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第30話 イゼン

外についてある階段から2階へ上ると、広い廊下が続いていた。広い廊下には物は全く置いてなかった。その廊下は、人が通るために、部屋と部屋を繋ぐために作られたものではないということはすぐにわかった。

奥の方で、叫び声が聞こえる。下で聞いたのと同じ声だ。僕たちはその廊下を恐る恐る前へと進む。この場合、一番強いメイラを先頭にするのが妥当なんだろうが、流石に女の子に無理をさせたくない。それに、メイラには反撃ができない。いざというときに動けないと困る。よって、先頭は僕が、その後ろにメイラとポトゾルがついている、という感じだ。

廊下の奥に進むごとに、庭からの兵士と盗賊の声が小さくなる。それが単に距離が離れているからなのか、人数が減ってきているのかは分からない。ただ、小さくなっているとはいえ、そんな声が全く耳に入らないほどの異様な物を僕たちは見つけた。

それは廊下の端の方で頭を抱えてうずくまっていた。頭にフードを被っているがそれは人間には見えなかった。確かに人間の形はしている。しかし、その何かは化け物、いやそれ以上の何か不気味な存在だった。

と、突然それはゆっくりと立ち上がると、こちらを向いた。 フードと、廊下が薄暗いせいで顔はよく見えない。


「きぇあぁぁぁああああぁぁぁああ!!!」


そしてその何かは鼓膜が裂けるかのような奇声を発した。


僕たちはその音に耳を塞いだ。するとその一瞬で、それは僕の体を引き裂いた。体を動かしていないのに、視線がどんどん下がっていく。そして、意識が無くなる直前、僕にはフードの中の顔が見えた。それは、街に襲撃をし、恐ろしい事件の張本人、イゼンだった。


僕は気づくと、廊下に倒れていた。廊下には確かに赤い液体が飛び散っていた。僕は恐る恐る右手を腰の方に持っていく。右手には布の感覚があった。ゆっくりと顔をあげる。そこには切れたはずの下半身が、無傷の状態で体にくっついていた。


「な、なんで……」


ここで僕は頭の中に話しかけてきた、あのナビのことを思い出す。


「そうだ、そういえばメイラとついでに一回だけなら死んでもいいようにしてあったんだっけ」


そんなことを考えていたが、遠くから聞こえるひとつの奇声でいまおかれている状況を思い出す。

あのフードの男はイゼンだった。あのスピードも納得がいく。

かといって僕が何かできるとは思えない。敵がイゼンとわかったところで、どうすることもできない。彼は明らかにあのときよりも我を無くしている。説得や、話し合いなんかで解決はできない。

することはただひとつ。彼を倒すことだ。

しかしそれが僕にはできない。僕が使えるのは『整頓』という明らかに片付けのためのスキルしかない。ならば、仲間たちの技を利用することを考えろ。メイラの『アンチファイア』は使えない。イゼンは魔法系の攻撃を使うタイプではなく、明らかに物理型のスキルを使用している。ならばポトゾルだ。ポトゾルには威力は弱いといえども、様々なスキルが備わっている。炎、氷、雷の魔法は使うことができるのだ。

それならばと、僕はもときた道を戻る。幸い、メイラたちが戦っているのはさらに奥で、戻ることはとても簡単だった。

扉を開け、外に出る。頭上には僕たちを嘲笑うかのような青空が広がっていた。するとここで、兵士たちの声が聞こえないことに気づいた。いや、それだけでなく盗賊の声も聞こえない。急いで下にかけ降りる。

そこにはほとんどの兵士と盗賊が倒れていた。倒れていたといっても死んでいるわけではない。どうやら気絶しているようだった。相打ちになったりしたのだろうか。いや、今はそんなことを考えている時間はなかった。急いで、一階の廊下に戻る。このときあまりにも焦っていたためか、シュウシとオームの姿が見えないことには気づかなかった。

