ボス退治
異常に気付いたヒュプはすぐ足を止め、警戒しながら戦闘の構えを取る。
足音がだんだんと近づいてくると、その持ち主の正体が明らかになる。
それはこのダンジョンのボス、鋼のように固い毛皮に覆われた巨大な猿であった。
今のヒュプとクロムの力で勝てるわけがない敵である。
「うわぁ!でけぇ猿だ!こいつはボスか!?」
3メートル以上の猿は鋭い牙を剥いて、ヒュプを睨みながら咆哮する。凄まじい音量にヒュプが顔を顰める。
続いて、そのがっしりした足で地面を踏み込んで、ヒュプに攻めてくる。
「ホー!」
クロムが鳴き出すと、かなりのスピードで氷の礫が射出され、猿を迎え撃つ。
ヒュプも弦を弾いて、音符を猿に撃ち込む。
しかし、命中された猿は蚊にでも刺されたように全く意に介さないヒュプの前に来た。
続いて、その鋭い爪でヒュプに攻めてくる。
ヒュプは逃げたいが、震えで足がすくみまるで自分のものでないように、全く動かなくなってしまった。
「ホー!」
危機一髪の時、クロムが急降下し、猿の顔面に突撃したが、逆に、その小さな体が猿に掴まれてしまった。
「ホー!」
悲鳴が耳に届くと、ヒュプはそこを見る。
苦しい顔をして必死にもがいているクロムを目にすると、さっきの恐怖がさっと飛んで行ったように、図鑑の角で猿の足を殴りつける。
「こら!俺のクロムを放せ!」
しかし、猿はまるで何も聞こえないように、ヒュプを無視して、クロムを苦しめ続ける。
「クソ!何とかしないとクロムが死んじまう。あっ!」
他の武器を探すため周りを見回すと、さっきの小さな坂が目に入る。
そこはちょうど猿の頭の真上だ。
「クロム、我慢して、すぐ助けてあげる!」
ヒュプは脱兎の勢いで駆け出して、坂に登って、ひょいと猿の頭の上に飛び降りる。
「俺のクロムから手を離せぇぇぇ!!!」
そう叫びながら、図鑑の角で猿の目を突き刺した。
「ぶーっ!」
刺された猿の目から赤い鮮血が噴き出した。
猿は悲鳴を上げながら、爪を放して傷ついた目を覆う。
クロムはこの隙を突いて、空を飛んでいた。
「やったぜ!…!」
クロムを救い出した瞬間、猿は一本の爪を上に伸ばして、その鋭い爪でヒュプに攻めてくる。
「ザクシュ!」
切る音が耳に届くと共に、ヒュプは焼けるような痛みを感じて、地面に落ちていってしまう。
「ファイアボール!」
「ヒール!」
アーミとジールの声が響くと共に、森から火の玉が物凄い勢いで猿に飛んでいった。
と同時に、ヒュプは暖かな光に包まれ、さっきの痛みが飛んで行った。
「ヒュプ――っ!」
タスクは弾丸のように走り出し、ヒュプをガッチリ受け止めていた。
爽やかな笑顔をしてヒュプをジーっと目詰める。
「タスク…?」
「ああ、俺だ!もう大丈夫だぞ、後は俺に任せろ!」
二人がお互いに目を合わせた時、アーミの叫び声が響く。
「二人とも、そんなラブラブの時間じゃないよ!早くボスを倒しなさい!」
「早く俺を放せ、何だよこのお姫抱っこ!俺は男だぞ!」
「元気があるようだな。それじゃあ、支援頼むぞ!」
タスクはヒュプを地面に置いて、疾風の如く猿に突き進む。
猿はタスクに向けてその鋭い爪を振り下ろす、しかし次の瞬間タスクは体勢をさらに低くし、一瞬消えたかの如く、爪と足元を掻い潜り、同時に両足の内股に斬撃を見合わした。
猿は地面に膝をつき、すぐさま遠くから魔法の詠唱が聞こえきた。
「風よ、我が敵を切り刻め、エアスラスト」
アーミが風の中級魔法を放つと、それと同時にヒュプも追撃をかけて行った。
「クロム、借りを返す時間だぞ!やれぇ!」
「ホー!」
猿は痛そうに顔面を両手で負い、その背後からタスクがトドメの一発を舞い込む。
猿は怒涛の攻撃を受けた末、悲鳴を上げて光となって爆散した。
『レベルが5に上がりました』
『従魔:クロムのレベルが5に上がりました』
『ヤマザルの毛皮を獲得しました』
戦闘が終わった。ヒュプは頭を下げて、皆に謝る。
「勝手に行動して、皆に迷惑をかけてしまっって、大変すみませんでした」
「いいのいいの、ヒュプちゃんのおかげで、ボスも宝箱も全~部見つけたよ」
「そうだ、これくらい慣れてるぞ!うちのリーダーなら、これ以上のことをやらかすからな!」
「こら!そんなことを言うな!」
ヒュプは続いて優しくクロムを撫で回す。
「さっきはありがとうね、クロムが居ないと、俺は死んでいたかもしれないぞ」
「ホ~!」
クロムは嬉しくヒュプの肩に飛び乗り、定番のV字ポーズを取る。
タスクはクロムを睨んで尋ねる。
「クロスケの奴、このポーズしかできない?ずっとこれをやって、つまらないぞ」
その話が耳に届くと、クロムの目つきが急に鋭くなる。
続いて、その羽先を連続して振ると、二つの風刃がタスクの隣にある粗大な木に襲い掛かる。
皆が即座に木を見ると、V字の傷痕を残した木の幹が目に映る。
「あんなこともできるのか、クロム凄い!」
「ホ~!」
「じゃあ、早く宝箱を開けて、レア装備が出るかもよ!」
「うん、分かった」
ヒュプは宝箱の前にやって来て、穴に鍵を挿入する。
『[銅の鍵]を使用しました』
『[ヤンチャパンダのカード]を獲得しました』
「やったぜ!見たことのないカードだ!皆は?」
「私は当たりだ、レア度3の杖だよ~」
「俺の方は[?]ローブだ。鑑定しなければレア度が分からんぞ」
「きっといい装備だぞ!タスクは?さっきから全然喋らない。きっとスーパーレアが出たんだよね」
タスクは何処でも見る初心者用の片手剣を取り出して叫び出した。
「なんで俺だけ外れなんだよ!クソ、クソ!!!」
「「「アハハハハ~!」」」
「ホ~!」
ダンジョンの攻略が終わり、ヒュプたちは町に帰ってきた。
「これでよーし~、じゃあ、今日はこれで解散するぞ」
「皆、いろいろお世話になって、ありがとう!」
「いいのいいの、ヒュプちゃんと一緒にできて嬉しかった!そうだ、フレンド登録しようよ」
「俺もだ、これからもよろしくな」
『プレイヤー名:アーミからフレンド申請が届きました。[承認][拒否]』
『プレイヤー名:ジールからフレンド申請が届きました。[承認][拒否]』
「これでよーし、これからもよろしくね~」
「ぎゃ――っ!やっぱりヒュプちゃん可愛い!」
アーミがヒュプに後ろから抱き着いてくる。その女性特有の柔らかさがしっかりとヒュプの背中に伝わってくる。
ヒュプの顔は恥ずかしそうに赤く染まる。
「は、放せ!俺は男だぞ!くっつかないでくれよ!」
「へぇー、こんな可愛いのに。嫌だ~」
「よ、よせ!ぎゃぁ――――っ!」
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