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救世のレイスノヴァ ~君と僕との異世界革命~  作者: 樹 夕
第一章 天を仰ぐ雛
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第一章1   異世界転生



「ん……」


 意識が覚醒すると、再び真っ白な空間の中にどうやらいるようだ。ふむふむ、何か他に分かることか……何か体に巻きついてるな。触った感覚的には布っぽいな。だが、その布のせいで俺の身動きは取れない。そして背中に少し固い物の感触がするということは俺は寝転んでいるってことか。

 更に時折、遠くの方で聞こえる、人の声。さすがにボヤっとしていて何と喋っているかまでは理解はできない。


 そこに誰かいるのか? と声をあげようとするが言葉にならない。おかしいな。


 何度も何度も声を出すがやっぱり言葉にならない。何でだ? 

 そんな自分に戸惑いつつも、振り絞って繰り返し声を挙げると、ふわっと体の浮遊感を感じる。そして何だろう、この嗅いだことのない不思議な匂いと温かいものに包まれる。落ちつく。そしてゆっくりゆっくりまるで揺りかごにいるかのように揺れ始める。

 俺が今まで感じたことのない安心感に包まれていると、また意識が遠のいていく。


 ある程度これを繰り返していると嫌でもわかってくる。初めから嫌な予感はしていたんだ。だがそれでも自分を騙し騙しやってきたんだが、今やっと視界がぼんやりと見えてきたのは暗に俺の予想が当たっていることをほのめかしているようだった。ちょうど、声もクリアに聞こえるし、今までモヤがかかっていた頭の中もスッキリだ。


 まるで負傷した兵士が自分の怪我に気づき、ショック死したりと認識することによって現実になるというのが怖い。いやこの場合は現実を受け入れていない、気づいていないだけか。はぁ、覚悟決めるか……。


 手を布の中から出す。


――手ちっさー……。

 

 わぁ、まるでお人形さんのおててみたいだー! しかもこの小ささ、まるでミルクのように白い肌、たまらないぷにぷにな感触、これ完璧に間違いなく赤ちゃんじゃん……。嘘でしょ、赤ちゃんじゃん!


 


 おいおい、ソフィアさんや、言ってくださいよ、ホント。

 ま、まぁ確かに? この世界でどんな形で誕生するなんて聞かなかった俺も悪いけどさ、せめてそこは説明してくれてもいいんじゃないですかねぇ……。


 あー詰んだ。この状況詰んだわ。よし、世界の平和を守るぞって、赤子でニューゲームさせられてどうやって敵を倒すんだ! どうやって、平和を守るんだー。種子の発芽まで時間がかかるってこれのことかよ……。確かに、これじゃ力を発揮するまでに時間かかるのもわかるけどさー。

 

 自分の覚悟が足りず、世界の不条理に憤慨し、俺がああでもないこうでもないと手足をジタバタさせる。


 すると、誰か来たようだが、そんなことより、俺はこれからどうするかを決めねばならんのだ。


 ふと、頭を撫でられる感触で俺は我に戻った。俺の目に映るのは茜色の髪の少しぶかついた修道服を着た少女。この少女がどうやら俺の頭を撫でているようだ。俺の寝ている揺り篭の側面に立つ彼女の、その表情は少しばかり強張っている。通りで撫でるのがぎこちない訳だ。まぁ概ね満足だが。うむ、悪くない。


 しかし、まぁこの歳じゃなぁ、前の世界の俺だって同じ立場だったらテンパるだろうし。

 ふと、視線をずらすと他にも彼女の後ろに隠れながらこちらを伺っている瞳がいくつかあった。恐らく彼女を呼んだのはこの子達だろう。ここは孤児院を兼ねた修道院ってとこか。


「あ、なんか喜んでるみたいね。ふふっ、いい子いい子……でも良かったわ。お腹減ってるわけじゃないのみたいね。それこそ、私じゃお手上げだったわ……まだミルクなんてあげられないしね」


 そう言うと少女は軽く俯き、もう片方の手で自身の未熟な胸元に手を当て、眉をひそめながらはにかんだ。そんな一部始終を俺は瞬きせず、見ていた。

 

 全く。俺ときたら器が小さいな。赤ちゃん? そんなこと関係ない! 

