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東南アジア大戦、開戦1

 「中国、韓国及びロシアに宣戦布告させて頂く!」


 日本国外務・軍務大臣である洋のいきなりの発言に国際連盟の議事場はどよめいた。そして、これがわずか1か月ながら、世界を震撼させた東南アジア大戦の開戦となった。


 ことの発端は、国内のニュースで最近頻繁に取り上げられるようになった領土問題。領土問題自体は第二次世界大戦の終結から日本にはずっとまとわりついてきた問題なのだが、これまで次の政権、次の総理へと先送りされ、いまだ解決を見ていない問題だった。


 「サトルの時代ってさ、やっぱ戦争とかってあったの?」


 「戦争?国と国の戦いって意味ならないなー。ってか、国って概念がないんだけどね。」


 「国がない?どういう意味だ?世界連邦とかでもできちまったのか?」


 「うーん、どう言うんだろうな。ほら、俺たちってどこへでも移動自由だろ?ってことは、国境なんて意味がないんだ。行きたいところに行って、住みたい場所で住める。だからここがどこの国なんてことはあまり意識してなかったな。」


 「なるほど、じゃ国がなくなるってか、そういうふうになったきっかけって何?」


 「テレポ機能が開発されてからだから、2160年頃のインドでの開発がきっかけだったって歴史では習ったよ。最初は、1万G…うーん、今の日本でいえば1千万円で購入したけっこう高額な機能だったんだけど、それを南米の国が改造してさ、フリーダウンロード回線に乗せてからは誰でも使えるようになったんだ。」


 どこへでも移動ができる。確かにそうなれば、国境は意味をなさなくなる。


 「けどさ、それってやばくね?大統領のところへテレポして暗殺とか、銀行の金庫にテレポして盗みとか想像しちゃうんだけど…。」


 「流通初期にはそういうこともあったな。けど、テレポの発明のすぐ後に、シールドってのも発明されたよ。特定の場所にはテレポできないってやつだけどな。」


 「そっか、じゃ国ごとシールドしてしまえば、やっぱ国って意味あるんじゃね?」


 「シールドの有効範囲はせいぜい、数十mってとこだぜ。装置からの有効距離ってのがあってな。テレポの方は空間転送だから距離の概念はないけど、シールドは物理的装置だから、今で言う電波と同じで効果を維持できる距離ってのが機種によって決まってる。だから、国ごとなんてとてもじゃないが無理。それに、1台で数十万G…何億円もするものだから、そんじょそこらには出回らないわ。」


 「なるほど、守られるのは金持ちばかりって、今とそう変わらないのか…」


 「いや、俺にもシールドはあるぜ。個人レベルのシールドはむしろ、全員が持ってるさ。テレポに対するシールドとはちょっと意味が違うけどな。自分の身を守る、そういう意味のシールドがある。それから、財産ってのはよほどのことじゃなければ個人ではあまり意味のない時代なんだ。普通に生活していける…それには一Gもかからないからな。」


 「何だかよくわかんねーけど、いい時代なんだな。」


 「そうなんだろうな。今の時代からすれば。けど、江戸時代の人間からすれば、お前たちだって想像すらできないいい時代なんだと思うぜ。」


 「そういうもんか。」


 「そういうもんだ。」


 そんな昭二とサトルの話を聞きながら、洋はチャンスだと思った。自分たちが国のない時代、そういうもんを作るきっかけになれると。


 少林寺拳法を習い、どちらかというと短気で喧嘩っぱやかった洋にとって、与えられた…というより自ら立候補したポストはまさに天職と思えた。


 ニュースで領土問題が流れるたびに弱腰な日本の外交に辟易し、失望してはいたが、あまりにも無力だった当時に比べ、今は権力がある、そして望外な「力(技術)」がある。サトルの時代の技術は、さっそく軍事と国民のシールドに応用された。数世紀の技術力の差はあれ、この時代の技術先進国日本の技術者たちにとって、設計図さへあれば、そうした技術を備えた機器を作ることに問題はなかった。あるとすれば、せいぜいその精度の問題だが、ここでも下町工場をはじめとする職人たちの腕が精度の問題をカバーしてあまりあった。


 国民にシールド装置の配布を終えると同時に、国際連盟に出席した洋が満を持して発言したのが、この宣戦布告だったのだ。


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