商人というもの
「ナニイイイイ!この人の数は!!!」
フィユの装備品を作るため、ヒュプは始まりの町の西に位置するメルクス鉱山に辿り着いた。
そこで目に映ったのは、モンスター狩りをしているプレイヤーたちの姿だった。
「どうしよう……」
ヒュプが狙うのは、ここで二時間に一度ランダムで現れる[エメルゴーレム]というボスモンスターだった。
[エメルゴーレム]がドロップする[エメラルド]はフィユの装備品[若竹ノ髪飾り]を作るため最も重要なレア素材である。
しかし、この至る所にプレイヤーがいる狩り場の中で、[エメルゴーレム]を探してから倒すことがどう見ても無理であったのだ。
「グォ…」
ヒュプはガッカリしたフィユを抱いて、優しく撫でながら慰める。
「大丈夫。きっと別の方法がある!約束する、必ず進化させるぞ!」
「ホー」
クロムもまるで「心配するな」と伝えるようにこくりと頷く。
すると、落ち込んでいたフィユはニヤニヤ笑みをふくんでいる。
「グォ~」
昨日の看板娘パンダちゃんのおかげで、エルマはやっと開店の資金を稼いで、商店街に一番目立つ場所で自分の店を開くことができた。
エルマの店舗に辿り着いたヒュプは、カウンターの前に立って話をする。
「エルマさん、聞いてくださいよ!」
「あら、ヒュプくんじゃない。おおお!クロムちゃんは進化したのか。おめでとう。フィユちゃんもいつものようにやる気満々だわ~」
「ホ~」
「グォ~」
ヒュプの顔色に気付いて、エルマが尋ねる。
「ヒュプくん大丈夫?元気がなさそうね。何か困ったことがあったの?座って話しましょう」
そう言いながら、エルマはカウンターから出て、ヒュプをリビングに連れてソファーに座らせて、尋ねる。
「それで、うちの可愛い看板娘は何か困ったことがあんの?お姉ちゃんに教えて~」
「エルマさん、その変な呼び方を辞めてくださいよ。俺は男ですから」
「へいへい、では?」
「はい、フィユの装備品を作るために鉱山に行ってたんですけど、あそこでなんと、沢山の人がモンスター狩りをしてたんですよ!」
「あー、また[エメルゴーレム]狩りの時期が来たか。懐かしいね~」
「狩りの時期って何のことですか?」
「昨日運営から届いたメール見た?」
「え、見ましたよ。一週間後、バトルロワイアルというイベントが行われることですよね」
「そうだ。バトルロワイアルはプレイヤーたちが殺し合って、死亡回数で争うんだよ」
「それは分かるけど、[エメルゴーレム]と関係あるんですか?」
「勿論だわ。[エメルゴーレム]のカード効果は中型モンスターからのダメージを半減するのよ。プレイヤーは中型モンスターに属するから、そのカードの価値、言わなくても分かるよね」
「うん、わかりました。つまり、一週間の内は、あそこはずっとあんな状態が続いているんですね」
何も知らず進化に期待するフィユを目にして、ヒュプはふーっと溜息を吐く。
「どうしよう……フィユはずっと楽しんでいるのに。ガッカリさせたくないんですよ」
「安心して、ヒュプくんが欲しいのは、[エメラルド]でしょう?それなら倒す必要ないんじゃない?例えば[エメルゴーレム]を倒したプレイヤーから買い取るとか?まぁ、実は昨日ちょうど入荷してたんだ~(ニヤリ)」
「えええ!本当ですか?いくらですか、今すぐ売って欲しいです!」
まるで可愛い縫いぐるみを見つけたようにぞくぞくする金髪幼女を目にして、エルマはにやりと笑って話を続ける。
「それはレア装備を造るための素材だから、400000Gくらいかな」
「えっ!そんな高いんですか。どうしよう……」
[モンスターラッシュ]をクリアして貰った100000Gと昨日のバイト代を合わせて、ヒュプの総財産はちょうど400000Gであるが、それはペットショップの開店のために貯めた大切な資金であったのだ。