 俺は平和な世界にするために全力をかけるだけだ。

 俺は例え胎盤の中からだろうと、もう気にしない! だから俺はこう今なら胸を張って言える。そう、赤ちゃん最高ー!!


 全く、なんだよ、全く。なんだここ、素晴らしい。俺は、異世界で頑張ろうと思います。ソフィアさん、俺は貴方に心の底から感謝せざるをえないようだ。ありがとう。

 



----------------------------------------------------------------



 



 掴まり立ちでやっと歩けるようになって、外界の様子が徐々に分かってきた。このラクルスという町は中心に大きな湖がある、長閑だがそれなりに大きい田舎町だ。

 

ここの湖で採れる魚はちょっとしたものでこの町の特産になっているくらい有名でここから王都から商人が魚を買い付けに来るぐらいには有名だ。今はまだ食べることができないが、いつかは是非とも食したいところだ。その特産のおかげもあり、こんな田舎町にしては意外にも人の往来はそこそこある。

 

 驚いたのが、決して裕福とは言えないこの町のはずだが、人と人との結び付きが強く、時たまに好意で山盛りの魚やパンを修道院まで届けてくれるのは前の世界ではあまり見たことのない光景だった。

 領主が良いのか、ここの人間がお人好しなのかはわからないけど、単純に良い町だなと感じた。

 

 ちなみに現在俺は予想通り修道院に引き取られているようだ。この修道院は孤児院と言う側面も担っていて、俺のような捨て子、つまり孤児達は修道員達の仕事を手伝うことで給金の代わりに衣食住を提供してもらっている。正に今まで俺が読んでいたラノベや漫画そのものだ。

 

 見慣れない動植物、豊かな自然、長閑な町、俺の目に映る全てが真新しい。自動車の音や騒音が聴こえないだけでここまで心が穏やかになるなんて思わなかった。深く深呼吸すると、感じる。やはり何度も思いを馳せた異世界だということが。

 

 しかしそれはそうと、この状況は面白くない。初めはどの感情よりも真っ先に好奇心が勝っていたため、深く考えていなかったが、俺のこの手の知識ではずっとここに置いてはくれないのは明白。

 きっと生活出来るくらいの技術と知識を教えてくれたりもするだろうが、そんなものこの世界の、しかも修道院の教育なんてたかが知れている。

 

 幸い、ここは治安が良さそうだ。

 

 いずれ訪れる独り立ちの日、ここまでにはなんとしてでも身につけられるものは全て身に付けなくてはいけない。

 はぁ、これが由緒ある名家とかに引き取られたらどんだけ楽だったことか……。

 ソフィアの顔がチラつくが、まぁ俺は楽しにここにきた訳じゃない。少なくとも救世主としての義務は果たさなくてはならない。

 まだ、ここでの方針が決まった訳じゃないけど。

 それでも、前の神崎庵では出来なかったことをやっていきたい。とまぁここまで色々思考を巡らせているけど日記に書いたら割と黒歴史間違いなしだな、と、



「あっ!! ここにいたのね!! 」


 

 不意に声を掛けられ驚いた。どうやら、お目付け役に見つかってしまったようだ。そのまま俺は修道少女ことティアに抱き抱え上げられ、成長途上にある小ぶりな胸に顔を埋めさせられる。はははっ、役得役得。


