モフモフたちの好み
太陽が天頂を通過したあと、ヒュプたちは荒涼とした枯れた潅木まじりの岩場に行き着いた。
ハーピーが棲息している岩山を目指して進むと、険しい山道が視界に飛び込む。
しかし、その狭い道であるモンスターの群れに立ちはだかってしまう。
それは、背が棘のように固く鋭い体毛で被われる小型のハリネズミである。
そのモフモフの顔と黒曜石のように深い黒の瞳を目にすると、ヒュプは即座に目がキラキラしてうわっと声を上げる。
「見て見て、ハリネズミだ!モフモフで可愛いな!」
「ホー!?」
「グォ!?」
クロムはビックリして、直ちにフィユを連れて、一緒に地面に降りる。
続いて、羽先でハリネズミの背に向かって指しながら、まるで「それはふわふわの体毛じゃなく、棘だ!」と言うように鳴き続ける。
ヒュプはクロムとフィユを抱いて、撫でながら説明をする。
「クロムは分からないでしょう?ハリネズミの棘はね、筋肉と繋がっているんだ。刺激を受けた時しか棘を逆立たせないよ。普段なら、棘が倒れた状態でふわふわの毛皮と同じ感触だぞ!」
何故ヒュプはハリネズミについてこれほどまで詳しく知っているのか。
それは、普段からずっとモフモフで可愛い動物に関わる知識を集めていたからだ。
でも、ここで簡単に負けることを認めたら、クロムじゃないのだ。
クロムは「あなたに任せる!」のような鋭い眼差しでフィユに目配せする。
すると、フィユは「私に任せて!」と伝えるように、拳で自分の胸を叩く。
フィユはまずそのふわふわの手で体の白い毛皮を叩く。
「えっ!フィユの毛皮は白いってこと?」
「グォ~」
続いて、隣のクロムの羽を指す。
「クロムの羽も真っ白って?」
「グォ~」
最後に、向こう側の全身が灰色のハリネズミを指しながら、怒ったように鳴き出す。
「グォ!」
ヒュプはやっと分かった。同じモフモフのフィユとツノラビットに対して、クロムの態度が何故雲泥の差があるのか。
それは、色の好みであったのだ。そして、フィユも同じく白好きであるようだ。
「あっ!分かった、フィユとクロムは白いモフモフ以外全部受け入れないんだね!?」
「グォ~」
「ホ~」
「そっか。分かった、俺も白くて柔らかい子が好きだぞ!じゃあ、早く出発するぞ。ハリネズミの行動パターンは確か、攻撃を加えないと反撃しないリンクだそうだ。ん…できれば戦いたくないな」
ヒュプの本望は封印しないなら、わざわざ殺す必要がないのだ。
しかし、クロムとフィユはそう思わなかった。どうやらコイツはまだ諦めていないようだと思って、フィユに目配せをした。
フィユは心得たようにその丸く小さな頭をこっくりと頷いて、クロムの耳元でひそひそ話をする。
「グォ、グォグォ、グォ!」
「ホー、…ホー!ホ~」
「グォ~」
するとクロムとフィユはハリネズミたちをジーっと睨んで、冷ややかな笑みを浮かべる。
「クロム、フィユ。あっちから遠回りができるらしい。俺、ちょっと見に行く」
クロムとフィユにとって、優しい心を持つヒュプが行ってしまったのは絶好のチャンスだ。
クロムはサイコキネシスでフィユを連れて、数十メートル高さの空にふらりと舞い上がる。
「ホー!」
と鳴き出すと、全身の魔力を込めて、フェユを砲弾のように地面へ射出する。
「グォ!」
フィユは防御を象徴する黄色いオーラを纏う。降下しながら、渾身の気を溜める。
地面に落ちる寸前、それを一気に爆発させる。
耳を聾する雷鳴のような爆発音がドッカンと響くと共に、ハリネズミたちが周りの小石と共に嵐のような上昇気流に空に吹き飛ばされた。
そこでハリネズミたちを待っていたのは、無数な氷の槍であった。
十数匹のハリネズミは何も知らないまま一つ一つの光となって、消えてしまった。
クロムは低空に降りて、即座に周囲を見回す。
ヒュプの姿がないのを確認して、既に現場の証拠を捨てていたフィユと一緒に勝利を祝う。
「ホ~」
「グォ~」
ちょうどいいところに、道を探しに行ったヒュプは帰ってきた。
「ダメだ、どうやら道は唯一つしかない。やはり、ハリネズミたちを倒すしかない。あれ?ハリネズミたちって何処かに行った?それと、さっきの音は聞こえたか?」
「ホ~」
「グォ~」
クロムとフィユはまるで「聞こえないよ、気のせいだ」と言うようにそのモフモフの頭を横に振る。
それを見ると、ヒュプは苦笑を浮かべて、話を続ける。
「そ…か。でも、ハリネズミたちは?ん…ドロップアイテムがないなら、行っちゃったかな」
ヒュプの下手な推理が耳に届くと、緊張の糸が切れたクロムとフィユがはぁっと息を吐く。
クロムは「コイツがバカで本当に良かった」と言うように、フィユの肩を叩いた。
そして、一緒にヒュプの肩に飛び乗った。
「さぁ、あの岩山目指して、レッツゴー!」
「ホ~」
「グォ~」
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