決意する猪娘
二日ほど遅れました、申し訳ありません。
手前勝手な言い訳になりますが、第二部になって少々設定が細かくなり複雑化してきて執筆が進みません。
週一更新を目指していますが、リアルで忙しいのもあいまってしばらく遅れるかもしれません。
それでは本編の方をどうぞ~!!
隊長室から会議室に着くと、そこにはすでに多くの人たちが来ていた。
白人や黒人、男女子供等、人種・年齢・性別関係なく集まっており、統一性は一切見受けられない。
しかしやはりと言って良いほど、日本人が多い…ように見える。
迷子のようにキョロキョロと私は辺りを見渡しているうちに、その中に見知った顔を見つけた。
「フレイヤさん、こんにちは」
「あっ、莉奈ちゃん。もう来てたのね」
「はい、あの私はどこら辺に座ればいいんでしょう?」
「一番前の席だけはそれぞれの部隊の分隊長専用だから、そこ以外ならどこでもいいわよ。それじゃ、私行かないといけないから、また後でね」
「わかりました。ありがとうございます」
この場を離れていくフレイヤさんに礼を言い、私は近くの椅子に座って話が始まるのを待った。
それから十数分経ち、連絡が来てから30分になろうとしている頃。
突然周囲の人たちが立ち上がり、私も慌てて立ち上がった。
見ると会議室のドアが開き、入り口の所に風文さんが立っていた。
それから風文さんは、部屋の一番前にある壇の前まで移動し一通り会議場を見渡すと一拍おいて口を開いた。
「皆揃ったな。それでは、これから次回の作戦についてのブリーフィングを行う」
サッと風文さんが手で座るように合図すると一糸乱れず一斉に座る音のみが聞こえた。
何か場違いな所に来た気がしながら私も腰掛ける。
「私の持っているルートから入手した情報だが、擬似的に能力者を作るための研究がおこなわれている施設がある場所が判明した」
風文さんの言葉を聞き、会議室に流れる空気が一気に重くなる。
まるで本当に空気に重さが付いた様に感じる程の変化に、私は戸惑った。
しかし、風文さんはそんな変化など気にすることなく、話を続ける。
「今回の作戦の主な内容は制圧ではない。相手側がどのように対応し、どれだけの規模の兵力等が在るのかを調べる為の威力偵察だ。この作戦は第三隊を主体として、第四隊、第五隊にも動いてもらう」
風文さんの話している『第~隊』とは、作戦を行う上でそれぞれ役割を持った部隊の事だ。
全部で第五隊まであり、作戦に応じて出動する隊が選出される…らしい。
以前、紫門さんから教えてもらった事。
「次に施設の場所についてだが何かしろの問題が起こったらしく、ほとんどの施設に繋がる場所が既に潰されていた。しかし、まだ残っている通路があった…フレイヤ」
風文さんの呼び掛けに壁際のフレイヤさんは、手元のコンソールを動かし操作する。
映し出された地図は高見原のもので、地図上には複数個の×印が書かれてあり、その中にいくつか丸印があった。
その丸印の一つには、場所名としてこう書かれてある。
『市営地下鉄:高見原駅』
「地下鉄の線路を封鎖する訳にはいかないから、ここだけは残されたままだ。しかし、『儀式』が施されていて出入り口が認識できないようにされている」
風文さんの言った『儀式』については、二か月ぐらい前に七凪さんから教えてもらっている。
『儀式』について大まかにまとめると、『発生させる条件、それにより起こる現状は解っているが、その間に起こる過程・原理が解らないもの』らしい。
らしい、というのは詳しく説明してもらったものの確率学や気象学、精霊信仰における空間内粒子理論など聞きなれない言葉が乱立して、細かいところなどは全然理解出来なかったから。
「この『儀式』の対応については我々が担当する。我々第三隊が広範囲で能力者狩り通称『ハウンド』や『犬飼警備』の連中と一戦交え『儀式』の効果を一時的に中和する。その間に第四隊に潜入してもらう。有り体に言えば威力偵察と囮を同時にやる。以上だ、各分隊は行動予定と予想を各々で行い作戦案を複数提出。期限は明日だ、質問は?」
その後色々な質問が飛び交うのを私はただ眺めるしかなかった。
それもしょうがない事だと思う、私にとって解らない言葉が多すぎる。
七凪さんに色々教えてもらってはいるが、やっぱり難しい。
