へっぽこ勇者模索中
いつも通り水曜更新で行こうかと思っていたのですが、校正に少々手間取り遅れました。
授業の終わりを告げるチャイムと腹が鳴り、昼休みを迎える。
朝の鍛錬の疲れで授業中爆睡していた俺は頭が冴えず、呆けていると浩二たちが集まってきた。
「どうした東哉? 成績は微妙だがノートだけはまともに取ってたのに、最近はよく撃沈してるな」
「黙れ。ノートすら取らない無惨な成績の、お前にだけは言われたくない」
俺は浩二へ言い返すが、疲れているからかあまり言葉に力が入らない。
それを感じとったのか浩二も、それ以上何も言わなかった。
そんな俺を見て、天音が心配そうに声をかけてくる。
「本当に大丈夫〜? また無理とかしてたりしてない?」
「あぁ、大丈夫。ちょっと眠かっただけだから」
天音へ返事をすると、安心したように表情を緩めてくれた。
あー癒される。
それから机を寄せて、いつものようにみんなで昼食を食べ、何気ない事を話しゆったりとした時間が過ぎていく。
しばらくして食べ終えた俺たちは解散するが、俺は斎に近寄り声をかける。
「斎、頼みたい事があるんだ。少しいいか?」
斎が頷くのを確認し、俺たちは教室を出た。
「これの事なんだが、確か斎パソコン使えたよな。俺、機械系弱くって」
「いいわよ……それなら、情報処理室に行きましょうか」
斎に促されて俺たちは情報処理室へと向かう。
昼の賑やかな喧騒をくぐり抜け特別棟にある情報処理室の方まで来れば、教室から離れているからほとんど聞こえなくなった。
そんな静かな空気の中歩いていると、斎が話しかけてきた。
「ねぇ、東哉。最近怪我している事が多いわよね、どうしたの?」
「えっ?」
急に聞かれ、俺はすぐに反応出来なかった。
確かに俺は最近頻繁になった誠一との鍛錬で、いくつも傷を負ったりしている。
しかし、この怪我の事を話すという事は、能力者の事を話すことにもなる。
それは彼女を危険に巻き込む事に等しい。
一般人である斎に、今俺がいる能力者の世界の事を伝える。
出来るはずがない。
俺はどうやってこの話題を逸らせるか頭を悩ませた。
「えっと、その……だな」
「……わかったわ、聞かないであげる」
困っている俺の反応を見てからか、斎は一つ溜め息をつく。
そして、次に俺に対しそっぽを向きながら言葉の続きを呟いた。
「でも、本当に困った事があったら少しは言いなさいよ…家が薬屋やってるのは知ってるでしょ? 傷薬ぐらいだったらタダであげるからさ」
その反応と最後の言葉が斎らしくて、俺は思わず笑ってしまう。
彼女は違う方向を向いてるため表情はわからなかったが、耳を真っ赤に染めていた。
俺はそんな斎の気遣いがうれしくて感謝の気持ちを伝える。
「あぁ、その時は頼む。ありがとな」
そうこう話しているうちに俺たちは情報処理室に着く。
ドアを開け颯爽と先に行く斎の後を追って、俺も部屋の中に入る。
情報処理室の中には他に誰もおらず、内容が内容だけに好都合だった。
斎は近くのパソコンを使ってディスクを読み込ませ、キーボードを操作していたが急に溜め息を着く。
手慣れた動きでパソコンからディスクを取り出し返して来た。
「何故だかわからないけど、外部に接続されている物では使えないようにプロテクトされてるわ」
「えっと、じゃあ外部に接続されてないパソコンを使えば見れるのか?」
「多分、駄目。おそらくロックがかかっていて、パスワードが分からないから見れないと思う…一応ヒントみたいなものはあるけど」
「何を書かれてあるんだ?」
斎の指差した所を見てみると、画面の中にメモ帳が開いてあり、そこにはこんな事が書かれてあった。
『結局私はどうする事も出来なかった。だから君に希望になる全てを託す。君が…』
文章はここで途切れていて、それであの時五條さんが急いで書いたものだと分かった。
あの日五條さんがパソコンに向かって、必死に何かを打ち込んでいたのを思い出す。
きっと、あの時だ。
しかし困った。
このままでは中身を見る事が出来ない、どうすればいいだろう。
そう考えていると、一人の顔が俺の脳裏に浮かぶ。
「そうだ、もしかして七瀬ならそういう専門的な伝手があるんじゃないか?」
俺の思いつきに斎は少し悩んだが同意し、放課後七瀬の所へ行く事になった。
終業のチャイムが鳴りホームルームが終わると、俺と斎はすぐに教室を出た。
天音と浩二にはすでに用事があるからと伝えている。
四人で行ってもよかったが、天音は機械類に強そうではないし浩二は連れてきたら面倒な事になるかもしれないと思い、二人だけで行くことにした。
俺たちの通っている『私立高見原学園』は階ごとに学年が固まっていって、同じ学年の俺たちはすぐに七瀬の教室の前に着いた。
教室の扉を開けると中にはまだ多くの生徒がいて、何事かと視線を向かられたが俺たちは構わず七瀬の机へと向かう。
教室に入った時見た七瀬は今ちょうど起きたのか、寝ぼけたまま椅子に座っていた。
しかし近づいてくる俺たちに気付くと、七瀬は瞼の上がりきっていない目を俺たちへ向ける。
「ふぁ〜…船津に香住屋か。どうした? 俺に何か用か」
「あぁ、教えてもらいたい事があるんだ。七瀬の知り合いでパソコン関係で強い奴はいないか? こうなんかハッカーとか言うやつ?」
あくびを噛み殺しながら聞いてくる七瀬に、俺は単刀直入に言う。
何故そんな事を聞くのか? そんな目で七瀬は俺を見てきたが、しばらくしない内に七瀬は瞼を閉じ息を吐いた。
「まあいい、そうだな…文化部棟四階の『ゲーム同好会』ってところに行ってみな。知人がいるから話は通しとく」
七瀬の口から出てきた言葉を聞いて、俺と斎はフリーズした。
一体何故そんなのがあるのか?
