ゲームを始めよう
「これから指導が始まるよ!ちゃんと聞いてね」
「了解!」
夕食が終わって、光は[EGO]のサービス開始までの時間で薫にゲームの基本知識を教える。
光はベッドに座ってメガネを押し上げるような動作をすると、話し出す。
「まずは職業。[EGO]の中では戦闘職と生産職に分かれている。生産職は後置くね。戦闘職の中には物理系と魔法系、支援系、そして従魔系がある。では、質問。モフモフと一緒に戦うのはどれ?」
このような問題は言わなくても分かるだろう。
でも、講師が大切な妹なので、薫は入学したばかりの小学生のように笑って答える。
「ん…従魔系だ!」
「正解~!従魔、すなわちモンスターだね。一般職なら一匹しか使役できないけど、サモナーという職は最大五匹を召喚できるよ。前に見せたCMはサモナーの戦いだったんだ。お兄ちゃんは…きっとサモナーをやりたいでしょう?」
動画に見ていた可愛い猫のことを思い出すと、薫は興奮して視界がクラクラする。
「うん!それは勿論だ!」
ウキウキした顔を見て、光は癒されたようににっこりする。
指導再開。
「次はステータス。[EGO]のステータス成長率はジョブによって決められてるから、気にしなくても大丈夫。重要なのはスキルの方だね。スキルの経験値はそのスキルを使う事でしかもらえないんだ。ただし、サモナーはモンスターを召喚するだけでEXPを貰える。とても便利な職だよ。あとはそうだなぁ、装備に付けるスキルにはレベルがないから、どう使ってもレベルは上がらないよ」
「うん、わかった」
光は真面目にノートを取る薫を目にすると、薫の頭を撫でる。
「真面目なお兄ちゃん大好き~!続いては種族のこと。種族はステータスに補正がかかるよ。そしてユニークなスキル。例えば、フェアリーと天翼族はMPを消費して、短時間だけ空を飛べるようになるんだ。サモナーは確か…エルフとフェアリー、そして天翼族の方がいいと思うな」
「わかった、ところで、光の種族は?」
「えっと、β版でアサシンという暗殺者の職だったから、相性が一番いいダークエルフを選んだんだ。あっ、そうだ。正式版から新しい種族が出るって言ってたよ」
「新しい種族か、もうワクワクするぜ!」
「お兄ちゃんったら、子供みたい」
「失敬な、俺の方が年長者だぞ!そして、身長も俺の方が高いぞ!」
偉そうにする薫を見ると、光は小悪魔のような笑みを浮かべる。
「ほほ~、結構自信があるね。155センチしかないのにお兄ちゃん~」
「るっせえ!俺はまだまだ成長期だぞ!あっ、そうだ。ゲームで背が高いキャラを造ればいい!」
「いいアイデアだね。流石お兄ちゃん。でも残念、[EGO]はそんなことできないよ。勿論、性別も変更できないよ」
懸念している身長問題がゲームの中でも改善できないと分かったため、薫は沈鬱極まる調子で呟く。
「へ――!つまんない…」
「さてと、そろそろ時間だよ。よいしょっと」
光は立ち上がって、自分の部屋に戻ろうとしたところで、大事なことを思いついた。
「あっ、危なかった!集合場所を言い忘れちゃった。広場にはきっと大勢の人が集まるから…うん、広場の南にある勇者の像の前で集まろう」
「広場の南ね。了解!」
「それじゃ、ゲームの中で会いましょう!」
光はそう言いながら、足早に自分の部屋に戻る。
「さてと、俺もそろそろ始めよう!クロム、行ってきます!」
薫はベッドに置いているクロムという名前のフクロウのぬいぐるみを撫でると、メガネのような機器とグローブを着けてベッドに寝転がる。
起動すると共に、催眠にかけられたように目の前が真っ暗になる。
続いて、暖かな光が閃くと、真っ白な空間が薫の視界に飛び込む。
「これがゲームの中か。凄い! 」
