国滅
ー遠い遠い昔のこと、一人の名を馳せた暗殺者がおりました。暗殺者は某国の王子と親しくなり、仕えることになりました。暗殺者と王子は大陸の五つの國を平らげ、太平の世を築こうとしました。
そして遂に、二人は血みどろの戦いを制して大陸を統一し、巨大な王国を築き上げたのです。王は大陸を六つに分割し、領主達にある程度の自治を認めながらも中央集権的な体制を敷きました。
王は、共に戦ってくれた暗殺者に褒美として七つ目の國を授けました。
暗殺者は、この恩を忘れずに王国の為に力を尽くすことを誓いました。暗殺者の持つ情報ネットワークと暗殺技術によって、王国への反逆を未然に防ぐことによって、最小限度の兵員で王国の秩序は保たれました。
このような関係が長く続くかと思われた。平和で穏やかな日々が永遠に続くと。誰もがそう思っていた。
「あの時」までは......
ー「ハァハァ、、、」
「早く!奴等が来るぞ!」
「わかっ、、て、る、」
「何で...こんなことに...」
顔を上げると辺り一面が火の海となっており、死体も至る所に無造作に転がっている。熱と油と汗と人の焦げた匂いが一体を覆っており、鼻が利かない。これでは敵の気配を察知することは困難だ。それに自分達のことだけで精一杯だ。とにかく逃げなくてはならない。「この子達」を守るために。
「ハァ、、ハァ、、」
(どうして中央の軍隊と各領主たちの軍隊が、この国に攻めてくるのだ。そんな予兆は無かったはずだ。クソッ、分からん。黒幕は誰なんだ)
二人は走った。とにかく走った。そして、偶然にもある小屋を見つけ、身を潜めた。
「もう......駄目...だ。奴等から逃げ切れん」
「では...この子達...だけでも」
「あぁ、この子達さえ生き延びれば、いずれ復讐を果たし、私たちの国を取り戻してくれる」
「えぇ、そうね...」
「おい、誰か」
すると、影から二人が音も無く現れた。
「何なりと、偉大なる師よ」
「この子達を別々に辺境の地において隠すのだ。そして、時が来るまで一人前に育てるのだ」
「承知しました」
二人は、子供達を名残惜しむように、悲しげに、愛おしげに見つめた。
この怒りを自分達で得体の知れない相手にぶつけられないことに、ひどい憤りを感じた。だからこそ、この子達には私たちの想いを背負って、復讐を遂げて欲しい。
「この子達を...頼む...」
「生命に替えても、必ずお守り致します」
二つの影は本来の居場所に帰るかのように、闇の中に消えて行った。
「無念だ。私の代でこの家が、この国が滅びてしまうとは。先人達に顔向けできない」
「あなた、必ずあの子達が復讐を遂げてくれるわ。だからこそ、私達はここで果てるしかないの」
「あぁ、敵の手にこの身体を渡すわけにはいかない」
男は懐から油が入った小瓶を取り出し、周りに振り掛けた。そして、火打石で火を点けると瞬く間に小屋は燃え上がった。
「クレイヴ、ナディア...復讐を果たせ...」
小屋はますます火の勢いを強めてゆき、意識も徐々に薄れてゆく。
「復讐という運命から...絶対に逃れられない...」
小屋は悲鳴を上げたが如く崩れ、闇と共に朽ちていった...