パンダちゃんとパンダちゃん
ヒュプはクロムについて、竹林の中心部にある小さな池に辿り着いた。
「グオォ~」
そこには、数匹のヤンチャパンダが楽しそうに遊んでいる。
そして、ササの髪飾りをつけた陽気な子が楽しそうに跳んだり走ったりしている。
その子たちをうっとり見入る、ヒュプは夢中になっているとなかなか抜け出せないのだ。
「クロム、見て見て!あの子すっごく可愛いよね!ねぇねぇ!」
興奮しすぎるヒュプを目にして、クロムはその小さく丸い頭を横に振る。
「コイツもうダメだ~」と言いたげそうな目つきでヒュプを見る。
「確か亜種がないはず……何であの子だけ頭に葉をつけてるの?」
「ホ~」
「アハハ~、クロムは喋れないよね。それじゃあ、早く可愛い子を捕まえよ~」
ヒュプはそう言いながら、慎重に近づいていく。
しかし、パンダたちはまるでヒュプの非常に興奮している気配に驚いたように、即座にその場から逃げ出してしまった。
「そんな、何で皆逃げちゃったんだ?えーん……クロム、どうしよう……」
「ホー!」
クロムは地面に降りて、翼を動かしてハープを弾く真似をする。
「美しい音でパンダちゃんたちをここに引き寄せる…の?」
「ホ~」
「おおお~、流石クロム、頭いい~」
「ホ~」
「よーし!俺に任せて!」
ヒュプは竹に腰掛けて、その繊細な指でハープの弦を弾く。
すると美しいメロディーが即座に竹林に満ちた。
そして、クロムが示したように、ヤンチャパンダたちが本当にハープの音に引き寄せられて、リズムに乗って嬉しそうに動いていた。
「よーし、このまま音符にあたってくれ!寝たらすぐ封印できるぞ!」
残念ながら、夢と現実の間には雲泥の差がある。
その催眠効果の音符がどうしてもパンダたちに当たらない。或いは、避けられてしまうのだ。
時間はそのまま流れていく。
陽光に照らされてヒュプが焦燥に駆り立てられるため、音律の調子が少し外れてしまった。
すると、パンダたちがまた逃げてしまったのだ。
「もう…どうしようもないよ。クロム…どうすればいいのかな?もう!モフモフのパンダちゃん欲しい!」
先まで男宣言していたのに、今はまるで幼女のように地面にへたり込んで、駄々をこねてしまった。
元々、ヒュプはただ溜息を吐くだけだった。
しかし、同じ言葉で幼女の口から聞くと、雰囲気が全く変わってしまうのだ。
他人に与えたイメージは、我が儘の金髪幼女だったのだ。
クロムはそのようなヒュプを目にして、溜息を吐く。
「ホ…」
続いて、先ほどのヒュプがパンダちゃんセットを持って躊躇する様子を真似する。
「クロム?そのポーズって、まさかさっきの装備?」
「ホー!」
「パンダになるとパンダちゃんたちが逃げない?そんなことあり得ないぞ!そして、俺は男……何だその目は!?」
クロムは目つきが鋭くなり、「私を信じて、きっとできる」とでも言いたげそうにヒュプの顔をジーっと睨む。
「わ、わかったぞ!べ、別に好きじゃないよ。モフモフのためだから。うん、モフモフのためだから!そして、スカートじゃない…よね」
ヒュプは言い訳をしながら、パンダちゃん装備を取り出して着ていた。
超えてはいけない一線を越えた後、可愛いパンダガールがここに誕生した。
「うわぁ!綿菓子のようにふわふわだ~、ありがとう、クロム」
「ホ~」
可愛いパンダみたいなヒュプを目にすると、クロムは嬉しそうに鳴きながら空に舞い踊る。
「全く、クロムは本っ当に子供みたいだね。あれ、この感触は?」
ヒュプが空で遊んでいるクロムに気を引かれている間、モフモフのふわふわした感じがふくらはぎに伝わる。
うつむいて下を見ると、頭にササの髪飾りを付けたモフモフの頭が目に映る。
「お前は?さっきのモフモフの子だ~!」
「グォ~!」
パンダはヒュプの足に沿って体にするすると登った。
「可愛い――っ!やった、クロム最高!モフモフ最高!」
ヒュプは即座にパンダを抱き締めて、撫でながら尋ねる。
「ねぇねぇ、このササの髪飾りはなに?何でお前しか付けないの?」
「グォ!」
髪飾りのことを聞くと、パンダはまるで大切なものを守るように手で髪飾りを隠した。
「それはきっとお前の宝物なんだね。安心して、それを奪う気はないよ」
「グォ~」
「それじゃ、俺たちと一緒に行かない?」
「グォ~」
「じゃあ、ちょっと寝てください~、子守唄」
するとパンダは眠気に誘われたように、ヒュプの懐の中でスヤーと眠りについた。
ヒュプはパンダを優しく地面に置いて、封印カードを取り出した。
「封印!」
すると、幸せそうな寝顔を浮かべるパンダが魔法陣に吸い込まれていった。
『封印成功しました。スキル:[従魔の盟約]レベル2に上がりました』
『[ヤンチャパンダ]の召喚カードを獲得しました』
「やった!パンダちゃんゲット!」
「ホ~」
「出でよ、パンダちゃん!」
すると地面に魔法陣が輝き、陽気なパンダが現れると即座にヒュプの胸に飛び込む。
「グォ~」
「アハハ~、くすぐったいよ~!よしよし。そうだ、名前ね…」
ヒュプはパンダを撫でながら、そのササの髪飾りに視線を向ける。
「葉の英語はリーフだ、けどあんまり可愛くないな。ん…フランス語なら確かフイユだよね。ん…フィユはどう~?」
パンダは満足しているように、嬉しそうに鳴きながら走ってきた。
「グォ~」
「よーし、お前の名前はフィユだ!紹介するぞ、この子はクロム、仲良くしてね~」
クロムは地面に降りて、フィユと向き合って首を傾げてお互いを見ている。
するとその白く柔らかい羽先をフィユに差し伸べる。
フィユは丸くふにふにとした肉球でクロムの羽先を軽く握る。
そう、可愛いモフモフたちは握手していたのだ。
「ホ~」
「グォ~」
それを目にすると、ヒュプの目が嬉しくてたまらないというようにキラキラ光る。
「流石うちの子だ、可愛い――っ!これからもよろしく頼むぞ!クロム、フィユ!」
「ホ~」
「グォ~」
この度、自分の拙作をお読み頂き、誠にありがとうございます。
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマークの登録をお願いします。
拙作を評価していただけるととても励みになりますので、大変嬉しいです。