ゲームを始める前に、光と祐に何度も電脳世界はリアルと全く同じ感覚だったと教えられたが、薫はずっとモニター画面をVRのやり方で映すだけと思っていた。
しかし、現実世界とこれほどまでそっくりにしたゲーム世界は既に想像を遥かに上回っていた。
感心している間に、透き通るような声が聞こえる。
『[EGO]へようこそ。これから初期設定を行います。まず、名前を入力してください』
「名前か……そうだ、これにしようっと」
自分と光の髪色のことと双子兄妹を考えると、薫はギリシャ神話に登場する双子の神――タナトスとヒュプノスのことを思い出した。
そして、『ヒュプ』と入力して確認ボタンを押す。
『それでは、次にボディーをスキャンするため、次の指示に合わせて体を動かしてください』
一連の指示に従って体の各部位を動かし、スキャンが終わる。
『ゲームでは現実のことを考え、髪型と瞳色しか調整できません』
「まぁ、それはもう知ってたぞ!それじゃ、髪はそのまま、せっかくのチャンスだから目の色を変えるぞ」
小学生まではずっと短髪だったが、光にどうしても同じ髪型をしてほしいと言われたため、中学生から髪を伸ばし始めた。今では光と同じ腰まである長い髪をしている。
薫は黒い瞳を髪色と同じピカピカな金色に変えると、キャラ設定を終える。
『続いて、種族と職業を選んでください』
すると前に光が言った種族の名前を表示したパネルが薫の前に浮かび上がる。
薫はざっとリストを見渡すと、目線が直ぐに右下にある[NEW]の赤い文字を付けた[半神族]という名前に惹かれる。
「[半神族]って、光が言った新しい種族だよね」
薫はそう言いながら、ボタンを押す。
すると種族の説明パネルが浮かび上がる。
――――――
[半神族]
神と人との間に生まれた存在である。
ステータス補正
体力0 筋力0 魔力1 敏捷0 器用1 精神1 幸運1
種族スキル
[神化]
体に眠れる神の力を一気に引き出し、10秒間に全ステータスが2倍となる。
6時間に一度しか使えない。
――――――
「おおお!これ最高じゃないか!うんうん、これに決めるぞ!」
[半神族]のステータス補正は他の種族と比べて少し劣るが、使い方によっては凄く強くなれる。
しかし、薫にはそれが分かるはずがない。
彼はただ単に双子神の名前を使うなら、やっぱり種族も神を選んだ方がいいと思っただけだ。
そう決めると、[半神族]のボタンを押す。
すると、物理系、魔法系、従魔系など職業が書いてあったパネルが現れた。
既に光に教えられたため、薫は迷わずに[従魔系]を選ぶと、サモナーともう一つの職の説明が浮かぶ。
――――――
[サモナー]
モンスターを使役して戦う職業。
最大五体の従魔を召喚できる。
メイン武器 ブック
初期スキル [召喚][従魔強化][テイム]
[封印術師]
野生のモンスターをカードに封印する職業。
封印したモンスターはプレイヤー間で交易することができる。
最大三体の従魔を召喚できる。
メイン武器 ブック
初期スキル [従魔の盟約][召喚][従魔強化]
――――――
「おおお!モンスターを封じて他人と取引って、ペット商人じゃないか!そんないいものがあったのに、何で光は言ってないんだよ!これに決めるぞ!」
薫は[封印術師]が自分の夢――モフモフに囲まれるペット商人だと信じて、最後の確認ボタンを押す。
『初期設定が終わりました。これから[EGO]の世界で頑張ってください』
すると薫は眩い光に包まれ、ゲームの世界に飛び込んで行く。
この度、自分の拙作をお読み頂き、誠にありがとうございます。
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマークの登録をお願いします。
拙作を評価していただけるととても励みになりますので、大変嬉しいです。