東南アジア大戦、開戦4
ロシア大統領、イワン・ボサノビッチは朝から憂鬱だった。冬の始まりを告げる冷たい風が昨夜から吹いており、持病のヘルニアがうずいてあまりよく眠れなかったこと、それに長い夏休みが終わり、大好きな孫娘のアミーナが留学先のフランスへと帰っていったことに寂しさを感じてもいた。
「さて諸君。いよいよ今日が開戦の日というわけだが、何かかわったことはあるかね?」
グレムリンの奥まった部屋で、ロシアの最高指導者たちとその側近で構成された戦略会議が始まった。
「極東艦隊及びウラジオストックに集結させた空軍は命令があり次第、いつでも出撃可能であります。」
「国内マスコミは全て抑えました。国民への戒厳令発令も即座に可能です。」
軍司令長官、内務大臣が簡潔に報告した。
「どうもわからない。奴らが何を考えているのか…。今の奴らの政権側から具体的な攻撃や防衛について全く情報が流れてこんのだ。おまけに、軍部に頼んでおいた偵察用の潜水艦がことごとく行方不明ってのも不気味だ。」
そこ、一番大事なところなんだが、憂鬱な気分の大統領の頭には情報局長官の発言は聞こえてはいるものの頭の中で判断すべき重要事項として入ってこない。
「開戦の時間だな?N〇Kは何か言ってるか?エトロフで受信できているはずだが。」
「はっ、どうやらいつもの日曜日の番組を放送しているようです。大河ドラマの再放送かな?お、平家物語…こいつは録画しといてもらわなきゃ……」
と情報局長官が返答した時だった。いきなり背中に派手な漢字の刺繍をあしらった若者たちが現れた。
「いけー!やりすぎん程度にヨロシク!」
そうわめくや否や、手にもっていたバット、チェーン、鉄パイプでその部屋にいたロシアのお年寄りたちに襲いかかった。
「刃物はいかんぞー!あと、なるべく頭は殴らないよーに。ポックリいかれても困る。あくまで半殺しでヨロシク!」
修羅場と化した戦略会議室。その音を聞きつけ、部屋の外から護衛が中に入るが、この接近戦の中で銃器は使えない。ナイフも下手をすれば幹部たちを傷つけてしまう。素手で暴〇族、ヤ〇キーの若者たちに挑むしかなかった。もっとも銃器を使われても、サトルが配備したシールドで彼らの身体は守られてはいるから問題はない…いや、何人か配備漏れがあるかも知れないな…そこは、気合いでヨロシク!
「おっしゃー!このへんで撤退だ!もってきた武器忘れんなよー!順次撤退していけ。最後はケツモチヨロシク!」
一人、そしてまた一人と乱入した若者たちが消えていく。護衛の応援がかけつけた時には、すでに撤退は完了しており、残されたロシアのお年寄りたちのうめき声だけが残された。