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お芋掘りを思い出してございます

 


 パチリと目が覚めましてございます。

 さて、今日も一日がんばるぞい。手元には何故か仏像が握られております。なんでございましょうね。私が昨日ナイフで削り出したのかもしれません。ついさっきまで何をしていたかわからないことはままよくあることでございますから気にしないでおきましょうね。

 近くには先日の日誌とメモ書きらしきものがございますか私が見ても何と書いてあるのかわかりません。多分躁を過ぎて鬱の状態で書いたのでございましょう。崩壊した日本語は匿名掲示板にでも貼れば頭がハッピーセットの書き込みの嵐になるであろうことは想像に難くございません。 焚き火の傍には片付けていない蛙の皮に骨、昨日の私は随分とやんちゃだったようでございますが今日の私のお腹が満たされておりますから文句などあろう筈もございません。

 メモ書きは何を書いているかわかりませんが、蛙の残骸などを見るにきっと水場に行って食料でも探してきたのでしょう。アクティブな私に感謝致しましょうね。特に腹痛などもございませんから良い食料でございました。外に出てみればなんということでしょう。ここ最近振り続けた雨足が随分と弱くなっているではございませんか。これはチャンス、チャンスでございます。畑を作って仕送りの種を植えるまたとない機会でございます。なんだかやる気が出て参りました。パァンと尻を打ち鳴らし、ひとまずポストを確認いたしましょう。おや……ポストの様子が……?なんと待ちわびた新聞でございます。ついに来ました。しんぶんし、上から読んでもしんぶんし、下から読んでもしんぶんし。なんという哲学。いつ頃投函されたのでしょうね。私はこう見えまして人の気配には敏感で部屋の前に誰かが立てば寝ていても起きたのでございますが。勿論隠れる為にでございます。家族であっても会話など可能な限り行いたくはありませんからね。新聞紙を取りまして取り敢えず中身を改める事にいたします。


 ”本日のヘッドラインニュース!!カルシャリア帝国が白竜皇国に宣戦を布告!!”


 ”南の小国にて香辛料が発見さる!”


 ”冒険者ルルベルト・シュタイン、竜を討伐す!!一世を風靡する英雄へ!!”


 ”金の価値大暴落!東ジェルガー地方市場崩壊す!!錬金術の影響か”


 良くわからないことばかりが書かれておりますね。ただ、香辛料は羨ましいことでございます。この森の中にもそのようなものがあればよいのでございますが。私のクズニートに相応しい無駄知識によりますればニリンソウが美味とか。勿論漫画の知識でございます。漫画とは実に偉大なものでございますね。私のようなクズニートであってもまるで現地に居るように知識や経験を積むことが可能とは神の奇跡に相違ございません。それにしても私にとって大変どうでもよろしいニュースしかないようでございます。世間などというものは私にとって存在しないものでございますからね。ああ、ですが欄外の生活の知恵や主婦の一言、豆知識コーナーは私にとって非常に重要なものに見えますね。これらは切り取って大事にとっておきましょうね。魚の臭みを取るには塩で揉んだり湯に潜らせたあとに水で締めるのが有効とのこと、やはり母は偉大でございます。日々私のようなクズニートに出されていた料理の数々、きっと私が思う以上に手間暇掛けられていたのでしょう。引きこもりでクズでニートで社会不適合者の親不孝極まりない私に出来たせめてもの親孝行はこれ以上家計を圧迫せぬようゆるやかな自殺のみでございました。喜んで頂けていればよいのですが母のことですから喜ぶことはなかったのでしょう。悲しみに暮れることもなかったのも想像が付きますが致し方ありませんね。母には弟が居ればそれで問題なかったのでオールオーケーでございます。母にとって私は人生のコブ、手術には痛みが伴うとはいえ好き好んで痛みを味わいたいという奇特な人間などおりませんからね。新聞をめくってみましたらあらまあなんとやら。神樹守ニュースなるものがございます。どうやら私以外の神樹守の皆さんのご活躍が読める模様、皆様頑張っておられるようでございますね。シャクト殿下と宮守成雅が森下美琴に対抗すべく同盟、スルヴェイン公の百年樹、金城結城に取り込まれる、よくわかりませんね。ケツを拭く紙にいたしましょう。残りのページはどうやら1コーナーで全て埋まっている様子でございます。どーれどれ。



