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オレンジ色の居留守  作者: りんごあめ
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運命の出会い

私は誰かに恋をするたびにそれを「運命の出会い」と呼ぶ。きっと運命の出会いというものは一回ではない、のだと思う。少し大袈裟に運命という言葉を付けて、その恋を素敵なものにしたいのだ。私と田辺君の出会いはまさに運命だったと思う。この出会いのどこが運命的だったかというと始まりが『一目惚れ』だったということだ。顔と髪型と体形、その人のたった三つの要素で人を好きになってしまうことが本当に起こった。子供のころから憧れていた私の理想の王子様にそっくりな人が、私が住む隣の町の大きなショッピングモールの中の小さなかばん屋さんに現実に存在していたのだ。ここで念のため私の理想の王子様像を伝えたいと思う。これを伝えることでこの出会いがどれだけ運命的だったかということが強調できるはずだ。まず、一番重要なのが髪の毛だ。髪の毛は長ければ長いほど惹かれてしまう。髪色は特に気にしない。黒くても金髪でもどちらでも構わない。ストレートヘアでもパーマでも構わない、とにかく私にとっては長さが重要なのだ。次に私は色白で細い人が好きだ。日焼けして健康的な人よりも少し顔色が悪いくらいの人、そして今人気の筋肉も無駄な贅肉もいらない。どこか中性的で儚い不思議な雰囲気の人を好きになる。だけど、そんな人には現実には出会ったことがなかった。だいたいはテレビの向こうにいるか、どこかのステージの上にいた。そんなわけで私の今までの恋愛は妥協の運命の出会いだったのだ。だから田辺君をお店で見かけた時、一瞬で恋に落ちてしまった。こんなに近くにいたのか、と。そして、奇跡はまだ続く。私の会社の同僚の眞由子が田辺君の中学校の同級生であり、元カノだったのだ。眞由子はもう電話番号を消していて友達を通してなら連絡が取れると言った。

「会ってみなよ。ねえ、いつにする?そうだ、私のことは気にしないでね。付き合っていたって言っても、ほんの一カ月くらいだから。なんのイベントも一緒に過ごしてないから。」

あっけらかんと言う眞由子は特に未練もなさそうで、どちらかというと人の恋愛を楽しんでいるような感じだ。そもそも眞由子が田辺君のどこを好きだったのか分からなかった。眞由子とは今の職場で出会った。初めは仲良くなるタイプではないと思っていたが仕事で関わるうちに同じ年齢で、同じ高校に通っていたことが分かってからプライベートでもよく遊ぶようになった。眞由子は最初の印象通り友達になりたくないタイプの子だった。かなり強引で相手を振り回す、まるでお嬢様のような子だった。彼女の旦那さんは社長で子供が二人。旦那とは仲が悪く、二人ともに不倫相手がいた。眞由子の不倫相手も社長だった。そんな話を会社の同僚つまりは私にしゃべって相談してしまうような子なのだ。だけど本人は計算で人に近づいたり、周りを振り回しているつもりなのにその計算はほとんどが間違っているように思えた。美人でちやほやされるタイプなのにどこか不器用でいつも空回りしている、それが私が眞由子を拒絶しなかった理由だ。

今回のことも、頼んでもいないのに勝手に話を進めてしまう。だけど私も会うことに迷いはなくて、頭の中では彼はどんな人なんだろう、どんなことを話すんだろう、どんな服を着てくるんだろう、何を考えて生きている人なんだろう、どんなことが好きで、どんな本を読むんだろう、と、彼への好奇心で満たされ始めていた。

「会ってみたいから、連絡お願いしてもいい?」

「そうこなくっちゃ。任せておいて。」

それから3日後に眞由子から連絡があり、2週間後の夜8時に待ち合わせをすることになった。

2週間は2週間の時間でしかない。だけどこの2週間、ドキドキしながら最後の自分磨きに励んだ。無駄だとは思いながらの食事制限や、毎日鏡の前での一人ファッションショー。相手は私のことを知らないのだから出来るだけ可愛く見せたいと思ったのだ。仕事中は妄想タイムだった。彼とうまくいって話が弾んで気が合って、という合格パターンと全然思ってた人と違ったとか、全然話が合わない不合格パターン。どちらも同じくらいリアルに想像できてしまう自分が憎らしい。そして2週間なんてあっという間だと思える日もあれば、ものすごく長く感じてもう今すぐにでも会いたい日もあった。そうやって秋の空のように目まぐるしく私の心は毎日変わりながら2週間が過ぎていった。

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