新知識
タスクたちと別れた後。
ヒュプは宝箱から貰えたヤンチャパンダのカードを図鑑に登録していた。
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ヤンチャパンダ
種族:野獣系 属性:無 亜種:無い
体力★★
筋力★★★☆
魔力★
精神★☆
敏捷★★★★
器用★★
竹林に棲息する小型パンダのモンスター。
動き鈍くビックパンダと違い、両足で素早く走るのはヤンチャパンダの特徴である。
普段は竹林に隠して、敵としての行為を受けるとすぐパンチとキックで反撃する。
行動パターン:パッシブ
ドロップ:[?]50%、[?]25%、[?]0.1%、[ヤンチャパンダのカード]1%
[スロット装備効果]
位置:服 敏捷+2%
――――――
説明のパネルが浮かんだ瞬間、ヒュプの目はそのやんちゃな顔をした丸く小さなパンダに引かれた。
「ヤバイ、このモフモフの子、めっちゃ可愛いよ!クロム、この子どう思う?友達になれる?」
前のツノラビットの時と違い、クロムはまるでこの悪戯っぽいパンダが気になるように、嬉しそうに鳴き出す。
「ホ~!」
「クロムもこの子好きだよね。よーし、次のモフモフはこの子だぞ!でも、説明だけで場所が全く分からないな。どうしようかな…そうだ、まずはエルマさんが言ってた専門店に行こう、きっと情報があるぞ!行くよ、クロム」
「ホ~!」
マップを頼りに広場の西に『封印ショップ・タミ』と書かれた小さな店に辿り着いた。
ヒュプは木で出来た扉を開けて店の中に入る。
外から見た印象よりも店内は広い。真正面には店のカウンターがあり、両側に商品の陳列棚が立っている。
一つの棚に様々な封印カードを陳列しているが、もう一つは空っぽである。
軽く周囲を見回しても店主の姿が見当たらなかったので、ヒュプは声を発してみる。
「あの、すみませ~ん!」
ヒュプの声が店の中に響き渡る。
「いらっしゃいませ――――――っ!」
女性の声が響くと同時に、カウンターの後ろから激しい足音が伝わって来る。
続いて、店主のような女性が走り出した。
ヒュプとクロムを目にすると、直ちに眉の辺りに興奮の色を見せる。ヒュプの手をしっかりと握ってきた。
「いらっしゃいませ~、おおお!お客様は封印術師ですよね!さぁ、早くこちらへどうぞ!」
「は、はい」
あまりのもてなしにビックリしたヒュプは店主にリビングに連れられてソファーに座った。
「ごめんなさい。久しぶりのお客様ですから興奮しすぎました。あたしは店主のタミですよ。よろしく」
「は、はい。俺はヒュプです。そして、この子はクロムです」
「ホ~!」
「アレ?俺っ娘は珍しいですね」
「いや、リアルは男です」
AIさえ理解できないことを聞くと、タミは驚いてのどが塞がって何も言う事ができなくなった。
ヒュプは溜息を吐くと、機械に誤認されたことを教えた。
「ですから、俺は正真正銘の男です!」
詳しい説明を聞いたが、タミはこれがきっと女の子からの中二っぽいセリフだったと思って、笑って話を続ける。
「なるほど、分かりました。ヒュプくんは大変ですね」
「そうですよ。理解してくれて本当に良かったです」
「では、ヒュプくんは何が欲しいですか?封印カードなら一枚50Gですよ。そして、従魔用の装備品の作成もできますよ」
「あの、俺は…」
「あっ!いけない、お茶が忘れちゃった。ヒュプくん、少々待ってください。すぐお茶を出しますよ!」
ヒュプがまだ返事しないうちに、タミは大急ぎで後ろに駆け付ける。
てんてこ舞いしているタミの様子を目にすると、ヒュプはこっそり呟く。
「タミさんは大丈夫ですか…あれ?タミさんって、本当にNPCなの?」
五分ぐらい経過。
タミはお茶とクッキーを出した。
「どうぞご遠慮なく食べてください~」
「は、はい。ありがとうございます」
クロムはその美味しそうなクッキーを見ると、食べたそうな顔をして、その小さく黒い瞳でヒュプを見つめる。
ヒュプはクッキーを取り上げて、タミに尋ねる。
「これをクロムに食べさせてもいいですか?」
