だったら簡単に諦めちゃだめだよ!」
態度が不意に180度変わったタナを見詰めて、ヒュプは混乱した顔で問いかける。
「さっきはダメだと言ったよね。何で急に?」
「さっきはただ…一般論。そう、一般論を言ったまでだよ!でも、人生は一般論で決めちゃダメだよヒュプちゃん」
「でも、地雷職と言ってたよね……」
「それはきっと大丈夫、うん、大丈夫!ほら、異世界小説で不遇職のキャラがチートに成り上がったネタは結構あるよね!ヒュプちゃんはきっとすぐチートになれるよ!うん、そうそう」
「なるほど!ビックリさせないでよ!さっき本っ当にダメだと思ったぞ!じゃあ、早くモフモフのカードを取りに行こう!」
「はいな、任せて!」
こうして、でたらめな理由を信じたヒュプは再び笑顔を取り戻し、タナと一緒森に足を踏み入れる。
この度、自分の拙作をお読み頂き、誠にありがとうございます。
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