たぬき
「えーんえーん」
向こうの山から毎晩聞こえるまるで誰かが泣いてるような不思議な音。実は、この現象には不思議な言い伝えがある。
昔、とある山の奥に2匹の年老いたたぬきの夫婦が住んでいた。
彼らの名前は染五郎と幸。染五郎は第2次狸合戦にて大将として指揮をとり、幸は女工としてお山の為に身を捧げた優秀な者達であった。
第2次狸合戦が始まる少し前、2人の間に子だぬきが3匹生まれた。初の子供である。名前は上から順に
葉、茎、花
男の子2匹に女の子1匹であった。
幸いにも染五郎一家は食料を充分に備蓄していた為、3匹はすくすくと育ち立派なたぬきとなり、男の子達は兵隊へと駆り出されて行った。
大将である父の側近として、2匹の息子は必死に戦った。しかし、最初は優勢だった戦いも次第に負けることが増えてきた。そして、それはある日の事だった。
「号外!号外!我らは戦いに破れ降伏した!」
降伏、この言葉は即ち染五郎達男3匹の死を告げるものであった。
この情報を幸は工場で、花は家で聞いた。
今まで戦万歳!染五郎万歳!と叫んでいた民衆にとって、今や染五郎は彼らの家族を駆り立て殺した悪者でしかなかった。
「染五郎の娘もやつと同じように悪魔だ!火をつけてしまえ!」
暴徒と化した彼らを止めるものはいなかった。悲しみ、泣きじゃくっていた花がその音に気付くはずもなく、赤黒い憎悪の炎に巻かれながら、彼女の短い一生は幕を閉じた。
母、幸はそれをただただ工場の窓から眺めていたという。娘が無事である事を祈りながら。
非情な事に幸も娘のいる家に火をつけた民衆の一部に拘束され、焼け落ちるまでの一部始終を見せられていたからだ。
「どうだ。我々の苦しみがお前もこれでわかるか。」
誰かが彼女に叫んだ。
「もうやめて!お願い!」
「やめて!」
幸は目を覚ますと3匹を育てていた頃のように明るい山にいた。
その近くには幼い字で葉、茎、花よりと書いてある葉書が落ちていた。
「かあさんへ
だいすき
ありがとう」
また、染五郎よりと書かれた葉書には
「母さんには迷惑をかけた。すまなかったな。」
幸は2枚を大事そうに拾い、死ぬまで崖の上に座って泣いていたという。
「えーんえーん、私こそごめんなさい。誰も守れなかった。」
誤字脱字、また話が繋がらない等の御指摘大歓迎です。