東南アジア大戦、開戦5
ソウル、北京でもロシア同様、突如として現れた「日本軍」により中枢部が壊滅的な被害を被った。
一方、防衛軍はいっこうに始まらない3か国からの反撃に暇を持て余していた。当面の防衛は北海道、新潟、島根、福岡、それに沖縄の5か所に9人ずつの隊員を常駐させている。広さはそこそこあるが、昼間でも暗く、ただ複数のモニターの点滅と必要最小限の照明のみ。8時間ごとのローテーションで24時間体制で防衛の任務にあたっている。何とも憂鬱になりそうな環境だが、彼らは不満一つもらさない。むしろ与えられた任務に喜々としている。なぜなら、今回の任務を任された彼らはニートだったから…。
宣戦布告前に急遽徴集された防衛軍特殊部隊、それはオンラインゲームのランカーたち。今回の作戦に必要なのは体力ではなく、相手国の戦略を予想する知力、待ち、探す忍耐力、そして攻撃を即座に無効化する瞬間の判断力なのだ。
いくつかの人気オンラインゲームから、名の知れたランカーたちをスカウトし、さらに彼らが組むギルドというチーム仲間を誘わせることで各地の防衛に当たらせた。ただ防衛に当たらせるだけでは、彼らに意欲はわかない。そこで、各防衛地区ごとにミサイル撃破1ポイント、潜水艦発見5ポイント、偽装船発見3ポイントといった具合に細かくポイントを設定し、それぞれの防衛地ごとに競わせることとした。
サトルの持ち込んだ技術を現代日本の技術力にあわせて改造した防衛機器。もともとは「面」で防衛すべきエリアを保護できるのだが、それではあまりにもつまらないということで、レーザービームよろしく「点」で物理攻撃を無効化する機器が日本海側の各地に配備され、それを防衛軍のパソコンから光回線を利用して操作できるようにしてある。
さらに、現代日本の至るところにある監視カメラ。それらの画像もこの防衛軍でほぼすべてコントロールできるし、かって自衛隊と呼ばれた軍部実働部隊による船舶・航空機からの哨戒データもリアルタイムで見ることができ、敵はもちろん、今回の戦争の傍観国の偽装船舶、潜水艦などの探知も防衛軍のポイント…いや、任務となる。
万が一に備えて日本海沿岸部には実働部隊が控えてはいるが、彼らの出番はないだろう。
ちなみに、8時間の任務外においては別室でオンラインゲームに接続したパソコンが使い放題。食事も施設内の食堂からルームサービスで取り寄せることもできるし、食堂まで出向くことも可能だ。従来の自衛隊の施設との違いと言えば…そうそう、施設内にはコンビニがあった。彼らのID証を見せればタダで買い物ができる。
開戦から12時間が経過したが、その間に敵国からの反撃は見られず、潜水艦2隻と漁船に偽装された巡視船6隻のマーキング以外、彼らの有効ポイントは得られなかった。
国が大きければ大きい分、ピンポイントで中枢部を潰されると指揮命令系統が機能しなくなる。ある程度の規模の国であれば、中枢部が破壊されれば、次の指揮命令権は下部の組織長へ、さらに末端へと順次部隊を動かす権限が流れ、最前線ではほんの数名を率いる部隊長が戦闘状況を判断して部下に指示を出す。
しかし、これを許すと機動力こそ発揮できるが、命令の不一致、すなわち直近の命令と上層部が判断した命令が時間差で末端へと届き、混乱を招く弊害がある。さらには、軍部の暴走によるクーデターすら招きかねない。これまでいくつもの内戦、クーデターを経験してきた大国にとって、中央集権、単一の指揮命令を中枢部が手放すはずがなかった。
中国とロシアにおいては、それが顕著だった。中枢部が壊滅させられ、まず動いたのは韓国。支持率が30%を切るような大統領が襲われたところでたいして影響はない。ただ、大統領とともに戦略会議にあたっていた副大統領、軍総司令官、内閣閣僚までもが襲われたことで、誰が指揮をとるか…そこで反撃に出るまでの長い空白の時間が流れた。