ゲーム始める前
始めまして、水無月コトキです。
昔からずっと、男はモフモフが好きではダメですか?
と思って、ついに男を主人公としてモフモフと一緒に冒険する小説を書き始めました。
まだまだ新人ですから、誤字脱字があった際には遠慮なく言ってください。
では、よろしくお願いいたします。
感覚は人が世界と相互作用するためのものである。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスが霊魂論でヒトの感覚を初めて分類し、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の5つがあるとした。これが広く知られる五感である。
なら、感覚のほとんどを委ねたVRMMOゲーム、あるいは、普段全集中でプレイしているそれは感覚というバイパスを通して、別の世界と情報をやり取りしていると言えるではないでしょうか。
情報量が完全に一致した時、それは果たして夢か現か、そこで起こる事象はもしかすると単に時間軸が違うもう一つの可能性かもしれない、ならば我々が今いるこの世界はそうでないと言い切れるでしょうか。
天野薫、17才。
フランス人の外祖父から受け継いだ金髪を除くと、極並みの高校生だった。
好きなもの……
嫌いなもの……しいて言えば、世の中の暗黙のルール――「男は男らしく、女は女らしく」という固定観念なのだ。
薫に初めてこのような考え方が芽生えたのは、双子の妹光の六歳誕生日パーティーだった。
「薫君と光ちゃんの夢はなんだ?」
「あたしはお母さんのような菓子職人になって、世界一番美味しいケーキを作りたい」
「素晴らしい。女の子らしい夢だ。流石俺の可愛い光ちゃんだ」
父は嬉しくて光を抱きあげる。
母とそっくりの銀髪がまるで細い絹糸のように光る。
「それじゃ、薫君の夢はなんだ?きっと男らしい立派な夢だろう」
薫は可愛い動物たちが大好きだった。ペットショップを開き、モフモフに囲まれ悠々自適な生活を送るのは最大の夢だった。
しかし、父の期待している眼差しを見る。
それはスポーツ選手になりたいという男らしい夢を待つ顔だった。
薫の男らしくない夢を聞いても、嬉しくないのではないかと思う。
つい自分の本音を隠してしまった。
「俺の夢はサッカー選手になることだ!」
「おおお!流石俺の息子だ!」
薫は自分の思いを完璧に隠してきたと思う。
しかし、七歳の誕生日に光から貰ったプレゼントはダルマのように丸く可愛いフクロウの縫いぐるみだった。
そして、手作りしたモフモフなネコとウサギが描いてあったカードの上に、『お兄ちゃんの夢が叶うまで、フクロウちゃんで我慢して!』と書いてあった。
やはり、双子の兄妹は互いの思いを一番分かる人だった。
人の目が気になる薫にとって、世界が固定観念に縛られている限り、夢は決して叶えられない。
こうして薫は夢もない人生を過ごし、退屈な日々を送る。
夏休みの数日前。
一日の授業で薫のスタミナはほぼ完全消費された。
早く帰ろうとしたところに、隣の席の悪友風間祐はいつもの様に机を真横にくっつけて、気持ち悪い笑みを浮かべながら声を掛ける。
「ねえねえ、今日はエクス・ゲード・オンラインの発売日だ!一緒に買いに行かない?」
[エクス・ゲード・オンライン]――通称[EGO]。プレイヤーたちが剣と魔法のファンタジー舞台で冒険するというVRゲームであった。
日本初独自開発した自律型AIと表現されるリアルな仮想世界、そして沢山の隠し要素があるなどの特徴で人気が一気に増えて、期待ランキング1位の座を勝ち取った。
光と祐はβ版からやっていたトッププレイヤーだった。
二人はゲームの中で結構有名人だった。
正式版でどうしても三人で一緒にゲームをやってみたいため、六日の間に祐からの勧誘は何と七回もあった。
勿論、光からの誘い回数はその祐の数倍だった。
薫にとって、祐のことは構わないが、光の期待している眼差しを見て断ることは本当に辛かった。
しかし、どんな理由があっても、薫は現時点でゲームをする気がない。
薫はいつものように断ろうと思って、くだらない言い訳を口に出す。
「またあのゲームか……行きたくないな。俺は剣と魔法の世界なんか、興味無いし」
「全く、光ちゃんと同じ可愛い顔をしているのに、何でこんな頑固なの?」
双子が原因かどうかは分からないけど、薫は同年代の男と比べて身長が低く、とても小柄であった。
よって、薫と光は髪色と胸以外全く瓜二つだ。
小さい頃から、二人が人に与えるイメージは兄妹でなく、姉妹だった。
「光ちゃんが言ってたぞ、薫はこれを見たら、きっと即座にゲームを買いに行く」
祐はニヤ~っと笑ういつもの気持ち悪い顔を見せて、スマートフォンである動画を再生する。
薫の目に飛び込んだのは、[EGO]のCM映像だった。
全身が灰色の毛皮に覆われた狼の群れ。
相対するのは、百科全書ほど厚さのある本を持ったプレイヤー、そして可愛い猫。
狼と戦っていたのはプレイヤー本人だけでなく、そのモフモフの猫も一緒だ。
猫がしなやかな体を動かして空を跳んで、そのふにゃふにゃの肉球から鋭い風圧を狼に撃ち込む。
「まさかモフモフと一緒に戦うなんて!」
狼の群れを始末した後、猫がプレイヤーの肩に躍り上がって、頬をくっつける。
このような可愛いシーンを目に入れると、薫は即座に癒されて瞳がピカピカと光る。
薫の目線が画面に集中している間に、外から長い銀髪の、薫とそっくりの女子生徒はクラスに駆け込んだ。
「いたいた!お兄ちゃん動画見てるの?どう~やる気出たの?」
そう、彼女は薫の双子の妹、天野光なのだ。
モフモフが大好きな薫が猫に惹かれない可能性はゼロだった。
動画を見始めたばかりに、既にやる気満々の状態になった。
「仕方ない、お前たちにこれほど頑張って誘われたなら、ちょっとだけ付き合おう」
光は聞いていると笑みがこぼれるような可愛らしい声を上げる。
「しまった、駅前のゲーム屋で完売しちゃったんだよ!」
「なに!!?俺のモフモフが売り切れただとう――っ!!!」
薫は思わず即座に大声で叫び出す。
すると光と祐はニヤ~っと笑い出す。
「ムフフ~お兄ちゃんやっと本音出したの?心配する必要は無いよ、こんなこともあろうかと。祐!」
「はい、もう用意してるぞ!」
祐はそう言いながら、カバンの中から紙袋を取り出す。
薫は紙袋を開けると、最新型のVRギアと精密機械の付いたグローブが目に入る。
「これ、祐のゲーム機じゃない。でも、俺に譲るなら祐は?」
「案ずるな。俺はベータ版トッププレイヤーに贈られた特典版があるぞ!データバージョンのゲームは既にダウンロードしてたぞ!」
「おおお!サンキュー、頂き!」
「それじゃ、俺は帰るぞ。ゲームで会おうぜ!」
「オーケー!」
「どんなモフモフが出るかな。もうわくわくするぞ!さぁ、俺たちも帰ろう」
午後の陽光が西からクラスに射しこみ、その金髪をキラキラと光らせる。
久しぶりに薫の爽やかな笑顔が露になる。
光にとって、これより綺麗な景色はこの世に存在しないのだ。
「はいな~やっぱりお兄ちゃんの笑顔が大好きだ!」
この度、自分の拙作をお読み頂き、誠にありがとうございます。
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