ダンジョンへと進むヘッポコ勇者
日も頂点を通り、もっとも照りつく時間が過ぎた頃。
俺の視線の先には港の方にタンカーが1隻と、いくつもの倉庫とコンテナが並んでいる。
高見原港区。
そこに俺は今来ている。
場所としては一学期に林間学校で来た宿泊施設の近くだ。
何故俺が今こんな所にいるかと言うと、それは昨日のカールとの話が関わっている。
カールの提案に乗った後、俺はカールに渡された資料を見てみたのだが、その資料には二つの事について記されてあった。
一つは、能力者を狩る専門部隊『ハウンド』について。
そしてもう一つは、ある建物の事が書かれてあり、その施設の場所・規模・侵入出来る所等が記されてあった。
何故この資料を渡してきたのかを聞くため、俺は資料を見ていた視線をカールへ向ける。
カールは俺の視線に気づくと、渡してきた資料の内容について説明をしてくれた。
「今渡した資料に書かれてある『ハウンド』だが何でも能力者限定の狩部隊らしい。その『ハウンド』などに捕まった人達が一時的に収容される施設が、何でもその施設なんだそうだ」
カールはそこで一度区切り、説明の為に資料へ向けていた視線を俺の方へ向ける。
「人を捜しているのならば、ここに行ってみたらどうだ? 『ハウンド』以外からも含め、世界中から捕らえ集められた能力者が一度ここに集められる。それから、各々の研究所などに送られているらしい。……まぁ、奴らはその事を゛出荷゛と呼んでいるらしいが」
その言葉を言っている時のカールの表情は、皮肉そうに歪められている。
何事かと再度顔を伺うが、その時には皮肉そうに歪めるその前と同じく彼のキャラクターらしくない引き締まった真面目な表情に戻っていた。
「東哉。噂されている話の中で高見原の地下を走っている、黒列車について知っているか?」
「ん? あぁ、もしかして高見原七不思議の『地獄列車』の事か。それなら知っているぞ」
さっきのカールの表情の事が気になっていた俺は、カールの急な話題転換に戸惑う。
身を持って知っている事であり、なおかつ忘れられない出来事に関しての事についてだったので、直ぐに返事を返せた。
俺の言葉にカールは頷き、続きを話す。
「目的の港区の倉庫だが、地下に大きなターミナルがある収容所で、そこがその黒列車の始発点らしい。そしてココがポイントだが、そこから黒列車が各研究所へ搬送しているらしい。次のページから始まる見取り図の三枚目を見てみろ」
その言葉に俺は驚き、カールへ反応を返せないでいた。
知らないうちに敵のルートを一つ潰していたと言う事もそうだが、高見原の地下の秘密の真実はとても大きい事に気付く。
口角引き攣りそうになるのを我慢しながら、俺はカール言う通りページをめくり指定された見取り図を見ながら話の続きを聞いた。
「………先に聞いておくが、東哉。お前の目的はなんだ? まさか、この規模が解らないぐらいの組織に喧嘩を吹っ掛けるつもりか?」
そんなつもりは一切ない。
何も解らないぐらい相手、解る事は相手は巨大な組織。
真正面から戦うなんてそんな馬鹿な事は有り得ない。
だから、俺はそれはないと首を振る。
「それならいい。………題だ。お前の目的が人探しならば、別にそこを壊滅や破壊し尽くさなくても良いはず。今回は資料に書かれている情報が正しいかどうかや、少しでも内部情報を収集出来ればいいんじゃないかと思うだが? 運が良ければ、今までに収容した能力者のリストが手に入るかもしれないしな」
カールはそう言って俺に向かって、不敵に笑った。
その話を聞いてから居ても立ってもいられなくなり、話を聞いたのが土曜日で次の日は学校も休みだった事もあり、俺は今日港区まで来ていた。
どうにか忍び込めないかと隙を探していたのだが、資料に書かれてある倉庫の入り口には見張りが配置されている。
しかも、その見張りから『励起法』を展開している時に感じる、能力者特有の波動を俺は感じ取り、見張りが能力者であることが分かった。
俺は溜め息を吐き、視線を倉庫から外した俺は、折りたたんで持って来ている『ハウンド』についての資料をズボンのポケットから取り出しその内容へ目を通す。
『ハウンド』の実態は基本的に『武』の為に他を犠牲にし『武』を、強さを求める様な能力者を中心とした隊員で構成されているらしい。
その隊員数は百人程度であり、能力者の全人口が人類の0.1%。
ほとんどの者が自身が能力者だと気づかずにいたり、確かな実力を持った能力者が少ない事を考えみて、むしろそれだけよく揃えたものである。
だが、絶対数が少ないからと言って安心する要素にはならない。
しかも、『ハウンド』の資料に付属するように、もう一つ重要な事が書かれてあったのだ。
それは、『パーツ』と呼ばれる者たちも『ハウンド』の様に普通の人間達に混ざって、警備を行っているとのことだった。
『パーツ』とは能力者の研究の結果、身体の一部のみが励起法の様に強化された者達の事である。
実験を行っていた研究者らの中では゛失敗作゛、゛出来そこない゛とも呼ばれていた。
しかし、その戦闘能力は純粋な能力者には劣るものの、普通の人間を軽く凌駕する実力を持っている。
普通の人間のみが相手なら、ある程度数が揃おうとも脅威ではないが、そこに『パーツ』や『ハウンド』の隊員が交ざっていればそれだけ危険度は格段に跳ね上がる。
能力者で『武』を追求しようとしている『ハウンド』の様な隊員は、何も格闘術を身に着けていない俺より強い事は簡単に予想できる。
しかもここは『ハウンド』によって捕まえられ、研究所等へ検体を送る為の重要拠点。
いわゆるハウンドの本拠地と言っても良い場所だ。
敵としてもここを発見されたり潰されたりする事は避けたいだろうから、ここにハウンドの人員が多く配置されていてもおかしくは無い。
むしろ、見張りもハウンドの隊員だと考えて間違いないだろう。
だからこそ、足踏みしてしまっていた。
現実はままならないものである。
どうにかならないかと倉庫の周りを見渡していると、俺はある一点で不審なモノを見つけた。
俺は見間違えではないかと思い、一度瞼を閉じてから再度見てみたのだが、それは確かにある。
しかし、自分の目を疑うのも仕方がないはずだ。
何故ならば、そこらに数多く置いてあるコンテナの一つから“金髪”が植木よろしく生えているのだ。
本人は隠れているつもりなのだろうが、余りにも場違いなそれは目立っているし、倉庫の方に向けられている視線は伺うを通り越してガン見している。
それこそアニメのキャラクターの、ト〇ー・〇ニー・チョοパーに並ぶ程のにバレバレだ。
と言うか、何故今だに倉庫の回りにいる従業員や警備の人間に、ばれていないのかが甚だ疑問に思う。
普通ならば放って置けばいいのだが、あの金髪が誰かに見つかりでもして最悪捕まれば、ただでさえ今でも厳重な警備が警戒されてより厳重になる上にこちらにとっても迷惑だ。
そこまで考えて俺は一つ大きい溜め息を吐くと、警備員達に見つかる前に金髪の所へ向かった。