夜の図書館①
夕食の後。
薫と光は、ソファーにもたれてデザートタイムを楽しんでいる。
「お兄ちゃん、あたしが作ったケーキを食べてみて」
光は、美味しそうなスフレケーキを薫の口に運んだ。
すると、ケーキが薫の口の中でふわふわの雲のように溶けていく。
「美味しい!この高級店にも負けない美味しさ。流石光だ~」
「ふふふ~、褒めても何も出ないよ。お母さんと比べれば、あたしはまだまだだよ。それと、料理の腕なら絶対お兄ちゃんが上だと思う」
「アハハ~、そうか。料理なら誰にも負けんぞ!」
「ところで、お兄ちゃん。明日予定あるかしら?」
「ううん、別に」
「じゃあ、一緒に料理教室へ行こう」
「ん…料理のスキルか?それはいいんだけど、[EGO]に満腹度ってないんじゃない?」
満腹度は、その名の通り、ゲーム内で料理を食べると上昇する。これが低下すると空腹状態になり、ゲームによって能力低下やHPが減ることなどの制限がかかるシステムである。
「満腹度はない?そんなこと何処から聞いたかしら?」
「だって、能力低下のペナルティはないし、お腹も空いたような感じもないんだ」
「それは、リリースから五日間で満腹度は減らないものだ。明日から、自然に減るんだよ。明日一緒に行こう」
「そういうことか。それなら、お前朝寝坊しちゃダメだぞ」
「うん、明日楽しみだな。いけない、そろそろ皆と約束した時間だ」
光はそう言いながら、慌てて自分の部屋へ駆け込む。
それを目にした薫は、薄い苦笑が顔にのぼる。
「全く、相変わらずそそっかしいな。じゃあ、俺もそろそろ行こう。図書館の探険へ」
「クロム、フィユ。ただいま~」
「ホー」
「グォ」
魔法陣から飛び出してきたクロムたちはずっと親を待っていた子供のようにドンっとヒュプの胸に飛び込んで、甘えている。
ヒュプはクロムたちを撫でながら、優しい口調で慰める。
「寂しかったんだね。よしよし、俺は無事だよ。ほら、ビンビンしてるぜ」
「ホ~」
「グォ~」
「アハハ~、くすぐったいよ。そうだ、新しい仲間を紹介するぞ!召喚、レインブルビ!」
すると、魔法陣が眩い光が輝き、丸く可愛い子羊が現れる。
「メェェ?」
「ホー~」
「グォ~」
白い枕のような子羊を見て、クロムとフィユは満足しているようで、仲良く遊んでいる。
ぴょんと子羊の体に跳び上がったフィユ。ふらりとフィユの頭に飛び上がったクロムは翼を広げる。
「おおお!出た、トーテムポール三人バージョン~」
「ホ~」
「グォ~」
「メェェ~」
「三人とも仲良いな。お前の名前は、スフレだ!」
名前のスフレの理由は、柔らかな子羊が先ほど食べたスフレケーキと同じ、とてもふわふわだったからだ。
スフレの嬉しそうな様子を見て、ヒュプはスフレのステータスを空中に浮かべる。
――――――
名前:スフレ〈レインブルビ〉種族:野獣系 属性:光
レベル 1
体力10 筋力6
魔力15 精神13
敏捷7 器用7
スキル:[守護][レイLV1][ヒールLV1]
――――――
「ふむふむ。スフレは回復役だ。すげー!じゃあ、図書館へ出発!」
「メェェ~」
「ホ~」
「グォ~」
始まりの町の北に位置する図書館は、古典的な洋風の建物である。
ヒュプたちがここに着いた時、入口の扉は既に閉じていた。
「どうやら扉から入ることはできないようだ。ん…きっと別の入口があるはず…」
「ホー」
ヒュプが腕を組んで躊躇う一方、クロムはその柔らかな羽先で夜空を指す。
「えっ、空を飛んで入口を探すか。じゃあ、頼んだぞ!」
「ホー」
クロムは真っ白の翼を広げて、ふわりと空を飛んで行った。
クロムの調査結果を待っている間に、ヒュプは周りを見渡す。
昼間の賑やかなイメージと違い、息が聞こえるほど静かな所だった。
風が吹くと、木が囁くような葉音を立てる。
それが聞こえたヒュプの顔に、不安の色が浮かぶ。
「これ、ちょっと不味いかも。早く帰ってきてくれ、クロム」
ヒュプは幽霊やお化けなどの超自然現象が苦手なわけではないが、このような何時か何処かにお化けの出そうな雰囲気のところにいれば、全然怖くない人はほぼいないだろう。
クロムを待ちわびる時、誰かに後ろから目を隠されてしまった。
続いて、ある男性の声が響く。
「俺は誰だ~?」
声の持ち主はヒュプがかなり熟知した悪友タスクである。
「タスク、お前という奴!」
ヒュプが肘で反撃しようとした時、バンという拳骨を頭へ叩く音が響くと、タスクの手が離れていった。
急いで振り向いて見ると、頭を押さえてうずくまったタスク。そして、嬉しそうに勝利のポーズを取るフィユが目に入る。
「グォ~」
「メェェ?」
フィユの行動が全く理解できなかったスフレは目を見張って意味不明の表情を浮かべる。
フィユはその小さく丸い手でヒュプとタスクを指し、続いてタスクを殴る動きを真似する。
まるで「コイツがヒュプに手を出したら、遠慮なくぶっ殺す」と伝えるようだ。
すると、スフレは分かったように鳴き声で答える。
「メェェ~」
一連の出来事を見て、先ほどの緊張感が一気に吹き飛んだヒュプはニヤリと笑い出す。
「アハハハ~、フィユ、よくやったぞ!」
「グォ~」
「おい!被害者の俺に謝罪は?」
タスクはそう言いながら、復活して立ち上がる。
ヒュプは哀れむような目でタスクを見つめる。
「被害者?自業自得だろう。ねぇ~」
「グォ~」
「メェェ~」
「全く、お前と一緒だとコイツらにやられそうだ。ところで、何でお前はこんなところで?それと、クロスケの奴は何処に行ったんだ?」
「うん、クエストだ。図書館の夜しか現れない魔法陣を探してるんだ。でも、扉がもう閉じられてるみたいだ。クロムは別の入口を探していたんだ」
「ほほ~、面白い。このタスク様も手伝おう」
タスクはとんでもないバカだが、その実力は決してただものじゃない。
ヒュプはここまで考えると、
「分かった、今日は頼んだぞ」
「俺に任せろ」
タスクはそう言いながら、ヒュプの肩に手を差し伸べる。
「メェェ!」
「グォ」
スフレがタスクに体当たりをしようとした時、フィユはスフレを止めて、夜空を指さす。
「ホー!」
クロムの鳴き声が響くと同時に、氷の槍が物凄い勢いでタスクに飛んで来る。
「うわぁ!クロスケの奴、派手すぎる歓迎だな!」
タスクはそう言いながら、大きく一歩を踏み出し、氷の槍を剣で切り裂いた。
すると、低空に下りるクロムに声を掛ける。
「よ!クロスケ、元気だか」
クロムはタスクを無視して、ヒュプの肩に降りた。
そして、くちばしにキラキラと輝いた鍵を咥えている。
『貴重アイテム[扉の鍵]を獲得しました』
「おおお!鍵を見つけたんだね。流石クロムだ!さぁ、早く中に入ろう」
「ホ~」
「グォ~」
「メェェ~」
「おい!待ってくれ!」
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