ダンジョン探索
ダンジョンに入ると、ヒュプたちの目に入ったのは、生い茂る木々が枝を絡め合うように広がる森の迷路だった。目の前には分岐がいくつかある道が伸びている。
アーミは周りを見渡すと、違和感に気付いて声を上げる。
「あれ、ここ…β版の時と違うみたい」
「本当だ。どうやら、ここはランダム型のダンジョンに変わったようだ」
「ランダム型なら、ボスも決まった場所で待ってるわけじゃないよ。探すのはキツイよ!ところで、鍵持っているか?」
「いや、こんなこと全く予想してなかったぞ」
「あの、[銅の鍵]なら、俺持ってるぞ。さっきエルマさんのところへ行ったついでに、買ったんだ」
「おおお!やるじゃない。じゃあ、ダンジョンの宝箱を回収しながらモンスター狩りをやろう!」
「そんな簡単に見つかる宝箱なんだね、わかった。頼むぞ、クロム」
「ホー!」
クロムは空へ舞い上がって、地面を俯瞰する。
ターゲットを発見したらしくヒュプの肩に下りて、その白く小さな羽先で左の道を指す。
「こっち?流石クロム~、索敵も頼むぞ!」
「ホ~!」
ヒュプたちはクロムについて、警戒をしながら森の奥に向かっていく。
最初のダンジョンなので、出てきたのは樹木に擬態しているモンスター[トレント]と紺色の毛皮に包まれたモフモフの狼の幼体[ウッズウルフJr.]しかいなかった。
クロムの索敵スキルのお陰で、ヒュプとアーミは敵が来る前に先手を取って、魔法攻撃で敵を殲滅していた。
たまに魔法攻撃から逃れて、襲い掛かって来たモンスターもタスクに速やかに始末された。
途中で休憩を取る時、アーミはヒュプの顔に目を凝らすと、隣のジールに声を掛ける。
「ねぇ、ヒュプちゃんの顔、タナとそっくりだと思わない?」
「言われてみれば、ん…確かに似てるぞ」
タスクは二人の話が耳に届くと、すぐ声を上げる。
「それは当たり前だろう。二人は双子だからだ」
「えええ――っ!ヒュプは『白銀の死神』の妹なの!」
「ん……タナとヒュプ、確か双子の名前だ」
「いや、俺の方が兄だぞ!」
「いやだな、またロールを続けるの?いいのいいの、タナのお兄ちゃん~」
ヒュプは興奮している二人の様子を目にすると、タスクに尋ねる。
「タナはそんなに有名なの?そして、その『白銀の死神』って何?」
「あーそれな。β版の頃のバトルロイヤルってイベントのことだぞ!その銀色の髪を目にしたプレイヤーが一人残らず全て殺されてた。えっと、多分300人以上かな。あの時から、『白銀の死神』なんて呼び方されていたぞ!」
「へぇー、タナってそんなに強いのか。意外だ。待てよ、確かお前もあの頃から有名人になったと言ってたよね。まさかタナより強いの?」
「あっ、さっき言い忘れたぞ。俺が唯一タナに殺されなかった強者だ!」
タスクのホラ吹きが耳に届くと、アーミとジールは即座に腹を抱えて笑い出した。
「リーダーはタナに会った時、直ちに地面にうち伏せて死んだふりをしたんだよ!」
「それは俺の戦術だぞ!それにちゃんとランキング4位を取ったぞ!」
先ほどその筋道の通ったスキル分析を聞いた時、ヒュプはタスクを少し見直した。
しかし、今の一連の話から、やっぱりこいつはダメだと思って、哀れむような目でタスクを見つめる。
「なんだ、その目!」
「いや、それは…ただ…お前、やはりクズだ」
「お前――っ!」
二人がいつものように喧嘩していると、大興奮のアーミが叫び出す。
「ふぉぉぉぉ!リーダー×ヒュプちゃん!行ける行ける!!」
「うわぁ!アーミ、大丈夫か!鼻血出てるぞ!」
「うふ、うふふ、私大丈夫。えへへ、ここは天国だ~、えへ、えへへ」
目をクラクラしているアーミを目にしてヒュプはタスクの肩を叩いた。
「なんというか……個性的なメンバーだな」
「あぁ……そうだ」
休憩が終わり、続いて森の奥へ向かう。
もうすぐその道の果てに辿り着きそうな時、クロムは何かを見つけたように、隣の木の茂みへ飛んでいった。
「クロム、待って、早すぎるぞ!」
クロムを心配するヒュプは思わず直ちに茂みに駆け出す。
ひたすらクロムに追いつきたいため、一気に生い茂る木々から抜けてきた。
そこにようやく、青色の宝箱の上に立っているクロムを見つけた。
クロムはいつものV字ポーズを取って、褒めて欲しがるように嬉しそうにに鳴き誇る。
「ホ~!」
ヒュプはクロムを懐に抱いて、優しく撫でながら説教する。
「クロム、いきなり一人で行くのはダメだぞ!危ないんだから。でも、宝箱を見つけたんだよね。ん…今回だけ許す。次はダメだよ~」
「ホ~!」
「そう言えば、ここは?」
緊張の糸が切れて、ヒュプは周りを見回す。
片側は鏡のような湖、反対側は四メートルほどの高さがある小さな崖。
「袋小路だな。そうだ、早く場所をタスクに教えないと」
ヒュプはマップを開き、座標を確かめると、タスクにメールを送る。
「あとはタスクたちを待っていよう。そうだ、せっかくのチャンスだから、ここで演奏しよう~」
ヒュプは池の側にある石に座って、ハープを弾く。
すると美しいメロディーが森の中で響き渡った。
湖畔で演奏する金髪の少女。リズムに合わせて舞い踊る真っ白なフクロウ。
絹のような日差しに照らされて、金と銀の光を乱反射していた。
まるで詩歌の中にしか現れないような光景であった。
和やかな雰囲気が流れていた中。
森から木の葉を踏み荒らす足音が伝わる。
「足の音?きっとタスクたちが来たんだね」
ヒュプは演奏を止め、迎えに歩いて行った。
クロムはまるで何を見つけたように、ヒュプの前に飛びんで、大声で鳴き出す!
「アハハ~、やっぱりクロムはタスクが嫌いなんだね。大丈夫だよ。絶対にいじめさせないぞ!いや、違う!タスクたちは三人のはず、何で足音は一人しか…その重さは…人間じゃない!」
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