そんな俺の疑問は思いっきり表情に出ていたのだろう。
俺と斎を見て七瀬はおかしそうに吹き出し、ひとしきり笑い終えると話し始めた
「まぁ、騙されたと思って行ってみろよ。腕の方は保障する、大丈夫だ」
「…そう言うなら行ってみる。七瀬、ありがとう」
正直、半信半疑ではあるが教えてもらった身である。
俺が七瀬に礼を言うと、七瀬は微笑を浮かべ手をヒラヒラと左右に振った。
「気にすんな。前にも言ったが、お前に関わっていると面白そうだからな。誠一も言ってただろう? お互いにやるぞってさ…まあ、そう言うこった。がんばれよ」
楽しそうに言う七瀬に俺は苦笑を返し、斎と共に教室を後にする。
うちの高校は文化系の部活動が盛んで、そのため文化部専用の棟が存在する。
俺たちは七瀬に言われた通り、文化部棟四階のさらに一番端にある部屋の前に来ていた。
その部屋のドアの前には紙が張ってあり
『ゲーム同好会』
と書いてあった。
「本当にあったよ…」
俺と斎は言葉が出てこなかった。
いくら文化系の部活が盛んだとはいえ、もし同好会の内容が名の通りならば学校から容認されるとは思えない。
ならばもしかしたら名前だけかも、とかすかな望みに託し、俺はノックする。
すると、部屋の中から片言気味の声が聞こえてきた。
「少し、おまちクダサイ」
しばらくしないうちに中の方から扉が開き、そこには何の冗談かと思うほど制服が筋肉でパンパンに腫れ上がった、筋骨隆々の金髪の男子がいた。
「ウン? ケージの紹介カナ? ヘイ、カールお客さまだヨ」
「来たのかいポール!」
俺たちを見た筋骨隆々の男は部屋の中の方を向き、嬉しそうに誰かを呼ぶ。
その声に誘われやって来たのは、同じ金髪だがポッチャリとした男子だった。
「さぁさぁ、そんなトコロに立っていないで入りなヨ」
俺たちはあまりの人物と展開と濃さに呆然としながら、二人に引かれて部屋の中に入った。
「ソレじゃ、自己紹介からダ。ヘイ、ポール!! ゲッレディ!?」
「いつでもオーライッ!!オレのボルテージはいつでもマクシマム!!!!!」
もう何処に突っ込めば良いか解らない。
横を見れば斎が煤けていた。
こんなモノ見たら仕方がない。
そう言う俺も、もう何て言うか濃い…五條さんゴメン、くじけそうだ。
「ムフー我等がフレンドのケージから話は聞いていルーヨ。ワタシはポール。最近のフェイバリットは自分のからだをいじめるコトさ」
「ドMかっ!」
「エッ? 何!? ドウイウ事?」
「あーマゾヒストかって事だ、誰だ間違った事を教えた奴は!!」
「えっカールが言ってたヨ」
「お前が犯人かー!!」
俺はあまりの内容に思わず突っ込んでいた。
しかし、そんな俺の言葉なぞどこ吹く風。
構わずカールは勝手に話始めた。
「ワタシの名はカール・フォン・バンブルグと言いマス、ヨロシク〜。エロゲーをこよなくアイする……いや、2次元そのモノさ!」
「言い切った! こいつ言い切りやがった!!」
「東哉、あんたも飲まれて来てるわよ」
俺が斎からの厳しい指摘を受けていると、カールが続けて話した。
「さて、自己しょうかいもおわったコトだし……キミたちはどうしてココに来たんだい?」
「今頃!?…まぁいいや、聞いてると思うけど七瀬からここに行くように勧められたんだ」
俺は突っ込んでも仕方がない事を、精神的な疲れと共に悟る。
「あぁ、キミたちのコトか、連絡は来ているヨ。それで、頼みゴトってなんだい?」
「それなんだが、これについて調べて欲しいそうだ」
斎は俺の代わりにカールへ、このディスクにはパスワードがかかって見れないことや、プロテクトがかかっていることを伝えた。
斎からの説明を聞き終わったカールは、渡したディスクを眺めながら俺の方へ質問する。
「フーン……ところでコレは、本当に調べていいモノなのかい?」
その時俺はカールから威圧感みたいなものを感じた。
斎とポールは感じていないらしく、この威圧感を感じているのは俺だけのようだ。
「あぁ、大切なことが書かれているはずなんだ……頼む」
俺はカールの目を真っ直ぐに見据え、思いを伝える。
すると、カールから感じていた威圧感は急になくなり、さっきまでの元の調子に戻った。
「わかったネ、まっかせなサーイ。この、とうようのバルキリーと言われたわたし二」
カールは人差し指と中指を開いて右目のところまで持ってくると“キラッ”っと効果音が出てきそうなポーズを決めた。
(バルキリーって機体の方かい! そして、その気持ち悪いポーズは止めろ!!)
俺は本当にこいつに頼んで大丈夫か、一抹の不安を抱えるのであった。
大丈夫…なのか?