第17話 光
多分、あそこにはあれがあるはずだ。そう思って僕たちが向かったのは体育倉庫。
「体育倉庫に何があるんですか?」
モルが首をかしげながら聞いてくる。
「ん? 網だよ。網。障害物競争とかで使う網だ」
みた感じいまの、イゼンは怒り狂っている。冷静な判断ができていないはずだ。さらにイゼンは攻撃力はそこまで高くない。あの素早さによって威力が増してダメージを与えてくるが、スピードに乗ってさえいなければ網を破ることはできないだろう。
体育倉庫をみると鍵がかかっている。体育倉庫は扉が鉄で、それ以外のところがコンクリートだ。これでは鍵をとってこない限り開けられない。
「くそ! 鍵か! 」
モルがコピーして攻撃力をあげればいいのだが、それが出来ない。なぜなら今日モルは既に一度使ってしまっていて、SPが0になってしまっているからだ。
鍵をとってくるにも時間がかかる。かといってコンクリートなんかを壊すほどの威力はさすがに出せない。ここから校舎までは往復で1分ちょいといったところか。流石にそんなには待っていられない。アボやパスカルが他の人たちの二の舞になってしまう。
そう思っていた次の瞬間、何かが体育倉庫のコンクリートをぶち抜いた。その何かが飛んできた方向をみると、一人の男が立っていた。
「はぁはぁ。当たった! 当たったぞ!……ただ、これはデメリットも大きいな。 か、体が痺れてこれ以上は動けな……」
そう言ってボルトは倒れてしまった。しかし、ボルトはやってくれた。一番重要なところをしっかりとやってのけた。僕は嬉しくなってつい、次にすることを忘れてしまうかのようだった。
体育倉庫の中にはいると、そこは散らかっていた。ボルトの雷閃でいくつか崩れたのもあるが、埃を被っていて、手入れがされていないようなかんじだった。
じめじめっとしているはずの体育倉庫はボルトが開けてくれた穴によって、光が入り込みしっかりとどこに何があるか見渡せる。
「あった! これだ」
これで何とかイゼンを捕まえることができるはずだ。 急いで戻ろう。
体育倉庫から出てグラウンドの方を見やる。まだ、砂煙が上がっている。彼らが戦っている証拠だ。
音がする方へ向かう。見ると、既にアボはボロボロだった。パスカルも疲れきっている。
「来ましたか……。お願いします」
アボがイゼンの攻撃を受け止めながら言う。
「あがぁぁぁ!」
イゼンは已に自我を失っているのか、会話が通じるような気がしない。よし。この網でイゼンを捕まえれば――
あれ? イゼンのスピードに僕、追い付けなくない?
イゼンとアボは高速で動いている。止まってくれなければどうすることも出来ない。
「は、早く! 早くお願いします」
アボが催促をかける。
「そ、そんなこと言ってもぉ……。ふぇぇ。」
「こんなときにふざけないでください」
モルが鋭いツッコミをいれる。
ただ、これは本当にどうしようも……。
「パスカル! あとどれくらい圧力をかけられる?」
その声に苦しそうなパスカルはかすれた声で答える。
「さ、30秒がいいところね」
30秒か。よし!
「パスカル! 合図を出したら残ったSPをすべて使って強い圧力をかけてくれ! その隙に僕が網をかける!」
「わ、わかったわ。 よろしく」
僕は網を構えてその時を待つ。 早く、もう時間がない!
その時、イゼンの攻撃をモルが受け止めた。 モルの持っていた剣は既にボロボロだ。しかし、その一瞬。そこで二人の動きが止まった。
「今だ!」
「はっ!」
僕の合図でパスカルがすべてのSPを使って圧力をかけた。その隙に僕は網をかけようとする。
しかし、近づいて気づいた。イゼンがその圧力の中でも立ち上がってくるのを!
イゼンがこちらを睨む。イゼンの腕がのびてくる。だ、ダメか……。
そう思ったとき、イゼンの腕が剣で切り取られた。
イゼンは何が起こったかわかっていない。イゼンの動きが止まった。
「今だ!」
その隙に僕は網をかける。イゼンは暴れてたが、それもすぐに止んだ。網の端をくくると、顔をあげた。そこには鎧を着た一人の兵士、オームが立っていた。
「は、はは……。よかったよ」
そう言うとオームは倒れてしまった。
イゼンの方を見ると、死んだように眠っている。
こういう場合はどうしたらいいんだろう? 警察、といってもこの世界じゃ違うけど、に伝えればいいのかな?
「やりましたね。セツナさん」
モルが僕に向かって言ってくる。
「いや、モルもよくやってくれた……よ?」
あれ? 別にモルは何もやってなくね?
「まあ、作戦は失敗したけど結果オーライってとこね」
パスカルがニヤニヤしながら言ってくる。痛いところをついてくるな……。って言うかなんでこいつはため口なんだ?
「ふぅ」
アボが座り込む。 いや、本当にアボはよくやってくれたと思う。
「亡くなった人たちも、アンペアやワットも……よくやってくれましたよ」
モルが悲しそうに言う。 ……そうだな。あいつらもよくやってくれたよ……。
「んで、モルは?」
「え?」
「モルは何やったの?」
「……うわぁぁぁぁぁ!」
モルが走り出す。なんだよあいつ。まだそんなに元気が残っているのかよ。
モルがしばらく走ると誰かにぶつかった。何かヒョロっとした男だ。
「君たちがイゼンとミゼンを倒したのか」
鳥肌がたつ。な、なんだこいつ……。イゼンやミゼンとは違う、何か恐ろしいものを心のそこから感じるような……。
「そいつらを返してもらおうか。なに、素直に渡してくれたら何もせんよ」
その男はゆっくりとこちらに近づく。
「モル! 逃げろ! そこから離れるんだ!」
しかし、モルは動かない。 腰を抜かしたのか、立つことすらできていなかった。
「モル? ああ、君がモルか。大丈夫だよ。今回用があるのはイゼンとミゼンだから」
そう言うとその男はイゼンとミゼンを肩にかついだ。そうしている間は隙だらけだったはずなのに、僕たちは一歩も動くことができなかった。
「じゃあな。 今度あったときは……多分殺し合うことになるだろうな」
そう言うとその男は歩きだした。
しかししばらく歩くと振りかえって、
「そうそう。 まだ、自己紹介してなかったな。 自分は『メイレイ』って言うんだ。 よろしく」
そう言うと彼は本当に帰ってしまった。その姿を誰も追いかけようとはしなかった。
彼の姿が見えなくなっても、僕たちはただひたすら呆然として立ちすくむしかなかった。しかししばらくすると、ボルトとオーム兵士長が瀕死のことを思いだし、彼らを担いで、病院に向かった。




