不倫の恋の終り方
不快と感じられる方はどうぞ回れ右でお願い致します。
返事がない日はとても寂しい。
きっと今頃は私以外の人と楽しく過ごしているんでしょうね。
そんな思いを抱え始めて早5年。
この関係に区切りをつけたいのにいつかは私の元へと思う小さな希望を手放す事が出来ないでいる。
そんな事をしていて私はもう30になってしまったと言うのに・・・。
「お誕生日おめでとー!!佳代もいよいよ三十路ね!!」
一足先に30になった親友の京子が私の誕生日を祝ってくれる。
「ありがと!はぁ・・。20代なんてあっという間だったわ。30代になったからって何が変わるってこともないんだろうけど、なんだか複雑」
苦笑気味にはははと笑うと京子も同じように笑う。
「ホントそうよね。いつの間にか20代は終わって、私なんていつの間にか2人の子供までいるんだから!おばさんになるわけよね~」
肘をつきながらワインを一口飲み干す京子はとても子持ちには見えない美貌を保っていた。
「子供は旦那さんに預けてきたの?大丈夫?家あけても」
私の為にわざわざ出てきてくれたのならばなんだか申し訳ない。
「あら、大丈夫よ。たまにはこうして私も子育てから解放されないとストレス溜まってそのうち家出しちゃうわ。旦那なんて週一くらいで飲んでるんだから」
ぷりぷり怒りながらそう言っているが、彼女がいつも旦那の心配をしている事は知っている。
仕事が忙しい旦那さんに可愛い子供たち。
そんな家庭を持っている彼女をうらやましく思う。
「・・・・で?佳代はまだあんな男と付き合ってるの?もう30よ?いい加減にケリつけたら?」
先程までの表情から一変して彼女は真面目に私に話しかける。
「うん・・・。いつもそう思うんだけどね。・・・でも、家庭は上手くいっていないって言うし、私がいなきゃ彼はダメだっていうし・・・」
「でも、もう結婚なんかしないって言っているんでしょ!?離婚すらしていない癖に図々しいのよ!そんな男の為に時間を無駄にしないでもっといい男探しなさい!!」
彼女の言葉に私は苦笑するしかなかった。
そんな事は十分わかっている。
でも、彼は私がいないとダメだという。なら、離婚したら私の所にくる可能性だってないわけじゃない。
はっきりさせたい。その気持ちはあるのに、私は一つの答えをくれる事を待っているのだ。
『妻と離婚した。結婚しよう』
その言葉を言ってくれる事を願って。
「・・・・ん・・・・頭痛っ・・・・・・」
ふと、目を覚ますと外が明るい事がわかる。
昨日飲みすぎたかな・・・。
調子に乗って京子と3件もハシゴしてしまった。
親友だから私の事を想って言ってくれている言葉。でも、そんな事聞きたくなくてお酒を飲んだ。
「起きた?」
頭ががんがんする中、一人暮らしのはずの自分の家から知らない声が聞こえた。
「!!?」
勢いよく起き上がると痛い頭を更に打ちつけた様な痛みに襲われる。
「いった・・・・・」
「あぁ、二日酔いの時にそんなに勢いつけて起きたらダメだよ」
聞き間違えではないらしい。
がんがんする頭に叱咤し、周りを見渡すと見たこともない男が傍に立っていた。
「・・・・アナタ・・・・誰?」
立っている男に向かって言葉を投げつけたあと、自分の衣服を急いで確認する。
「はは、大丈夫だよ。何もしてない。酔った君をここまで送り届けたら、帰るなって泣き喚くから君が起きるのを待ってたんだよ。鍵も君が握ってたしね。開けたまま帰れなかった」
男の言葉に、先程からなぜか握られていた鍵を傍にあった台の上に乗せた。
「・・・・・本当に?」
「疑われてもしょうがないけど、本当さ。君自身がよくわかってるだろう?」
確かに、酔って覚えていないとはいえ、何かをされた形跡はない。
記憶のない自分よりもなぜかこの男の行っている事の方が正しい気がして、思わず深いため息が零れた。
「っはぁ~・・・・。ごめんなさい。見ず知らずの人とは言え、ここまでして下さった人に失礼な態度を取ってしまって・・・」
自分の行いをつくづく反省しなければいけない。
まさか、この年になって酔っぱらって男を持ち帰りするとは夢にも思わなかった。
「いや、構わないよ。むしろ、あれだけ酔ってた女性をほってはおけないからね」
なんと、紳士的な人なんだろう。
というか、自分なんてダメな女なんだ。
思わず、がっくりしてしまう。
「あ、そ、それで失礼ですけど、お名前をお伺いしても・・・・?」
「うん、昨日も名乗ったんだけどね。各務 隼人です。はい、これ名刺ね。そして、君の新しい彼氏だよ」
「あ、ご丁寧にどうも・・・・・って、は!?」
名刺を受取りながら最後の言葉に目を丸くする。
「あはは、やっぱりそれも覚えてないんだね。不倫の恋から逃れたいから新しい恋をするんだ!!って君は俺の襟首をもって熱弁してたんだよ」
え、襟首もって・・・・!?
