一人の戦い
「誰もいない、まさかもう逃げちまったか?」
「バカ言うな、道はただ一つだ。きっと何処かに隠れてるだろう。例えば……」
ツヤツヤの黒髪に白い瞳のヒューマンの弓使いはそう言いながら、ヒュプが隠れている岩に近づいて来る。
どうせ敵に見つかれば、外へ出って、タナたちが来る前に何とかして時間を稼ごう。
ヒュプはそう思って、後ろから出ていった。
「ホ~、パンタちゃんが出たな。[グリンブルスティ]を倒したのはお前だな?」
紫色の髪のリーダーみたいなダークエルフの剣士がそう尋ねる。
「あぁ、そのイノシシなら、俺が倒したぞ!」
「おいおい、嬢ちゃんよ。俺という自称はお前のようなちびっ子で使えるもんじゃないぜ!」
その悪意を込める目つきと挑発的な口調に対して、ヒュプは直ちにその顔をバンっと殴りたいが、今一番大切なのは時間を稼ぐことだと思って、怒りを飲み込む。
そして、ヒュプはあることに気付いた。それは、三人は武器を持ったままだが、襲って来る様子はなさそうだ。
コイツらはきっと何か企んでいると思って、ヒュプは眉間のしわを寄せる三人を睨み返す。
「自称は俺の自由だ!なんだ、お前ら。用事がないなら、俺は帰る!」
「オットー!そうはさせないぞ!」
ヤギのような髭を生やしているヒューマンの魔法使いはそう言いながら、弓使いと一緒に道の前に立ちはだかる。
「嬢ちゃんよ。俺たちが本気を出せば、お前はとっくに冷たい死体になっているぞ!さぁ、早く[グリンブルスティ]のカードを寄こせ!」
ヒュプは彼らの意図がやっと分かった。
しかし、ドロップのことを知っている人はタナとその仲間たちしかない。
彼らの情報の出所を探るため、ヒュプは惚けた顔を見せる。
「アレ、カードって、ドロップしてないぞ。きっと何かの間違いだろう」
「ふざけるな!俺ははっきり聞こえたぞ、お前は昨日『うわぁ!めっちゃ強えな!これがあれば、ハープって範囲攻撃ができるぞ!』と言ってたぞ!」
魔法使いはヒュプの口調を真似してそう反論してくる。
狙った情報源は予想より早く敵に暴露されていた。そしてわざと女の声を真似すること。
ヒュプはこの人たちが本当に悪役をこなせるのかと疑い始めた。
「はぁ…どうやら惚けても意味がないらしいな。もし、渡さないと言ったら、お前らどうするつもり?」
「はっ!往生際の悪い嬢ちゃんよ!チョーシ乗るなよ。俺たちはPKだぞ!」
「はぁ…俺を殺すつもり?デスペナルティなら、一時間以内はステータスが八割になるだけだろう!?そして、俺を殺したらお前らのデスペナルティはもっときついだろう?」
ヒュプの言葉に額に青筋を浮かべる剣士は、剣を抜いてヒュプの胸に向ける。
「ちぇっ、がきんちょの癖に良く知ってるな。なら、あの世へのお土産として、教えてやろう!その一時間内でもう一回殺されたら魂が一つなくなるぞ!大聖堂で魂を回復する値段は100000Gだ!カードを渡さないと、俺たち[デス・バンパイア]は吸血鬼のようにお前の血を全て吸い取るぞ!そして、俺たちはデスペナルティを避ける方法が沢山あるぞ。例えば、お前を半殺しまで殴って、コイツのようなキラー専任で殺せばいいんだ!」
剣士はそう言いながら、剣を収めてわきに寄る。
「やれ!」
「はい~」
魔法使いの男は手で顎髭を扱いながら、下品な目つきでじろじろとヒュプを睨む。
「カードを渡さないと、嬢ちゃんの初体験を頂くぞ。オーホホホ~」
男がそう言いながらヒュプに近づこうとした時、足が鉛のように重くなり、全く動かなくなった。
と同時に、弓使いは不意に意識が消えたように、地面にバタンと倒れて寝ていた。
「お前ら、何を!」
「いや、分からん。急に動けなくなっちまった!」
「お前の仕業だな!」
ヒュプは魔法使いと弓使いが道を遮った時から、魔法使いの足に石化魔法を施し続けている。
石化状態になっても、足を動かさないと全く気付かないのだ。魔法使いの足がきっちりと石の状態になった後、石化魔法を維持しながら、弓使いに催眠魔法を使い続けている。
厄介なのは剣士の男だった。二人が同時に睡眠状態になる可能性はほぼゼロだ。
ヒュプにとって、彼が魔法使いに道をあけるため、わざわざわきに寄るのは絶好のチャンスだ。
「いろいろ教えてくれてサンキューな!では、アデュー~!」
ヒュプはそう言いながら、脱兎の勢いで駆け出した。
しかし、透明の壁のようなものとぶつかって、地面にバタンとへたり込んでしまう。
「いてぇ!何もないのに、なんで!」
ヒュプが倒れていた矢先に、剣士の男がやってきて手でヒュプの胸倉を掴んで、無理やりに引き寄せてしまう。
「お前、チョーシ乗りすぎだ!女だから手加減してやったのに、俺たちを舐めるなよ!」
剣士の男がヒュプを脅す時、魔法使いと弓使いは異常状態から抜け出して、顔を顰めて近づいて来る。
「もう話す意味ねぇ!このガキに死の味を試してあげろ!」
武器を持って嫌らしい目つきで自分をじろじろと見ている二人に対して、胸倉を掴まれるヒュプは反抗の意思を少しも表していない。
弓使いが弓を引き絞る。鋭い矢に突き刺される瞬間、ヒュプはゆっくりと目を閉じる。
「ス…」
[スヤー]を発動しようとした時、ザクッと斬る音が響くと共に、魔法使いと弓使いはともに苦しそうな顔をして、倒れていた。
ヒュプが急いで目を開くと、武器を持った四人の少女は厳しい目つきで自分を脅している男を睨んでいる。
そう、彼女たちはタナの仲間である。
しかし、そこにタナの姿は見えなかった。
「ヒュプちゃん、クルルがすぐ助けてあげる!」
「醜い男めぇ、早くヒュプちゃんを放せ!その後さっさと死んでゆけ!」
「なんだ、お前ら、このがきんちょを死なせたくないなら動くな!」
剣士はそう言いながら、剣を振り上げ始める。
しかし、セツナたちは怖い顔を少しもせず、近づいて来る。
ヒュプははぁっと溜息を吐き、剣士を説得し始める。
「お前、早く俺を放さないと、死んじゃうぞ」
脅迫を全く恐れない四人。そして自分を説得してくれた人質。
「お前ら、来るな!お前も怖がる顔をしなさい!人質だろう!」
剣士の男はすっかり混乱した。剣を持って無造作に振り回す。
「デスクロススラッシュ!」
後ろから澄んだ少女の声が響くのと同時に、剣士は背中が火に焼かれたような痛みを感じ、地面に倒れていた。
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