そんな事を考えているうちに、どうやら質問が終わったらしいのか場が静まり返っている。
それを確認した風文さんは一つ頷くと言葉を続けた。
「最後に今回の作戦では、篠崎を第五隊に出向させることになる。それについての説明があるので、篠崎はこの後隊長室まで来るように」
風文さんの言葉に参加していた皆は驚き、会議室の空気がさっきまでの重苦しい物から一変した。
しかし、風文さんは気にする様子を見せず、話を続ける。
「これでブリーフィングを終了する。ああ、それと我々にとって、こんな戦いは怪我するのも馬鹿らしい…死ぬなよ?」
いつもどおりの人を食ったような笑顔で言い切り、風文さんはフレイヤさんを伴なって会議室を後にした。
でもあの人らしい、何となくそう思った。
ブリーフィングが終わり、頭に上った熱を冷ます為、少し時間をおいてから私は隊長室を訪れた。
ドアをノックし、ドアの向こうにいる人物へ要件を伝える。
「篠崎です。入室してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、入ってくれ」
風文さんの許可が下りるのを聞いて、私は部屋の中へと入る。
部屋の中には風文さんがいつもどおり椅子にすわり、フレイヤさんがその傍に立っていた。
今さっきまであんなに散らかっていた机が綺麗になっていると見当違いのことを考えながら、一礼をして入る。
私はそのまま風文さんの前まで移動し、椅子に座っている風文さんを見下ろした。
「風文さん、一体どういうことなんですか?」
「どう、とは君を今度の作戦に参加させることについてか?」
風文さんの問いに、私は真っ直ぐと風文さんを見据え、頷く事で答える。
そんな私を一瞥し、瞼を閉じると話始めた。
「今回の作戦では皆にも伝えた情報収集の他に、もう一つの目的として君をテストする意味もある」
「テスト…ですか?」
急な話の流れに私は疑問符を浮かべ、風文さんにそのまま聞き返した。
「君はここに来てからの四ヶ月間でそれなりには力をつけてきた。紫門からも聞いている『もうそろそろ使える』とな。だが、それだけでは足りない」
そこで風文さんは閉じていた瞼を開け、私の事を見る。
私を見つめる瞳には何とも言えない迫力があり、その圧力に私は思わず身を竦ませた。
「君は覚悟を決めなければならない。自らの望みを叶えるために、自ら動くかそれとも守られるだけかだ」
怯んだ私に追い討ちをかけるように言う風文さんの言葉に、私は自分の耳を疑った。
しかし風文さんは淡々と話続ける。
「もし、この作戦で君が助けを求めたり助けなければならないような状況に陥るようであれば、今後君は籠の中の鳥の様に守られるだけの存在となるしかないだろう」
風文さんの言い回しの意味が解らず私は首を傾げる。
しかし次の風文さんの言葉を聞いた瞬間、私の思考は凍りついた。
「つまりそれは、君の望む未来を永遠に手放す事にもなる」
望む、未来、永遠、手放す?
しばらくして再び動き出した私の思考の中で、風文さんから言われた言葉が頭の中でガンガンと鳴り響く。
…何か気持ちが悪い。
「これは、避けては通れない事だ。作戦開始まではまだ時間はあるから、その間に決意を固めておくことだ…」
そこまで話、風文さんは私に退室するよう告げた。
まだ頭の中が整理できず茫然としていた私は、ただ風文さんの言葉に従い部屋を後にする。
「覚悟だけはしておけ」
風文さんの言葉が私の背中を押すように。
それから三日後の作戦決行の日。
今も私は、風文さんに言われた覚悟は出来ていない。
覚悟とは自分のために他人を、立ち塞がる者を切り捨てる覚悟なんだろう。
私の境遇について少しでも考えていれば、いつかは気づくような事だった。
私が能力者であればあるほど、周りはそれだけで恐れや興味、欲望を抱いてしまうのだ。
しかし、私はそんな自分に関する現実から立ち向かっている様にしていて、心のどこかでは目を背けていたのだろう。
確かに、人を傷つける事に迷いはある。
だけど…。
「私には、戻りたい場所があるから」
だからこそ、引けない。
「各員に通達、状況を開始」
耳元にある通信機から流れたフレイアさんの号令とともに
怯えている感情に蓋をして、私は進む。