第一話:そうだ、王様になろう
はぁ、やっぱ夢じゃなかったか…
「そう、昭二は現実をしっかり見つめなきゃな」
って、お前にだけは言われたくねぇよ!
「おK、じゃ、抜け出した病院を正直に言ってみようか?」
昭二の言葉を華麗にスルーして、サトルは昭二の手をとると、窓を飛び出した。飛び出したんだ、確かに俺たちは。ほんのマンションの7階の窓からだけどな。
「とりあえず、この街から案内しろよ。」
何事もなかったかのように、マンションの入り口でサトルがせかす。ん~、どんなスキルよ!ってか、リアでスキルを使うってあり?
「あー?そういや、テレポもなかったんだよな、この時代って」
うんうん、不便な時代だろ?俺のアプリの中じゃ、親指一本で簡単にテレポなんてできるんだけど…。いや、そういう問題じゃないんだけど。
促されるままに、とりあえず駅までの道を歩く。
コンビニ、洋服屋、イタ飯屋…目につくもの全てに過剰に反応しながら、サトルは昭二の後をついて行く。
「あのさ、目立つから後ろで飛ぶのやめてくんない?」
「あ、悪い悪い。歩くってトレーニング以外でやんないから、つい」
さすがに、もうサトルの言葉につっこみも飽きてきた。どんだけド○エもんの世界と心の片隅ではあきれながら。
駅では、電車の音にブルブルと震えながら、それでも好奇に目がキラキラ。
「うーん、なるほどね。やっぱリアルの歴史はすんばらしぃ!」
たわけた言葉もスルーし、駅前のコンビニで缶チューハイとつまみを買い、帰路に…サトルの手が昭二の肩に触れると、既に昭二の部屋だった。
はいはい、テレポね…ってか、出るとき、わざわざ窓から飛び出さなくてもよかったんじゃね?
「面白い。実に面白い。せっかくこの時代に来たんだ。俺、でかいことしてみたい。昭二、お前、総理やんね?」
総理ねー。大統領だろうが、総理だろうが、やってやろうじゃないの。とりあえず、こいつのことは幻ということで…。
「オッケーなんやな。けど、総理じゃ今の政治制度じゃたいしたこともできそうにないなー。うーん…」
うなっているサトルはほっておいて、TVをつけ、缶チューハイをあけて…「ピンポ~ン」
ベタな来訪者のピンポンに、玄関に向かう。
「やほ!ピザ作ってきたよー。レンジ借りるねー。」
有無を言わさず、洋子が部屋にあがりこむ。
「ライムないじゃん!気がきかないねー、昭二は。」
冷蔵庫から、梅サワーの缶を出しながら、リビングに向かう。
「あ、やだー!お客さんいるなら言ってよ!今晩は。」
「ばんわー。今日から居候させてもらってるサトルっす。よろしくー。」
「あ、昭二の幼馴染兼監視役の洋子ですぅ。ヨッコって呼んでね。」
んーと、部屋の主をほったらかして、何やら盛り上がる雰囲気なんですけどもー。
「サトルも梅サワーでいい?それともビールかな?確かバドがあったけど。」
「いや、俺は飲まないから」
「えー、下戸なのー?」
「そういうわけじゃないんだけどね、ま、気にせずやってよ。」
言われなくとも、洋子はすでに3本目…チーンとピザが温まる音にしぶしぶといった感じでキッチンへ。
「そうだ。王様!それがいい!昭二、王様だよ!」
「え?何なに?その面白そうなネタ?私、王女でいいかな?」
「いいんじゃね?ってか、昭二とヨッコってそういう関係なの?ちょっと悔しいぞ。」
いやいや、そういう関係というわけでは。むしろ、女王様と執事って関係が妥当かと。
「よし、じゃその線でいってみよー!」
かくして、俺は王様になった。女王様にはかなわないが、日本の国民をすべてしもべとして使える王様に…。
いつもの通勤ルートに使う電車を変え、国会議事堂前で3人は降りた。おりしも、通常国会の開会中で、消費税の値上げに与党・野党が激しい舌戦(馴れ合いとも言う)を繰り広げ、さほど関心のない国民とは対照的に自己主張をアピールする政治家たちが、そこにはいた。
当たり前のように、入り口で警備員に制止を受けたが、サトルが警備員を見つめただけで、すんなりと第一関門突破。衆議院会議場へと向かう中、さすがに昭二と洋子は躊躇を全身に漂わせていたが、意に介せずサトルはどんどんと先に進む。
入り口の警備員が10m以上先からすっとんできたが、サトルに向き合ったとたん、そのまま3人を通りすぎて直進していった。そして、会議場の扉が荒々しく開いた。