顔から火が出そうなくらい恥ずかしい失態だ。
いや、まて、それにしてもだ!なぜ、彼氏と言う事に!?って、なんで不倫してるって!!
「自分で言ったんだよ。友達が帰るって言ったのにもう少し飲んで帰るって君が一人残った所、俺が君の相手をしてたら、突然泣き出して、そして今の恋にきっぱりけじめつけるんだって。それには新しい恋が必要だって」
「そ、それで・・・・」
「うん、それで、俺が新しい彼氏になってあげようかって言ったら、今の彼氏よりも幸せにしてくれなきゃだめだ!って」
「はぁぁ・・。ほんとごめんなさい・・・」
「ん?なんで?そんな事当たり前だよ。前の彼氏よりも幸せにするのは新しい彼氏の役目だからね!もちろん幸せにしてあげるよって言ったら、それなら彼氏にしてあげる!ってOK貰ったんだよ」
男・・・もとい各務 隼人はそう言ってにこにこと笑っていた。
「あ~・・・各務さん?」
「隼人でいいよ」
あいたたた。なんて可愛い顔して笑うんだろう。でも、私は彼みたいに優しく笑う顔が好きだ。
「・・・各務さん。酔って貴方に絡んだ事は本当に申し訳ないと思ってます。でも、酔っ払いのたわごとだからそんな本気に取らないで下さい。このお詫びは改めて致しますので・・・」
頭をさげようとして各務さんに止められた。
「お詫びなんていらないよ。ずっと気になってた君をやっと俺の手で幸せにしてあげられる権利を得たんだから。さぁ、ゆっくり休んで、俺はずっと君の傍にいるよ。ここが俺の帰る場所になるんだからね」
彼はさっきまでの紳士的な笑顔を収めるとにやりと笑って私をベットへ押し返した。
そして、ポンポンと頭をなでるように叩くと、私はなぜか涙があふれて止まらなかった。
「・・・ずっと、辛い想いしてたんだね。そんな男の事は忘れて今に俺の事でいっぱいにしてあげるね。後悔なんてさせないよ」
私は、そのまま彼になでられながら深い眠りについた。
目が覚めて、各務と言う人物が夢の中の人物じゃなかった事を確認させられた。
「おはよう。って、もう夜だけど。調子はどう?うん、いいみたいだね。じゃぁ、ずっと我慢してたんだ。心は時間がかかるかもしれないけど、体の方は先に俺の恋人にしちゃうね」
にっこり紳士的な笑いを浮かべた彼の行動はまったくの正反対だったが、なぜか心が満たされていく想いだった。
そして、隼人は根気よく私に愛をささやき私は不倫の恋を終えられた。
「・・・・隼人って・・・・23だったの・・・・」
「うん、そうだよ。佳代が年上の紳士的な男性が好きだって知ってたから、それらしく振舞ってたけど、もういいよね?え?なんでそんな事知ってるかって?うーん・・・。俺、ずっと見てたって言ったじゃん?20歳位の頃から、佳代が元彼とよく飲みに来てたバーで働いてたんだ。それで、彼氏といるときはすっごい幸せそうに笑ってるのにいつも彼氏の電話やメールを気にしてて、彼氏が帰った後はいつも泣きそうな顔してたの。彼氏も佳代も気づいてなかったみたいだけど。でも、俺はそれが気になって、なんであんな悲しそうなんだろうって。おれだったらあんな顔させないのにってね。そう思った時からきっと俺は佳代の事が好きだったんだろうな。で、俺は自分の店を持つようになって、店を辞めた。もちろん、佳代に会えない事は嫌だったけど、まずは夢をかなえてしっかりした男になろうと思ったんだ。それで、店も軌道に乗り始めたころに店に佳代が来た。あの時は本当にびっくりしたよー。で、なんか佳代が荒れてたからどうしたのかと思ったら熱く不倫の恋を終わらせたいけど終わらせられないって言うじゃん?これはチャンスと思って浸けこんじゃった。てへ」
思わず力が抜けたのは仕方ない事だと思う。
まさか、こんなに自分の事を想ってくれていたなんて知らなかった。
あの頃は、元彼にしか興味がなかったから、周りに目をむけるなんてありえなかった。
だけど、すぐ近くにこんなにも思ってくれる人がいたなんて・・・・。
「・・・隼人が私を見つけてくれてよかった」
にっこりとそう言うと隼人は私をぎゅーっと抱きしめてくれた。
自分だけを愛してくれる彼を見つけられて良かった。
今までで一番最高の誕生日プレゼントだ。
その時はそう思ってた。
だけど、彼は次の誕生日に私が今まで欲しくて欲しくてしょうがなかったものをくれた。
「佳代、俺と結婚しよう!!」
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