だが僅か数秒で、モフモフファーストのヒュプはフィユの進化が最優先であることを決めた。
「エルマさん、これをください」
「ほほ~、それは開店の資金だよね。隣の店舗はもう諦めたのかしら?」
「はい、フィユを絶対に進化させるっとを約束しましたから、お金ならまた貯めることにします」
「ウフフ~、ヒュプくんは本当にこの子たちが好きよね。どうしようかな、ただでもい・い・ん・だ・け・ど」
「えっ!本当ですか!エルマさん!」
「でも、その代わり、パンダちゃんセットの情報を教えて~」
「俺の装備のこと?言わなくてもわかりますよね。ビックパンダからドロップしたんですよ」
「でもおかしいな〜、昨日の午後から今まで、ドロップ情報が一件もなかったわ。まさか、ドロップ率がかなり低いんじゃ?」
「えっ!ドロップ率はあんまり低くないと思いますよ。おかしいな、ん……あっそうだ。図鑑を見ればすぐわかりますよ」
ヒュプはそう言いながら、ビックパンダのカードを取り出して図鑑に登録する。
――――――
ビックパンダパンダ
種族:野獣系 属性:地 亜種:有り
体力★★★★☆
筋力★★★☆
魔力★★
精神★★
敏捷★☆
器用★☆
竹林に棲息する動きが鈍く大型パンダのモンスター。
おとなしいイメージと違い、人と遭ったらすぐ丈夫な足で攻撃してくる。
行動パターン:アクティブ
ドロップ:[竹]50%、[竹の子]25%、[ビックパンダのカード]1%、[パンダちゃんのズキン]0.1%、[パンダちゃんのシャツ]0.1%、[パンダちゃんのショートパンツ]0.1%、
[パンダちゃんのイヤリング]0.01%
[パンダちゃんセット]は幸運35以上の場合しかドロップしない。
[スロット装備効果]
位置:服 体力+3%
――――――
その過酷な条件とドロップ率を目にした二人は、驚きで目を見張る。
「ヒュプくん、私の商人の目から見れば、パンダちゃんセットは絶対に、1000000G以上の価値があるわ」
ヒュプは身に纏ったふわふわのパンダちゃん装備を触って、震える声で話をする。
「ひゃ、ひゃ、1000000だとう!嘘だよね、ずっとネタ装備だと思っていましたよ」
「分かった。これで取引成立~、ヒュプくん、約束した[エメラルド]よ~、受け取って」
「でも、こんな情報に本当に400000Gの価値がありますか?やはり、このまま貰うことはできません」
「ふふふ、ヒュプくんは本っ当にいい子だわ。安心して、知り合いの情報商人がちゃんと立て替えてくれるから」
『[エメラルド]を1つ獲得しました』
「えええ!もしかして、エルマさん最初からパンダちゃんセットの情報を狙ってたんですか?」
「そうよ~、商人はそういうもの~、ヒュプくんは商人を目指したいならまだまだだね~、うふふ~」
「全くもう!エルマさんの意地悪」
全て図られていたことを知って、ヒュプは少し拗ねた様子で呟く。
「でも、これでフィユとの約束を果たせます!ありがとう~」
天真爛漫なキラキラした笑顔を目にすると、エルマは再び「マジ天使だ!この反則の笑顔は男であるはずがない!このままぎゅっと抱き締めたい!」と妄想に陥る。
その邪念は全て顔に映し出されたのである。
しかし、無邪気なヒュプはその真っ赤な顔はきっと具合が悪いと思って、心配して尋ねる。
「エルマさん?大丈夫ですか?」
「だ、だ、大丈夫。ちょっと考えごとをしてた。アハハ~」
「エルマさん変なの~、でも大丈夫でなによりです。では、俺はお先に失礼します。行くよ、クロム、フィユ」
「グォ~」
「ホ~」
エルマの店から出て、ぴょいぴょい飛ぶようにタミの店へ向かって行く。
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