第4話 魔王軍の日常1
相変わらず遅くてすみません
薄暗い部屋の中、真ん中には天蓋付きの大きなベッドがある。
そのベッドの布団がモゾモゾと動いている。誰かが寝ているようだ。
当然と言えば当然だが。
その布団の端からニュッと手が生えてきて何かを探すように動いている。
目当てのものにたどり着いたのか、小さくて薄い長方形の板を掴むと、今度は亀が頭を出すようにニュルッと黒い頭が出てきた。
黒い頭は長方形の板に付いている丸いボタンを押した。すると灯りが点いた。
光に照らされた黒い頭は目を目一杯見開いて驚愕し顔を青ざめさせる。
「く、くくく、9時半ーーーーっ!!ヤバーイ、完全に遅刻だ!!!何で目覚まし鳴らなかったーーーーーーっ!!!」
急いでベッドから出ようとして気づく。そして辺りをキョロキョロと見回した。
「アレ?ここどこだ?えっと確か昨日…あ!思い出した。そうだ私聖女として異世界に召喚されたんだっけ…ハァ、よかった〜遅刻するかとチョー焦った。」
改めて周りを見回す。分厚いカーテンが陽の光を遮っているので朝だと思われるが辺りは薄暗い。
天蓋付きのベッドを繁々と見回す。この天井に何の意味があるのかわからないが、お嬢様気分にはなる。
じーっと天井を見つめる。
「天井…?あーーーーーーっ!しまったぁ、鉄板の『知らない天井』やりそこなったぁーー。チキショー!朝起きて天井なんか見ねぇよーっ!うおぉぉぉ…!」
ゴロゴロとベッドの上を悶えながら転がっていると、トントンと扉をノックする音が響いた。
「おはようございます、アスカ様。中に入ってもよろしいでしょうか?」
「あ?ああ、はい、どうぞ」
ガチャリと扉が開き、昆虫…アリっぽい亜人のメイドさんが「失礼いたします」と、一礼して部屋へと入ってきた。
「昨日はお疲れでしたね、よくお休みになられましたか?」
「ええ、そりゃあもうグッスリと。…寝ボケるくらいに…」
「それはようございました。申し遅れましたが、私はアーリアと申します。アスカ様のお世話係りをする事となりました。何なりとお申し付け下さいませ」
アーリアはアスカの正面へ向き直るとスカートの裾をつまみ屈むような形でお辞儀をした。
「あ、いえ、こちらこそ。お世話になります。」
ベッドの上で頭を下げる。アーリアは軽く会釈するとテキパキと分厚いカーテンを引き、端に止めていく。
カーテンが開いていくたびに朝の光が溢れ洪水となって押し寄せる。
あまりの眩しさにまたもやゴロゴロと悶える。
「うぉぉぉ!まぶちー、溶ける〜。」
「大丈夫ですか!どこかお体の具合でも悪いのですか!?」
「あ、いえ。えっと…あまりに眩しくて。普段あまり朝陽に当たらないものだから…」
ちょっとした悪ふざけが、マジに取られてしまい、いたたまれなくなってしまった。
「ああ、そうなのですね、良かった。そうですね、普段あまりお部屋から出られない方々は同じような反応をされますね。」
「ははは…」
フォローまでされて益々いたたまれなくなる。アーリアさんの笑顔が眩しいですね。
それはさておき、いつまでもベッドの上でウダウダしていても始まらないので着替えるためにベッドから降りる。
ベッドの脇にあるチェストに用意してあった洗面器に、これまた用意してあった水差しの水を入れ顔を洗う。映画とかでこういうの見たなぁ、などと思いながらタオルで水気を拭う。
「お召替えされますか、でしたらこちらへどうぞ」
案内され部屋に幾つかある扉の一つに入る。そこは衣装部屋らしく、色とりどりのドレスがズラリと並んでいる。
壁には大きな鏡が付いていて、全身が見れるようになっている。ゲストルームにこれだけのものがあるとは、さすが魔王の城である。
(うーわー、スゴイ!私がもっと若かったらこんなフリフリゴージャスドレス飛びついただろうけど、今は、ねぇ…)
哀愁さえ漂ってしまいそうなアスカにアーリアが一枚のドレスを差し出す。
「こちらなどいかがでしょうか。アスカ様によくお似合いだと思うのですが」
差し出されたドレスは、真紅の生地に黒のレースがあしらわれた一品。確かに似合いそうだ。
だが心の中で(どこの悪役令嬢だー!)と叫んでいた。
「あのすみませんが、なるべく地味目で動きやすいのでお願いします」
「そうですか…ではこちらのはいかがでしょうか」
少し落胆したような感じで次に勧めるべくドレスを選ぶ。そして持ってきたのが濃紺の何も飾りのないドレス。確かに地味だがスカートのボリュームのためのレースはふんだんに使われている。ペチコートってやつです。これがあるのと無いのとではあのスカートのマルッと感は出ないのである。
「ああ、これにします。」
決まったので早速お着替え。
やはり着なれないので支えてもらったり、上げてもらったりと七転八倒したがなんとか着終えたので鏡で確認をしてみる。
何だろうか、何かで見たことあるような出で立ちだった。何だろう?と頭をひねっていると、ハッと思い出す。
そうかジ○リだ。ジ○リのおば様達がこんな丸いドレスを着ていた。正に、今の方が数倍似合ってる、ってやつだろう。
複雑な気持ちで衣装部屋を後にする。
「それでは朝食のご用意も出来ておりますので、ご案内いたします。」
こちらへどうぞ、と扉を開き手の指を綺麗に揃え廊下へと導く。
長い廊下を歩きながらアーリアの事を聞く。
不躾かと思ったが気にする様子もなく話してくれた。
アーリアの種族はアンート族と言い、女王を頂点に全て女、しかも全て女王の子供らしい。基本はその女王の元一生を過ごすそうだ。
ではなぜアーリアはこの魔王城にいるのか。
何でも集落の中にはわずかだが外に興味を持つ者が出てくるらしい。しかも結構あっさり集落を出る許可はもらえる。そういうものとして受け入れてはいるらしい。その代わり二度と集落には戻れないそうだ。
「え、それって寂しくないですか?」
「…そうですね少し寂しいです。ですが種族の掟からも解放されますから悪い事ばかりではないですよ。子供はできませんが恋愛はできます。」
フフフ、と笑うアーリア。本当に笑顔が眩しいです。
ちなみにココで働いてるアンート族の方々は皆姉妹だそうです。
色々壮大な設定があるが、正直本編とまったく関係がないので終了。
そうこうするうちに食堂へとたどり着いた。アーリアがガチャリと扉を開く。
中に入ると広い空間に長くて大きな卓が真ん中にどっしりあった。白いテーブルクロスがかかっており、正に貴族の食堂だ。
(この目でこの光景が見れるとは、感慨深いね!)
一人変な感動をしているアスカ、そこに一人男が近いてきた。
「おはようございます、アスカ様。すぐ朝食をお持ち致しますのでこちらへどうぞ」
頭髪を綺麗に整え黒の燕尾服に身を包み白い手袋が眩しい。背筋も真っ直ぐで動作も美しい、そこには狼獣人の執事がいた。
(おお、昨日の獣魔将軍とは真逆の獣人だなぁ。ナマ執事イイ!)
「それでは、ルーフ様」
「ご苦労様です、アーリア。さがっていいですよ」
(ん、んん、ん〜…今ルーフ様って言った?え、ま、まさか…)
「じゅ、獣魔将軍!?」
「ええ、そうですが」
そこには薄く微笑む四天王の一人獣魔将軍ルーフがいました。
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