へっぽこ勇者と転校生
すみません。
最近バイトが忙しく疲れてしまい全く更新してませんでした。
今まで見にきて下さった方々、今回見に来て下さった方々。
申し訳ありません。
新学期が始まりバイト漬けからも解放されリアルの生活には余裕ができますので、これからは毎週欠かさず更新していきます。
今後とも宜しくお願いします。
BYアゴヒゲ
夏休みが終わり始業式の後のホームルームで、俺は信じられない事を耳にした。
「えー、皆に知らせておく事がある」
そう切り出し話し始めた俺たちのクラス担任である杉下先生は、いつにも無く歯切れが悪い。
いつもと違う杉下先生の様子に気付いた生徒たちが、何事かと話し始める。
杉下先生は騒がしくなる前に鎮めると、頭をかいて一息ついてから驚くべき事を口にした。
「夏期休暇前から行方不明になっている篠崎に関しての事なんだが。あー実は、先日ご両親の方から休学届が出された」
先生の言葉を聞き、教室内が先ほどとは比べ物にならない喧騒に包まれる。
俺は驚きのあまり思考が止まり固まっていて、そんな俺を斎達が心配そうに見ていた。
それから何とか時間をかけて皆を落ち着かせると、杉下先生が続きを話し始める。
先生の話を纏めれば。
行方不明という状況が状況であるから学校側としても何かしろの対処を起こそうをした所、父さん達を名乗る人物から学校側に連絡があり莉奈を休学させる旨を伝えてきたらしい。
又、休学と言っても莉奈の学力は入学後に行われた学力試験でも上位だったから問題ないという事で、復学したのち本人の意思さえあれば進級する事は可能だと言うことだった。
先生の説明を聞いたクラスメイト達はある程度納得した様子を見せるが、俺は落ち着く事など、微塵も出来なかった。
(また俺の知らない所で莉奈に対する事が動いている)
父さん達とは莉奈の失踪について関わるなと言われ出て行ってから、一度も会っていない。
電話やメールもしたが繋がる事は無く、返信も返ってはこなかった。
(父さん達は莉奈の失踪について何か掴んでいるのか?)
これだけのアクションを取ってきたと言う事は、そう考えてもいいと思う。
しかも、その内容が休学だ。
そこから莉奈に関する出来事が、いまだ長引くと考えられているとも取る事が出来る。
「……一体何が起こっているんだ?」
いくら考えてもヒントにもたどり着いてない俺が答えが見えるはずも無く、心の中には不安にも似た黒い靄が漂うだけであった。
そんな事があってから二週間が過ぎた。
あの後俺は父さん達に事情を聴く為に再び何度も連絡を取ったが、今までと同じく一度も繋がる事は無かった。
もちろん杉下先生の方にも聞きに行ったのだが、あくまで上と両親との間で決められた事であり、杉下先生にも詳しい事は知らないらしい。
その時杉下先生は、俺に何も教えてあげる事が出来ない事をひたすら謝ってくれた。
俺はいつか真相が解る事を信じ、そして何かがあった時に対応出来る様、今まで通り学校以外は鍛錬に明け暮れている事にした。
この力が莉奈を連れ戻す為の、重要なモノと信じ。
そして今、教室でいつもの様にいつものメンバーで俺の席の周囲に集まり話していると浩二が変な話を振って来た。
「そう言えば、あの噂が本当なら今日じゃないか?」
「……噂?」
俺は浩二の言っている事が、何を指す事か解らず疑問の声を発する。
そんな俺を周りにいる斎と天音、浩二が、又かと言いたげな表情を浮かべて見ていた。
「なんだよ。知らないとおかしいのかよ?」
「結構前から広まっている噂で、多分今では生徒全員が知っていてもおかしくないぐらいよ」
「もしかしたら、知らないのは東哉君ぐらいじゃないのかな?」
斎、天音の言葉に俺は何も言えなくなる。
俺は少し不機嫌になりながらも話題を振った浩二へと聞く。
「それで、噂ってどんなのだよ?」
「まあまあ、そんな不貞腐れんなよ。噂ってのは転校生の事なんだ」
「転校生? この時期にか?」
一年の夏も終わりに近づいている二学期からの編入。
確かにこの『高見原学園』は勉学やスポーツ、その他何かに一つでも秀でた者を積極的に受け入れている。
それにより部活動は体育系・文化系問わず盛んであり、実績等も優秀だ。
だからその転校生が何かに秀でている人物であれば不思議ではないのだが、何故二学期が始まってから二週間以上も過ぎた頃なのだろうか。
「さぁ? 手続きとかに手間取ったりしたんじゃないの。あくまで噂だからそこまで詳しくは解らないわよ」
「一応色々そういう事についても憶測が飛んでいるが、信憑性は全然ないな」
斎、浩二と俺の疑問に対して答えてくれるが、曖昧なものだった。
結局の所噂は噂でしかないという事だろう。
そうして話が一段落したところで本鈴が鳴り、少ししてから杉下先生が教室へ入ってきた。
遅いと先生に注意されるので、何か言われる前に皆それぞれの席へ戻って行く。
教室に入ってきた先生はいつもの様に教卓の前まで来ると、出席簿を教卓の上に置き話し始めた。
「あー、今日はホームルームの前に皆にお知らせがある」
先生のいつもとは違う様子にクラスの皆は反応した。
いつもならば杉下先生は必要最低限の事を話して素早くホームルームを終わらせるのだが、今日はその前に何かあると言う。
それにより皆の中で半信半疑であった転校生についての噂が現実味を帯びたのだ。
しかしそんな皆の浮かれている様子とは裏腹に、先生は困惑ともとれる複雑そうな表情を浮かべている。
「その様子からして転校生の事は知っている様だな。とりあえず一言言っておく。あー……皆、あまり驚くなよ?」
先生の言っている意味が解らず教室にいる生徒全員が疑問符を浮かべる中、特に興味もない俺は朝の特訓の疲れもあって机の上に顔から突っ伏した。
他の皆は近くの席の奴と話し始めたり、先生に真意を問うような眼差しを向け足りしている。
「……それでは、入ってきなさい」
生徒達の疑問の眼差しに答えることなく、教室の外にいる転校生へと先生が入室を許可する。
教室の前のドアがスライドされる音が聞こえ、続いて先生の言っている転校生が教室へ入って来た。
しかし、教室にいる誰もが声を発することもなく、誰も反応を見せない教室はただ静寂に包まれる。
あまりの不可解さに何事かと思った俺は、机に突っ伏させていた顔を上げてその人物を見た瞬間理解した。
何故クラスの皆が反応しないのか。
いや、反応しないのではない……出来なかったのだ。
クラスメイト同様時間が止まったかの様に思考 俺は僅かに開いている口元から零れる様に゛ある名゛を発する。
「……莉、奈?」
俺の弱々しい呟き声が物音一つしていない教室で静かに響き渡った。