タスクのパーティーメンバー
ヒュプは西門前に行き着いた。
そこに待っていたのは、レア度が高そうな合金製の軽鎧を纏ったタスクだった。
僅か一日で、もういい装備が揃っていた。流石ネット廃人タスクなのだ。
「よぉ、ヒュプ」
タスクは爽やかな笑顔を見せて、ヒュプに向かって歩いて来る。
幼馴染みの悪友の本性をよく知っているヒュプは強引な誘いだけで怒るはずがないが、少し教訓を与えたい。
「タスク、こっち来て!」
「おや、秘密の話?なになに?」
タスクが腰をかがめた瞬間。
「隙あり!」
ヒュプは地面を全力で踏み込んで、その柔らかなパンチでタスクの腹に殴りかかる。
しかし、タスクは本能を頼りに横に躱した。フルパワーのパンチはその合金の鎧に当たってしまった。
まるで岩石を叩いたように、痛みが拳骨から全身に伝わる。
すると、体勢が崩れたヒュプは地面にへたり込んでしまった。
「いててて、この誘いと命令の区別がつかない奴!よく躱したな!」
タスクは斜めにヒュプを睨んで、悪役のような笑みを浮かべる。
「なるほど~、俺に奇襲をかけるか?いい作戦だな。でも、俺相手にするには十年早いぞ!」
「ほほ~、それはどうかな~!やれ!」
「ホー!」
「何!」
「パンッ!」
クロムはタスクの油断につけ込んで、翼でタスクの頭をしっかりと叩きつけた。
「やったぜ!正義の勝ち!」
「ホー!」
「お前ら、やったな!くらえ!」
「そっちこそ!」
タスクが立ちあがって、反撃しようとした時、後ろから男女二人が向かってきた。
「タスク、お待たせ……うわぁ!」
彼らの目に飛び込んできたのは、金髪の幼女に暴行を加えるタスクだった。
白を基調としたローブを纏った聖職者っぽいヒューマンの男が即座にタスクを止める。
「お前、とうとう幼女に手を出したな!」
「誤解だぞ!ジャレあっているだけだ!」
「そうきたか!この犯罪者め!今すぐ通報を!」
通報という言葉が耳に届くと、ヒュプは事態の厳しさに気付いて、すぐ状況を説明する。
「本当に誤解だ。そして、先に手を出したのは俺の方だ!」
黒い三角帽子に大人の魅力を持つ女性はヒュプを目にすると、即座に声を上げる。
「きゃ――っ、可愛い俺っ娘キタ――っ!!」
「いや、俺は男だ。システムのミスで女になっちまったぞ」
「へぇー、機械のミスで女の子になったの?ロールだよね~、いいのいいの」
ヒュプはその話の通じない顔に目を凝らすと、ついに弁解を放棄した。
「それじゃあ、俺のチームメンバーを紹介するぞ。こっちのヒューマンは回復職のジール。ダークエルフは魔法使いのアーミだ。他にエルフの弓使いと半獣人の盾職が居たぞ!」
「俺はヒュプ、封印術師だぞ!そして、この子はクロム」
「ホ~!」
「よろしくな、封印術師って結構珍しいな。そして、クロムっていうフクロウは亜種だよね?」
「そうだよ!クロムはすっごく強いぞ!一人で10羽のウサギを倒したぞ!」
「へぇー、クロスケはそんなに強ぇ奴なのか!ただの縫いぐるみだと思ったぞ!」
「そうだ、先ほどリッドとリフィから私にメールが来た。今日は多分来られないと言ってたんだ。このメンバーで行くか?」
「えっ!そうか、盾職がいないか。そして、遠距離攻撃はアーミ一人しか…ちょっとキツイな。やっぱり……」
タスクが今日の予定を諦めようとした時、クロムと遊んでいるヒュプを目にすると、尋ねる。
「ヒュプ、例のハープもう手に入れたよね。あれって、催眠効果はどう?」
「一度使ってみないと効果が分からないぞ、でも、催眠魔法で支援もできるぞ。そして、クロムを忘れたら困るぞ!ね~クロム」
「ホー!」
「分かった。じゃあ、せっかく皆が揃ったことだし、行こう!」
ヒュプはタスクたちのパーティーに入って、一緒に町の西に位置する迷いの森というダンジョンに向かって行く。
道中で出てきたのはほとんどスライムやミニコウモリ程度の弱いモンスターであったため、ヒュプたちは難なくダンジョンの入り口にたどり着いた。
「ヒュプ、ダンジョンに入る前に。そのハープでやってみろ」
「分かった。敵は…あった」
ヒュプは傍の草むらにぷよぷよと動いている青く丸いスライムを見つけた。
そしてハープを抱き、その繊細な指先で弦を弾く。
すると澄んだ音を鳴らすと同時に、半透明な音符がスライムに飛んで行く。
音符がスライムに当たると、直ちに「ミー!」と響いて消えていった。
スライムは睡眠状態になっていないが、そのHPバーは半分ぐらい減っていた。
スライムが反撃しようとした時には、既にクロムが射出した氷の礫に倒されていた。
「サンキュー、クロム」
「ホ~!」
この戦いを見たタスクは少しだけ考えて、自分の考えを語る。
「どうやら俺の思った通りだ。ハープを使った通常攻撃のダメージはプレイヤーの精神力に依存する。つまり、封印術師はそれを使うと、自分の力で戦えるぞ」
「待て、そうすると、MPを消耗しなくても魔法攻撃できるよね。魔法使いより強くなるんじゃない?」
「でも、そんな簡単なことに何故誰も気づかなかったの?」
「理由は二つ。まず、ハープを装備できるジョブは盗賊系と従魔系。盗賊系は両手で短剣を装備できるため、ハープを使う意味がない。次にサモナーの場合、攻撃魔法の最大威力を発動するため、杖をサブ武器として装備しなければいけない。だから、今まで誰でもハープの本当の使い方に気づいてなかったんだ」
「なるほど、どうする?情報を載せるか?載せたら、一気に人気商品になるよ」
「それは…ヒュプ、お前が決めるんだ!」
「えっ!俺!?」
「そう、誰も使いたくないハープを選んだお前が決めるのは当たり前だ!」
ヒュプは皆の話からハープの強さを理解したが、唐突に自分で決めると言われると、どうしたらいいか分からなくなってしまう。
「えっと、やっぱり、人に真似されたくない……」
「お前らしいな、わかった。じゃあ、皆も黙っていることに異論はないか?」
「了解~、異議無し」
「俺もだ」
「じゃあ、準備万端だな!いざゆかん、ダンジョンへ!」
「「「おおお!」」」
「ホー!」
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