パンダ狩り
夏休みの初日。朝の八時。
光はあくびをしながら階段を降りる。
「ふぁ~、お兄ちゃんおはよう~」
「おはよう、ちょうどごはんが出来たぞ」
光はざっと部屋を見回して、尋ねる。
「アレ?お兄ちゃんが作ったの?お母さんは?」
「急に仕事が入ったそうだ、朝早く出掛けたんだぞ」
「へぇー、相変わらず忙しいね~」
「いいじゃないか、どうせ夏休みだ。早く席について、ごはん冷めちゃうぞ」
「はい~」
二人だけのモーニングタイムが始まる。
「うわぁ!これ全部お兄ちゃんが作ったの?美味しい~、ヒュプちゃんはきっといいお嫁さんになれるよ」
「俺は男だぞ!そして、リアルでヒュプちゃんって呼ぶな!」
「ほほ~、つまり、ゲームであたしがお姉ちゃんってことを認めたよね~!」
「るっせえ、ぜってえ認めねえぞ!」
「ウフフ~、照れなくても大丈夫よ。ところで、[EGO]はどう?面白いでしょう?」
「最高だぜ!毎日クロムと一緒に居られるなんて、幸せだ~!そう言えば、ヤンチャパンダってモンスターは何処にいるかわかるか?」
パンダの名前が耳に届くと、光の目をパチクリさせる。
「えええ!どうしてお兄ちゃんがあんなモンスターのことを知ってるの?」
「昨日ダンジョンの宝箱から手に入れたんだ。その反応、まさか超レアもの!?」
「いいえ、そんなレアモンスターじゃないよ。東にある竹林の奥にいるよ。でも、数は凄く少ないよ。そして…」
「そして?」
「森にビックパンダという凶暴なパンダが沢山いるよ。お兄ちゃん何レベルまで上げたの?」
「まだ5レベルしかない……」
「ビックパンダはレベル10だよ。森の奥に入りたいなら、とにかく同じレベルが必要だ。あたしはもう仲間と約束をしてしまったの、でなければ助けてあげられるのに…」
光はそう言いながら、顔に沈んだ表情を浮かべる。
薫は立ち上がって、光の頭を撫でながら、言う。
「落ち込むな、光は楽しんで仲間と一緒にやればいい。俺ならきっと何とかできるさ!」
「ほほ~、お兄ちゃん自信満々だね。あっ、そうだ、レベルアップの裏技を教えてあげよ~!」
「こそこそ……」
キッチンの片付けが終わって、薫はゲームにログインする。
クロムは召喚されると、すぐ歌いながら空を飛んで、嬉しそうに舞い踊る。
「クロムおはよう」
「ホ~」
「じゃあ、東の竹林を目指して、出発!」
「ホ~」
夜の騒ぎと違って、今の町の外はとても静かだった。プレイヤーたちの姿はちらほら見える。
「へぇー、朝は意外に人が少ないな。ちょうどいい、タナに教えられた方法でレベルを上げよう」
「ホ~」
ヒュプは軽く拍子をとるように歩いて、人のいなそうな竹林の前までやって来た。
そこに、白と黒の分厚い体毛で覆われるクマのようなモフモフのモンスターが行ったり来たりしている。
「おおお!ウエノのパンダより大きいな。でも、その顔…怖いな、モフモフだけど飼いたくないよ。それじゃあ、早速狩りを始めるぞ!」
ヒュプはクロムを待機させて、そのパンダに少しずつ近づいていく。
あと10メートルぐらいのところで足を止めて、周りをつくづくと見回す。
一匹しかないことを確認してから、パンダの索敵範囲に足を踏み出した。
パンダの行動パターンはネガティブなので、その太った体を動かして、てくてくとヒュプに向かって来る。
「よーし、引っ掛かった。あとはゆっくりで」
ヒュプはパンダと距離を保ちながら、後ずさりしていく。
森から離れると、即座にハープの弦を弾いて、音符をパンダに撃ち込む。
レベルの差があるので、催眠効果はほとんど当たっていなかった。
しかし、パンダのスピードはかなり遅いので、ヒュプは躱しながら、ダメージを与える。
そして、ヒュプは一人ではなかったのだ。
「クロム、頼むぞ!」
「ホー!」
ヒュプの命令を受け、ずっと待機していたクロムは空から風刃と氷の礫を次々に射出し、怒涛の嵐のように魔法をパンダに浴びせる。
するとパンダのHPバーは空になった。
『レベルが6に上がりました』
『従魔:クロムのレベルが6に上がりました』
「やったぜ!レベルは一気に上がった。流石裏技だぜ!」
「ホ~!」
これがさっき光に教えられていた動きの遅いパンダを一匹ずつ群れから誘い出して、逐一殲滅してから大量の経験値を稼ぐという裏技であった。
「カードはドロップしてないか。やはりそう簡単にドロップしないよね。まず素材回収~、これは?」
パンダの消えたところに、白と黒の縞模様の毛皮が残っている。
「おおお!ふわふわだ。あれ、帽子が付いてる。これは!」
それは、黒の羽織ものに白い帽子が付いてる被り物である。そして、帽子の上に黒く丸くモフモフなパンダの耳が付いている。
『[パンダちゃんのずきん]を獲得しました』
「ヤバイ!これ、モフモフでめっちゃ可愛いぞ!」
「ホ~」
クロムはそれを目にすると、空から下りて、まるで「早く着けてみろ」と言うようにヒュプの周りを飛び回る。
「ダメ、俺は男だ。女物なんか着るもんか!」
「ホー!」
「クロム!もう!人がまだ来ないうちに、早くレベルをアップするぞ!あっ、あっちまたパンダを見~つけた!」
ヒュプは説明を読まずに装備を道具欄に入れておく。
続いて次のパンダに駆け出した。
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