夢の中で
夢で見たストーリーを書き起こしてみました。
後で清書します。
仲の良い四人組で訪れたのは大きな川が流れる観光地。
高校生活を終えて、それぞれの道に進む前に思い出を作ろうと卒業旅行を実行した。
それから四年、再び同じ場所に訪れる事が出来たのは自分一人とは思わなかった。
就職先の研修や、家の手伝い等で行けないと言うのが主な理由であった。
新幹線から降りて、お土産を見てるうちにバスに乗り遅れて…
そう、この川の土手をずっと歩いて旅館に行ったんだっけ。
懐かしむように川の土手を歩く。
携帯電話が鳴る。
確認すれば今日来れなかったメンバーの一人だ。
「もしもし?今あの土手にいるの。」
『懐かしいねー。一緒に行けなくてごめんね。』
「いいの。また今度みんなで行こうね。」
『うん…あのね、“ぇ…け…ぁあ…”だからさ、また今度』
「え?よく聞き取れなかった。電波悪いのかな?」
『“ぅえ…だぁ…す…”もう、ダメかな?』
「…電波悪いようだから旅館に着いたらまた連絡するね。」
『て……うん、まt…』
電波状況の悪い携帯電話から意識を道の向こうに戻せば
黒い大きな犬が走って来ていた。
ふと過去に自分の鞄が転げたことを思い出した。
携帯電話が鳴って、ハンドバッグをあさる為にボストンバッグを置いたら
犬が走って来てみんなで慌てふためいているうちに犬がボストンバッグの匂いを嗅いで
土手から転げ落としてしまったんだ。
ボチャンと音がして落ちてしまったかと青ざめたが、草をかき分けて降りた川縁には
ボストンバッグが鎮座していて胸を撫で下ろしたんだった。
そんな事を思い出しながら歩き続ければ
前に来た時と同じ和洋折衷の旅館が出迎えてくれた。
スタッフに案内されるまま四階の部屋へと移動して、荷物を整理したりしているうちに夕食間近となっていた。
部屋に備え付けの電話が鳴る。
夕食の案内だろうかと電話に出れば、くぐもった声が聞こえる。
『…けた…みつけ……えのせい…』
人間の声とは思えない、耳障りなざらついた声。
湧き上がる謎の恐怖心で受話器を投げつけるように置いた。
いったい何だと言うのか?
理不尽な恐怖に翻弄されて、怒りが心を占める。
やり場の無い怒りを抱えつつも、突然開いた窓に目を向ければ…
ずぶ濡れの女性の上半身が滑り込んで来ていた。
顔を見れば二十代後半、または三十代だろうか。
人に見えるのに、彼女の目がカメレオンのように左右で見てる位置が違う。
異形だ。
全身に鳥肌が立ち、叫ぼうと思うもちゃんとした声が出ず
ヒィィィィと引きつった呼吸音しか出なかった。
近づくなと物を手で払ったり、倒してはみたが四階の窓から侵入してくる異形の進行を止めることは出来なかった。
そこへ異変を感じたのか、旅館の男性スタッフが入って来た。
「どうなされました…ヒッ…うわ…」
これ幸いとスタッフを囮にするように、自分はドアから廊下へとまろび出した。
夢中で階段を駆け下りて一階へとたどり着いたが、玄関の戸は閉まっており
どうしようかと慌てているうちにさっきのスタッフの声が聞こえてきた。
「どこへ行った…どこへ…殺してやる…」
待って、待って、何故さっきのスタッフが私を探している?
混乱する中、階段と一階の間にあるスペースに身を捻じ込み、置き物のように息を潜めた。
まるで子供の頃にやった隠れんぼだ。
耳の近くで心臓が音を立てているような、胸を押さえつけられているような感じがする。
スタッフが私を探している声が段々と近づいてくる。
どうか過ぎ去って欲しい。
祈るように身を縮こめていたが、無慈悲にも近くで声がする。
「見つけた…」
振りかぶられた重いガラスの灰皿を見て走馬灯が過ぎる。
土手を転げた鞄が川縁で屈んでいた女性を押した。
彼女は身重で、その日はいつもの悪阻が軽くて散歩に出たんだ。
だけど途中で吐き気を覚えて川に近づいて屈めば何かが背中を押した。
あとは雨の後の濁った川が上も下もなく攫ってしまった。
灰皿を振りかぶる男性スタッフは…彼女の夫。
あまりの恐怖に溺れたような息を吐き出して目が覚めた。
…はっ、は、夢か。
周りを見渡せば新幹線の中。
どんな夢を見ていたか思い出せないが、あまりにも怖い夢だった。
だけど夢だと知れて、安堵で息を整える。
流れる景色に目を遣りながら、前の座席の新聞の見出しが目に付いた。
自殺?他殺?今年で三人目
地方の川で入水自殺する女性達
就職難のせいか
暗い見出しから視線を外して、友達と過ごした楽しい記憶を掘り起こす。
早く旅館に着かないかな。




