国会議事堂にて
野党から何やら厳しい追及を受けながら、総理が飄々とした顔で答弁をしている、その真っ只中におもむろに会議場の扉が開いた。
扉が開いても、そこに注視する者はいない。三人は、ゆっくりと議長席を目指して歩いてゆく。何人かの議員がそれを見つけたが、何が起きているのかわからなかった。あまりにもありえない光景だったから。
少しずつ三人に気づく議員たちが増えるにつれて、会議場が騒がしくなってゆく。当然のように、三人に向けて怒号が飛ぶ。三人のうちの二人は、おっかなびっくりの様子だが、もう一人はあたかも街中の喧騒の中にいるかのように、当たり前のように歩をすすめ、やがて三人は議長席のすぐ隣にいた。
「何だ、きみ…」
議長が三人に向かって叫ぼうとした口が途中で止まる。
「やっぱりな。この時代じゃ、まだMFはないよなー。」
「何だ、そのMFって?」
「あー、マインド・フリーってな、俺の時代じゃ15歳までは身につけれないシステムのことさ。これがなきゃ、教師や師匠が生徒、弟子を教育するのに困るってんで開発された一種のマインドコントロールを無効にするやつさ。」
こともなげにサトルは言う。
ふむ、確かにこの議員先生たちの世代と違って、今はちょっとでも子供たちに手を出そうものなら、モンペアがすっとんでくる時代だもんな。教師にだけはなりたくねー…昭二も洋子もそう思った。
「さて、それじゃとっととやっちまおうかね。」
そういうと、サトルは議長を席から引き摺り下ろし、昭二を真ん中に立たせて会議場に目をやった。隅々まで見渡していく内に、スーッと会議場の空気が変わっていくのがわかる。
さきほどまで総理を厳しく糾弾していた野党党首の手があがる。サトルがジッと目をやっていた議員だ。
「議長!緊急動議!私は秋山昭二君を国王とし、日本を絶対君主制とすることを提案する。」
「異議なし!」
党派を問わず、声があがる。
「では、採決だ。秋山昭二を国王とすることに賛成の者は起立願う。」
議長にとってかわったサトルの声に、全ての議員が立ち上がる。満場一致。
かくして、絶対君主国・日本が成立した。
正確には、参議院の審議の後…ということになるのだろうが、同じことだ。
国会劇場を律儀に放送していたN○Kを観ていたのは、ごく僅かの国民。何が起きているのかわからないままに…この場に居合わせた議員意外の国民たちの知らぬ間の政変…いや革命劇。歴史を扱うならば無血革命の最たるものだろう。