「無味乾燥神樹守日誌~今日の姉さん~」


「今日の姉さんは髪の色が違った。姉さんはあんな色じゃない。前の姉さんのほうがもっと姉さんだった。でも前の姉さんは豚だったから仕方がない。あんな豚が姉さんな訳がない。臭くて汚くて五月蝿くて脂肪の塊だあれは嘘つきだ。嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つきは死ね。焼かれて死ね煮えて死ね切られて死ね落ちて死ね捻れて死ね病で死ね死ね死ね死ね轢殺刺殺絞殺圧殺撲殺殴殺射殺撲殺薬殺焼殺毒殺屠殺扼殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺あの豚が姉さんを隠しているに違いない。世の中豚だらけだ豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚豚。明日の姉さんを探さないと駄目だ。姉さんがたくさんいる。姉さんは何処にでも居る。空には姉さんが居てあの窓にも張り付いている。床いっぱいに広がる姉さん僕の姉さん。母親を名乗る豚が僕を追いかけてくる。豚臭くてたまらないんだなんであんなに豚は臭いんだブヒブヒ鳴いて煩いし煩わしいし何故僕に話しかけてくるのかわからないかわらないわかわからないあああああああああそもそも母親というのがわからない家族は姉さんだ母は姉さんだ父は姉さんだ姉さんだあんな豚じゃない。ここに来てから煩い豚が増えた。豚小屋に放り込まれた。豚が喋りかけてくる。着飾った豚ばかりだ。世界は豚しか居ないのに姉さんは空から僕を見つめてくれている。あの部屋に帰りたい。帰りたい帰りたい帰りたい帰りたいでも姉さんが居ないからあの部屋ももういらない姉さんの居る部屋を見つけよう明日の姉さんを見つけよう。さっきすれ違った姉さんは僕に微笑みかけてくれた。でも姉さんは笑わないからあの姉さんは偽物で豚で嘘つきだ死ね。姉さんのフリをして僕に近づく豚共だ今日姉さんのフリをして喋りかけてくる母親とかいう豚を殺した静かになったああよかった。姉さんと子供の頃みたいに一緒に眠りたいそしてそのまま死んでしまえたらきっと僕は幸せだ神様とかいうのがうるさくてうるさくてうるさくてうるさくてうるさくてうるさくてたまらない殺したら静かになった。神を名乗る豚め神は姉さんだ世界は姉さんだ全て姉さんで出来ているからそれ以外存在するわけないだから全部偽物だ僕はまだきっとあの部屋で寝ているんだ豚豚豚豚豚豚神樹を育てれば僕の願いが叶うと言われたが姉さんは此処に居るのに何の願いがあるっていうんだでもこれも姉さんじゃない姉さんはもっと綺麗な声をしているやはり豚しかいない姉さんを探そう世界に散った姉さんを集めて世界の復活の儀式を僕は望む。」



