金策
「ムフフ~、もうすぐあのハープが手に入れるぞ!」
「ホ~!」
町に戻ってきたヒュプは踊るような足どりで商店街へ向かって行く。
金髪の幼女と銀色のフクロウというコンビが町で嬉しそうに歩いている。まるで吟遊詩人の歌にでも出てくるような光景だった。
周りで歩いていたプレイヤーたちの目が自然にヒュプに引かれる。
早くエルマさんの店でハープを貰うことを考えているヒュプは、自分が注目されていることに全く気付かなかった。
しかし、プレイヤーたちからの視線に気付いていたクロムは、ヒュプの首のまわりを飛び回る。
「クロムも楽しそうだね。あとで演奏してあげるね!」
「ホ~!」
サービスが始まってから二日目なので、商店街の賑やかさは昨日より倍に増えていた。
ヒュプは昨日と同じように、小さな体で人混みを擦り抜けてエルマの屋台にやってきた。
「エルマさんこんにちは」
「いらっしゃい。えっと、ヒュプくん、そのペンダントは?」
「あ、これですか?ウサギ狩りの時落とした御守りですよ。これが頼まれていたウサギの角です。はい」
角を受け取るエルマは数を確かめながら、話を続ける。
「やっぱり[白兎ノ御守り]か。あのね、ヒュプくん、その御守りの値打ちはいくらだと思う?」
「えっと、効果は幸運だけですから。2000G、それとも3000Gぐらいですか?」
「ウフフ~、そう安いものではないよ。β版の時、一個500000Gぐらいの高価品だよ」
「マジ――っ!なんでそんなに高いんですか?」
「その御守りはスロットがあるよね。ほとんどの装飾品はそれがないわ。そして、レベルアップしても幸運値が上がらない。そして、ゼロにも等しいドロップ率。高いのは当然のことよ。でも、想像もできなかった、二日目でドロップするなんて。ヒュプくんは本当に幸運の女神に愛された子だわ。それほどの大金…今は多分誰も持っていないんだけど、きっと前より高く売れるよ」
「そんな〜、褒めても何も出ませんよ、でも危うく価値を見誤るところだった、ありがとう、エルマさん」
エルマはそう言ったが、ヒュプはそれを売るつもりはなかったのだ。それがあれば、きっともっと高価なものをドロップできると信じているからだ。
「よーし、確かに20本だわ。では、これが約束の武器よ」
「ありがとうございます!」
ヒュプはウキウキしてそのハープを受け取って、道具欄に取り込むと、尋ねる。
「えっと、エルマさん、ちょっと聞きたいことがあります」
「いいよ、私が知ってることなら、全部教えるよ」
「ありがとう、召喚術師ってどうやってお金を稼いだらいいですか?」
「なるほど、金策よね。ん…やはり、人気モンスターを封印してから売ることよね。例えばクロムちゃんのような亜種の方が結構高いよ」
エルマの話を隣で一緒に聞いていたクロムは哀れな眼差しでヒュプを見つめる。まるで私を売らないでくださいと訴えるように。
それに気付くと、ヒュプはクロムを撫でて、優しく慰める。
「安心して、俺はそんなことしないぞ!大切な友達だから」
「ホ~!」
幼女の無邪気な顔を目にすると、エルマは顔を赤らめて苦笑いを浮かべる。
「この同性さえ惹かれる笑顔で本っ当に男なの?そんなことを信じるもんか!」と思って、会話を続ける。
「封印術師のことなら、中央広場の西側に専門店があるよ。そこの店員さんならきっとより詳しく教えてもらえる思うわ。あ、そうだ。ダンジョンの中の宝箱でたまにいいもの出るよ!」
「ダンジョンって、ボスを倒せないと、宝箱を貰えないですようね。タスクからはそう教わりました」
「それはボスの宝箱よ。私が言ったのはダンジョンの中にランダムに現れる宝箱よ。これを使って開けるよ」
エルマはそう言いながら、小さな鍵を取り出す。
「普通の宝箱なら、銅の鍵でいいよ。金と銀の宝箱なら、それぞれ金と銀の鍵が必要だけど、あれはほとんど出ないから、気にしなくても大丈夫よ。そして、宝箱の中に見たこともないレアカードも出るかもよ」
「本当ですか!?その鍵っていくらですか?」
「一本75Gよ。安いでしょう」
「はい、うん、十本ください」
「毎度あり~!」
『750Gをエルマに渡しました』
『[銅の鍵]を10本獲得しました』
「今日はいろいろ教えてくれてありがとうございます。それでは、失礼します」
「大したことじゃないよ。なにか欲しければいつでもどうぞ」
商店街から出て、ヒュプは中央広場にやってきた。
噴水の縁に腰掛けて[ドラウジネス]の説明パネルを浮かべる。
――――――
[ドラウジネス]
種類:サブ武器 レア度:2 スロット:3 装備:シーフ系、従魔系
人を眠くさせる魔力を持つ黄金の糸で出来た竪琴。
魔力+5 精神+5
特殊効果:通常攻撃時、一定の確率で敵を5秒間睡眠状態にさせる。
成功率:(プレイヤーLV+催眠魔法スキルLV)/対象レベル×15%
対象がボスの場合には成功率は通常の20%
――――――
「うむうむ、成功率はやはり催眠魔法の方が高い。でも、これは通常攻撃で常に発動できるから、CDとMPのことを気にしなくても大丈夫だよね。早く装備しよっと」
ヒュプがそれを装備して、クロムに演奏してあげようとした時。
急にメールの通知音が鳴った。
『タスクからメールが届きました。[読む][取消]』
「ん?タスクからの?」
ヒュプはメールを開くと、見たらすぐカッとなりそうな文字が目に入る。
――――――
テーマ:お誘い
一緒にダンジョンへ行かない?
西門前で待ってるぞ!俺様について来い!
送信者:タスク
――――――
「これ、勧誘じゃねぇ!全く…クロム、タスクの奴を殴りに行くぞ!」
「ホー!!」
こうして、ヒュプとクロムは西の門に向かって行く。
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