「それは勿論ですよ、本当に優しいご主人ですね」
「クロム、あ~ん」
「ホ~!」
ヒュプはそう言いながら、クッキーをクロムのくちばしに運んで行く。
クロムはクッキーを咥えて、空中で嬉しそうに飛び回る。
タミはにっこりして、話を掛ける。
「ヒュプちゃんは何が欲しいですか?封印カード、それともご不要のモンスターカードの買い取りですか?」
「えっと、俺は封印術師を始めたばかりで、モンスターや封印のことを全く知らないので、良ければ教えていただけますでしょうか」
「勿論ですよ~、封印術師の皆さんをサポートするのがあたしの使命です」
「本当ですか。ありがとうございます!」
「ホ~!」
「では、説明の前に、ちょっと質問をします。モンスターは人と同じ、種族があることはわかりますね。ヒュプくんはそれが何種類あるか知っていますか」
「ん…飛行系と昆虫系、そして野獣系。[トレント]はきっと植物系ですよね。それと…スライムはきっと別の種族です。けど図鑑に登録していませんので…ん…俺が知ってるのはこれだけです」
「初心者としてとても素晴らしいですよ。スライムは特質系という種類です。それ以外、金属系と不死系、爬虫系、そして人形系、という合計九種類がありますよ」
「そんなに多いんですか、ビックリしました」
「そうです。そして、属性の相性と同じ、種族間にも相性が存在しますよ。相性が強い方が高いダメージを与えられる一方、スキルも特別な効果を追加しますよ」
ヒュプはスズメバチと戦った時のことを思い出すと、尋ねる。
「あの、その特別な効果について、クロムの索敵スキル、昆虫系モンスターの隠蔽スキルを無効化できるような感じですか?」
「その通り、飛行系は昆虫系に強いですよ。詳しい相性について、図鑑の後ろから3ページ目に書いてありますよ」
ヒュプは直ちに図鑑を開き、モンスターの相性関係の図表を見る。
――――――
飛行系→昆虫系→特質系→金属系→飛行系
植物系→不死系→人形系→野獣系→爬虫系→植物系
――――――
「えっ!全く気付かなかったです。あっ、こっち封印カードの情報と封印スキルのこともありますね。ありがとう、タミさん」
「いいえ、大したことじゃないですよ。他には何か聞きたいことがありますか?」
ヒュプは図鑑のヤンチャパンダのページを開き、尋ねる。
「あの、この子の生息地はご存じですか?」
「へぇー、可愛いパンダちゃんですね。ごめんね、この子は初めて見ましたよ」
「そう…ですか」
ヒュプは落ち込んで図鑑を閉じる。
「大丈夫です。俺はきっとこの子を見つけます。そう言えば、タミさんはさっき確か従魔用の装備品のことを言ってましたよね」
「そうですよ。指定の素材を集めると、従魔用の装備品を作成できますよ」
「それじゃ、クロムの装備品なら、どんな素材が必要ですか」
「うーん…フクロウなら、[霜雪ノ足輪]って装備品がありますよ。素材は[トレントの枝]五つと[ヤマザルの毛皮]1つです。[ヤマザルの毛皮]はちょっとキツイですよ。ダンジョンのボスドロップしかありませんよ」
「えっ!それなら、さっきボスがドロップしましたよ。よいしょっと」
ヒュプは猿がドロップしてきた毛皮を取り出して、タミに見せる。
「そうですよ。ヒュプくんはもう揃っていますね」
「それじゃあ、装備品の作成をお願いします。そして、レベル1の封印カード10枚ください」
『[ヤマザルの毛皮]1つと[トレントの枝]5つをNPC:タミに渡しました』
『500GをNPC:タミに渡しました』
『封印カード(レベル1)10枚獲得しました』
「あたしに任せてください。作成には一日時間がかかりますから、明日のこの時間に来てくださいね」
「分かりました。今日はいろいろ教えてくれて、ありがとうございます。では、失礼します。行くよ、クロム~」
「ホ~!」
タミの店を出ると、既に夜12時を過ぎていた。
「もうこんな時間なの!じゃあ、クロム、おやすみ~、明日またね」
「ホ~!」
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