【400文字作文】待ちあわせ 〜品川駅にて〜
私はあまり笑わない子供だった。目や髪型
や服装や、身長が伸びたことを褒められても
他の子と同じようにニッコリと笑えなかった。
早く大人になりたかった私は姉ちゃんの雑
誌に、秘密を持つことは大人になるための条
件だと書いてあるのを見て、たくさんヒミツ
を作りそれを守るために、ニッコリと笑える
ように……ウソをつける子供になれた。
品川駅を出て港南口へと歩く。私はこの宇
宙船内のような冷たい通路を歩くのが好きだ。
どこかへ、旅立つような気分になれるから。
通路を出て、品川インターシティへとつな
がる広い歩道橋の上で、彼を待つ。
メタリックなビルの窓は眩しく、冷たい冬
の青空はガラスのように澄んでいる。この空
に石を投げたら、パリンと割れてしまうかも
しれない。彼への、感情のように。
ビルの方から、寒い寒いと彼は背中を丸め
てやって来た。大丈夫?待ってたよ……と私
はニッコリ笑って、ウソをついた。