一階の廊下を見てみると、人が二人倒れていた。

一人はパスカルだった。SPを使いきってしまったのだろうか、彼女のもとにかけよっても、全く反応しない。

そしてもう一人、レンヨウが倒れていた。彼はなぜ倒れているのか分からない。気絶をしているようだった。パスカルがやったのだろうか。

しかし、やはりここでも詳しいことを考えている時間はない。急いで打ち付けられているドアを調べる。しかしそのドアは固く、釘と板によって閉ざされていた。蹴破ろうとしても、蹴破れない。かなり固くしてあった。

こうなれば、釘と板をひとつずつ剥がしていくしかない。しかし、そんな時間は残されていないばずだ。これは憶測だが、メイラはポトゾルを庇いながら戦っているはずだ。そうすればいくらメイラといっても簡単にはいかないはずだ。

考えた。どうすればいいか、釘をじっと見つめる。その釘は固く打ち付けられていると思いきや、雑なところもみえる。このところをきれいに外すことができたらいいのだが……


ここでひとつのスキルを思い出す。『整頓』。このスキルを使って釘と板を整頓することはできないだろうか。物は試しだ。整頓というスキルを使ってみる。すると自分の手は自分のものではないかのように動き始めた。いや、確かに動かしているのは自分だ、その感覚はある。しかしそのあまりにも早く動く両手に僕は驚きを隠せない。

すると、カランと、音がする。続いて何度も音がする。そして、僕はしゃがんだ。何かに操られているかのように。

気づくと廊下の端の方に板がきれいにおいてあった。その上に釘もきれいに引っこ抜かれ、置いていた。するとドアはなにもなかったかのように簡単に開いた。

部屋の中を探すと、探していたものがあった。油だ。これを利用して、イゼンを焼く。油さえあれば、ポトゾルのライターみたいな炎でも、相手を倒せるはずだ。

急いでもと来た道を戻る。二階に着くと、イゼンと、メイラが戦っているのが見えた。メイラをよく見ると、持っている武器が、金属のパイプというのに気づく。そういえばあいつ武器を持ってなかったな。そう思いながらこっそりと二人に近づく。二人はこちらに気づかない。タイミングよく油をかける。

二人に油がかかる。そこで僕は叫んだ。


「ポトゾル! こいつらに向かって『ファイア』だ!メイラは自分に『アンチファイア』だ!」


「え? はっはいぃ!」


そう言うとポトゾルはメイラとイゼンに向かって火の玉を飛ばした。火の粉のような火の玉は一直線にメイラとイゼンに向かっていった。そして、イゼンの体に炎が着くと、火の玉はジュッと音を出して、消えた。


「え?」


僕が固まっていると、メイラが突っ込みを入れる。


「……サラダ油くらいだったらこんなものじゃ火がつかないわよ」


「「えっ」」


僕が驚くのと同時にポトゾルも驚く。ああ。そういえばポトゾルは社会以外ダメだったな。


「ウグォォアアアアア!!!」


気づくとイゼンが叫んでいる。イゼンの怒りの矛先がこちらに向いたようだった。

と、その時、イゼンが足を滑らせた。油で滑ったのだろう。思いきり、頭を打った。そして、そのまま動かなくなった。


「「「えっ……」」」


しばらくの間僕たちは動けなかったが、ふと、気がつき、ロープで縛った。


「あっけなかったな」


「ええ」


そうみんなで話ながら先に進もうとする。しかしその時だった。前から一人の男が現れた。


「流石だな。イゼンを倒すとは」


メイレイはゆっくりと近づいてきた。


「さて、やるか……。やっと戦えるときが来たな」


そう言うとメイレイは静かに構えた。

辺りが静まりかえる。そして、スッと動いた。イゼンほど速くはなかったが、なぜか止めには入れなかった。そして、気がつくと、メイレイは手刀で、ポトゾルを気絶させた。


「なっ」


僕たちは凍りついた。メイレイは他の人たちとなにかが違う。そんな気がした。


「では、戦おう。本当はモルも含めた3人とやりたかったのだかな」


僕はなぜかイゼンのとき以上の恐怖を感じていた。




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