「全く。少し目を離したらすぐ何処かに行っちゃうんだから……勝手に出歩くと危ないのよ? 分かってる? 」


 はぁ、と溜息と安堵とも取れる息が漏れて聞こえてきた。まだ言葉をまともに喋れない俺は、すんませんとばかりに上司に向けて謝罪するよう深々と頭を下げる。


「アルクは面白いわね。時々だけどまるで私の言葉が分かっている様に感じる時があるし、叱ったらちゃんと反省してくれるしね。直らないけど。ひょっとして本当に分かってたりするのかしら」


 なんてね、と俺のことを抱き抱えながらも器用に頬をつんとするティア。彼女の茜色の髪が俺の頬に触れ淡い香りがそっと鼻を打つ。

 初めはぎこちなかった彼女も、今では立派に俺のお目付け役が板についている。これは嬉しくもあり、嫌でもある。何せ彼女は、だいたい俺がどこに居ようとこうやってすぐに見つけられてしまう様になってしまうからだ。初めは探知魔法の一種か等と調べてみたが、どうやらただの勘らしい。女の勘こえぇぇ。

 それからというもの、俺の調査はあまり捗っていなかった。まぁだいたいこの町の様子は調べることが出来ているから弊害はあまり出ていないけど。


 ティアは俺を幼児用に設けられている部屋に連れて行くと、


「今度こそ、ここから出ちゃダメよ」


 と俺用のベッドの上にそっと降ろした。俺はそんなことは了承出来ない、とそっぽを向くとふんわりとした感触が頭に感じると同時に甘い香りを感じた。彼女が俺の頭を撫でているのだ。


「全く。他の子はあんなにじっとしているのに……。お姉さま達もこんなに活発な子は初めてって驚いてるくらいなのよ? 私だって貴方のお目付け役になってからお姉さま達のお手伝いもあんまりできていないのだから……い、嫌じゃないんだけどね? 」


 柔らかい笑みを向ける彼女。少し罪悪感はあるのだが、これは仕方ないんです。諦めてください。





 ----------------------------------------------------------------




 俺の飽く無き探究心は続く。自分のことながらティアには本当に同情する。

 何せ俺はあれからも毎日毎日、この町のたんけ――いや、調査をする日々を続けている。ここで嬉しいことが、やっと喋れるようになったのだ。他の子より早くて驚かれもしたが、俺からしたら当たり前のことだ。

おかげで調査がスムーズになった。自分で見て予測するだけと、人に聞いて理解するのでは雲泥の差だ。しかも子供の俺が常識を聞くのは至って自然。もし、転移だったら何こいつ? と笑われ、最悪、疑問を持たれる可能性もあるから、そこら辺はラッキーだった。

 

 あれから分かったこととしてはまず、ラクルスでは住民と鐘がとても密接になっている。

 一日に八回、だいたい三時間に一度、等間隔に()()で鐘が鳴るらしい。機械とかではなく、魔導具の一種らしい。生活の部分を見ると部分部分によっては割と進んでいるところもあるのかもしれない。

 食事や睡眠などはその鐘の鳴るタイミングに合わせて取っているようだ。この二つどちらも少し大変そうだ。睡眠はまぁパソコンとか娯楽があるわけじゃないから早寝早起きは最初が辛いくらいなもんだろう。食事は毎日のように食卓に並ぶ、歯が折れそうなくらい固い黒パンとスープといった感じだ。これはとてもじゃないが満足できそうにない。正直怖い。

 

 最後に教育だ。

 修道院では修道員からの教育を受ける。教育と言えば格好が付くが、その殆どが生活に困らない程度の常識、技術などの基礎教育だ。

 修道院にそこまでを期待はしていなかったが、何かしらの対策を練らないといざ社会に出てスラム街で生活ってなことになりかねない。修道員には変な質問をする、と首を傾げられたが、実際にそういった子供が一定数はいるのとことだ。よく喋りはじめたばかりの俺に教えてくれたものだ。



 そんなこんなで、俺これに順応できんのかぁ? と不安十割を胸に抱いている中、小言を言うお目付け役に抱きかかえ上げられまたしても部屋に戻される。






 

 


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