プロローグ
「ん〜、ん?」
んーと、今日は朝から七夕イベント用のプログラムのデバッグして、昼からミーティング…
「…って誰!?」
昭二のベッドの横で見知らぬ男がスヤスヤと…。
「ん〜?」
昭二の叫びに近い声に目覚めた男が、しばし眠気まなこをこすり、こめかみの当たりをポチッと人差し指で押さえ「まだ、7時じゃん!」と再び、布団に…
「え?え?誰?何?」
布団に潜り込む直前、今度ははっきりと覚めた顔で叫び返した。
「お前こそ誰だよ?ここ、俺んちだぜ!ってか、鍵してたのにどっから入りこんだんだ?」
かくして、昭二とサトルの波乱万丈が始まった。
サトル、23歳。2714年からの旅人?眠りから覚めたら昭二のベッドにいた。確か昨夜は、遺跡から掘り起こした香を炊き、少しばかりの「ニホンシュ」なるものを口に含んで、そのまま意識を失った…。
その説明に、昭二は苦笑いの表情。
「で、どこの病院から抜け出したん?付き添ってやっから準備しよっか?」
「ちょ、何だよそれ!」
いやいや、明らかに頭おかしいですから。面倒見の悪い俺でも、ここは放置プレーできんっしょ。
そういいながら、とりあえずいつも通りにコーヒーを入れ、トーストを焼く。朝からやっかい事に巻き込まれ少々気分は下向き。いつもの朝のワイドショーでの運勢は「乙女座のあなたは、午後から上向きよ(ハート)」。
まぁ、これだけどん底気味の朝なんだから、これ以上下がりようはないか。
「コーヒーは勝手にやってくれ。ミルクはねぇぞ。トースト、喰うか?…て、何やってんだよ。」
興味深げにパソコンの画面に見入っているサトルに思わず駆け寄った。年頃…というには少々老けているが、観られて困るH動画は、それなりに…。
幸い、サトルが観ていた画面はごくありふれたニュースサイトの画面だった。
「おー!これ、第一次日中経済戦争のきっかけとなった事件じゃん!あ、福島ニュータウンの始まりになった事故ってこの時代だったんだー!わー、AKBの○っちゃんってこんなだったのかぁ!」
「あのー、目をキラキラさせてお取り込み中申し訳ないんだが、俺、そろそろ出勤やから」
「ほーい、いてらー」
「うん、いってくる…て、ちゃうやろ!お前も出て行くの!」
「何で?」
「何でじゃなくて…、ここはお・れ・の・へ・や!」
「硬いこと言うな、留守番は任せとけ!」
かみあってないorz。やっぱ、どっかの病院から…
「だから、変な人じゃないってるだろーが!」
「いやいや、十分不審なんですけど…って、俺、何も言ってねぇぞ!」
「言ってねぇって、今、頭の中で呟いたろ?」
うーん、この種の人って普通の能力が欠如してる分、特殊な才能があるとかって何かの番組で観たことある。テレパシーってやつですか?
「テレパシーじゃなくて、ブレイントークね。あ、この時代にはまだないのか?」
非常にやりにくいんですが。涙目の俺。だが、時間はそんな俺たちの会話に関わらず流れ、家を出なければ電車を逃す時間になった。
しぶるサトルをひっぱるように部屋の外に出し、鍵を…って、いつの間にか部屋の中でパソコンの前に座ってるし。
ま、仕事から帰ってからでもいっか。
「そうそう、諦めが肝心って格言もあるじゃん。」
あれって格言だったか?
かくして、サトルを残し、出勤の途についた俺だった。