 何ということでしょう。弟が書いていた日記にクリソツでございます。弟はよくこのような文章を書いておりました。残りのページは全てこのような調子の文章で埋め尽くされております。弟もよくこのようなことをしておりました。懐かしゅうございますね。郷愁に浸って一秒、私真剣な目で道具置き場から鍬を手に取りまして、種が入った小袋を用意でございます。新聞紙は丸めて集めて寝床に致しましょうね。新聞紙に丸まればそれなりに暖かいのでございます。ダンボールもあれば完璧なのでございますがないものねだりは母も怒りましょう。外は小雨、畑を作るに良い天気とは申せませんが出来る内にやっておかねば明日は明日の風が吹くと言えば聞こえはよろしいですが要するに明日に大嵐になっても文句は言えません。あそーれと鍬を振り上げ家の前に畝を作りましてございます。神を名乗る疫病神から貰ったものの既に腐り落ちて発酵しきった食料を肥料代わりに混ぜ込みながらあそーれと鍬を振るうのでございます。掘り返す土は鬱蒼と茂った森の中というだけあって実に芳醇そうな土でございます。畑に丁度よろしいように見えますがそう見えるだけかもしれませんね。失敗しても私のお腹がダメージを受けるだけでございますから心配はございません。何の種かは一向にわかりませんが育てば食料になること間違いなしの種達を畝にずぼりと指で穴を開けまして投入、投入でございます……ッ!!善き畑となりますように。そっと土を掛けて拝んでおきましょうね。この天気ですから穴の空いた古い如雨露で水を掛ける必要もございません。それにしても小学生の、私がまだ引きこもりではなくまだなんとか社会に適合しようと抗って精一杯努力しようと無駄な足掻きをしていた頃の地域活動のお芋掘り行事を思い出しますね。母よりお弁当を賜り確りと準備をして、しかし私は地域活動の詳細を学級会で通知されていた時に体調を崩し休んでいた為に時間や場所を知らぬまま、然しながらそれを改めて先生に聞く勇気もなく同級生にも聞けず、準備だけして家を出て街を彷徨い歩きついにお芋掘り畑に辿り着くこと叶わず隠れるようにして一人でお弁当を食べて帰路に付き母に頑張ってきたとだけ告げて後日学校からの連絡で来なかったことがバレてどうしてサボったりしたのと怒られたものです。なんでそんな事も聞かないのと言われるのが分かっていただけに場所と時間がわからなかったとも言えずに黙り込んでいたあの頃……ああなんて懐かしいのでございましょう。これは確実に今宵は嫌な夢を見ること相違ございません。なんだか腕が重くなって参りました。陽が落ちたわけでも無いのですが視界は暗くなりどうにもこうにもお外に居るのが辛くこれがきっと女性の雨の日の憂鬱というものでございますね。明日は明日の私に期待でございます。本日の野良作業は切り上げまして、内職に励みたく思います。おうちでゆっくりと内職に励んでいれば嫌なことも忘れるというものです。そう言えばそう、昨日の私はがんえんをさがす、いけをほってみずをひく、カエルのようしょく、あみをつくるという事を今後の必要作業として考えておりました。それでは網を作りましょうね。これで蛙を簡単にゲットでございます。蔦植物を撚り合わせれば網になりましょうが、植物をそのまま結わえるのは厳しくすぐに傷んでしまいますからね。ここは一つ現代人らしく加工いたしましょう。樹木の外皮と使えそうな植物を見た目で判断、刈り込みでございます。これを水でほぐし繊維にしてからこれでは外作業でございますね網は明日の私に期待しましょう。私は一刻も早くおうちに帰りたいのでございます。しばし考えまして、雨漏りの修復に思い至りました。これでございます。泥を集めて壁に塗りつけてしまうだけでも大分違うのではないでしょうか。物は試しでございます。壁にするのならばあの泉付近の粘土質の泥がよろしいのでしょうがあそこまで歩いていく気力が私に既にございません。家の裏はべちょべちょとした土でございましたからあちらのどろんこで応急処置と参りましょう。兎にも角にもこのありあまる時間を潰れせればそれで良いのですからね。ああ、どうして私を構成する世界は滅んでいないのでございましょう。漸く無へと至り休めるのだと思えばこの有様、なんたる口惜しさ。やはりあのときの神とやらは疫病神だったのでございましょう。それ以外にありえません。今この瞬間に世界よ滅んでおしまいと叫びたいですが私の喉は勿論それを拒絶いたします。いえ、人様に迷惑などととんでもございません。この場合の私の世界は私の目の前にある世界と私の思考でございます。あの部屋が私の世界だったように私の世界とは狭いものなのでございます。今目の前にある世界以外は存在しないものと私は信じておりますので。あの木の向こう、私に見えなければそれは存在しないのでございます。だって私の見えない所に人が居て私を笑っているかもしれないなんてそのようなことは思うだけで恐ろしい事なのでございます。あのお芋掘りの折、私は翌日学校に行った後も先生にも謝れず誰にも何も言えず、そしてそのまま最後まで聞くことも知ることも出来ぬままでございましたが同級生たちや先生はついにあの場所に現れる事なかった私のことをなんと言っていたのでしょう。口にせずともきっと何かを思ったに相違ございません。繰り返す失敗、積み上がる後悔、ああ恐ろしい。ですので目の前に見える物以外は存在しません。ええそうですとも。ですので今世界に居るのは私一人だけ、ですので世界が滅んでも問題ございません。これなら安心ですね。べちょべちょと掘り出したどろんこを葉っぱに包んでおうちにお持ち帰りでございます。これで壁の穴を塞いで雨漏りを少しでも減らせばきっと何かをやり遂げた気持ちになれるでしょう。

 嫌な気持ちで落ち込んだ日とはそのように過ごすものでございます。



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